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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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ピース

「我々も縢秀星を疑いました。ある程度まで辿りついているのですが、彼の行動の裏付けまでは至っていません。宜野座執行官のその情報は貴重ですね、征陸刑事」
 と、チェ・グソンがまとめた。
「宜野座執行官、縢の不可解な行動の裏付けは?」と征陸。
「残念ながら、そこまでは……子供なので、姿が見えなかったことを隠れられて見つけられなかっただけなのでは……と言われてしまい、それを覆すだけのものはなく」
「まあ、あちらさんも簡単に尻尾はださんだろうさ。で、こっちの情報だけどな……」
 と前置きをしてから要点をまとめて語り出す。
 まず、狡噛が忽然と消えたのは、別世界に飛ばされたためであること。
 目的は東金美沙子が元執行官で猟犬、今では狂犬並に戦闘をする狡噛の細胞を欲していたためであること。
 細胞は狡噛のクローンをつくるためであること。
 槙島の協力で、東金美沙子を捕まえ、また警察を動かすことができたこと。
 縢家と東金財団は約三十年ほど前から繋がり、さらに警察の上層部との癒着もあったこと。
 縢秀星はクローンで、秀星の父には人としての何かが欠落しているらしいこと。
 さらには二面性、もしくは多重人格者である可能性もあることなどを告げた。
 さすがの宜野座もそれほどとまでは思っていなかったらしく、感情と脳が追いついていないようだった。
 それはここに残っていた狡噛も同じである。
 しかし、狡噛は必死にその情報を脳内で処理し、ひとつの質問をしてきた。
「なあ、俺が飛ばされたのって……厄介払いか?」
「まあ、短く言ってしまえば」
 と、チェ・グソンは遠慮なく返す。
 さらに、
「公安としてもいつまでも狡噛を野放しにはできないでしょうから、戦闘に不慣れなあなたを身代わりにして処理しようと企んだ。どちらにとっても、狡噛を入れ替えることは好都合だったのでしょうね」
 と、追い打ちをかけた。
「遠慮がないな、チェ・グソン」
「おや、遠慮してほしかったですか?」
「いや、はっきりいってくれて助かった。だが、狂犬の狡噛のクローンを造ってどうしようと企んだんだ、東金美沙子は」
「忠実な兵士の大量生産に、狡噛の能力を入れたかったのでは? 交渉がうまくいかないなら力でねじ伏せてしまえ。とまあ、そんなところじゃないかな」
 とヘラヘラしながら槙島はいう。
「笑いながら言うことかよ、槙島さん」
 しかし、その態度が彼らしいと狡噛は知っている。
 そして、こういう局面だからこそ、そういうゆとりも大事なのだ。
 やっと情報処理を終えた宜野座は厳しい表情を崩さない。
「問題は山積みだ。証拠がなければどうにもならない」
「宜野座執行官の言うとおりなんだが、俺も刑事だからな、抜かりはない。縢秀星がクローンである証拠はある。彼の成長観察記録だ。また東金とこっちの公安上層部が繋がっている証拠映像もある。見る人がみれば、それはこの公安局内であることがわかるものだ」
 宜野座はその言葉を受け、朱をみた。
「常守もそれでいけると?」
「わかりません。でも、これ以上、別世界に介入、干渉するなという抑止力にはなると思います」
「まあ、執行官の俺では上層部に掛け合うなんて出来はしない。常守がいけると思っているのなら、それでいい。だが、東金朔夜の件は?」
「それだけは、こちらで捜査するしかありません。元々はこちらの東金朔夜の細胞をから造りだしたものだと思うから。だから、私は正々堂々と動かなくてはならない。宜野座さん、須郷さん、私を発見したことにして公安に戻ります。情報提供があったことにしましょう。ここから公安までは元執行官の狡噛慎也に霜月監視官のホロをまとってもらい演技をしてもらいます。公安に入ったら本物の霜月監視官と入れ替わり、そして私とふたりて禾生局長に報告しにいきます。狡噛さんには別のホロを用意しますので、公安の中で身を隠してください。頃合いを見計らって国外へでてもらいます。私が正式に復活したのち、あなたがた三人を迎えにきますので、ここに隠れていてください。ええっと、雛河くんも聞いているのよね。そういうことだから、大人四人分のホロ作成をお願い。とくにひとり分は急ぎで。全員が公安内部に集まったら、縢秀星と東金朔夜を追い込みましょう」
 気迫ある指示に、場の者たちは息を飲む。
 それくらい、朱はこの一連のことを許せずにいた。
「常守……」
 呼ばれて振り返ると、肩に軽く宜野座の手がかかる。
 しかし、呼ばれた時の声は、宜野座ではなく狡噛だった。
 今更、なにが言えるだろう……狡噛がわずかに躊躇したのをみた宜野座が狡噛が口にしたがっただろう言葉を汲み取る。
「ひとりで抱えるな、常守。これはそれぞれの世界をあるべき姿に戻すための戦いだ。それに、縢の件だが、なんともいえない気持ちなのは、おまえだけじゃない」
 六合塚や唐之杜はどう思っているかわからないが、宜野座はなんとなく縢はもういないと感じ、朱は彼はもういないことを知っている。
 それでも、縢秀星と同じデータを持つ彼の存在はイレギュラーであっても嬉しい存在だった。
 別の世界で縢秀星は生きている。
 彼が生きたかっただろう年齢をこえて生き続けてくれていることを願ったものだった。
 だからこそ、あるべき世界に帰してあげようと必死に動いた。
 クローンであるくらいならまだいい。
 だけど、自分の大切な人たちを危険に晒し、悪事に加担することは許せない。
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