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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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常守朱の帰還

 朱の作戦通り、公安局に戻ることができた。
 すぐに禾生局長に呼び出しを受ける。

※※※

「自力で脱出した、そういうことかね、常守監視官」
 八方塞がりで進展のなかった朱拉致事件が急展開、そして生還。
 あまりの展開にさすがの局長も疑いの眼差しを向けてくる。
 情報を得て急行した霜月監視官に対しても、
「どういう経緯で発見に至ったのかね。情報提供とは、どういう流れで得られたのかね」
 と、容赦のない問い詰めがされる。
 言葉に詰まり、弱腰気味だった霜月美佳は、なにかを閃いたようで、一文字に閉じていた口を開く。
 彼女がなにを言うのか、朱には想像できないが、彼女のことだ、彼女自身が不利になるような言い方はしないだろう。
「あの、それは宜野座執行官が……」
 と、美佳は切り出す。
「宜野座くん? 彼はもう監視官ではなく執行官だ。独自の捜査はできないはずだが?」
「私が同行しています。捜査中、監視官だった頃に情報を流してくれていた人物と偶然遭遇して、頼んだのです。私が許可しました。結果的に常守監視官が無事戻ってきたのですから、過程は不問でよいのではないでしょうか」
 なかなかうまい切り抜け口を見つけたようだ。
 だが、禾生局長はその説明を鵜呑みにするほど愚かではない。
「私の記憶では、宜野座くんはそういった捜査をするようなタイプではなかったはずだが?」
 宜野座とともに監視官として働いた朱も、あの頃の彼はそういうタイプではないとわかっている。
 そういう捜査をするとなると、征陸さんか、狡噛、そのふたりの名前なら禾生局長も疑いを抱きつつも納得はしてくれただろう。
 監視官時代の宜野座を知らない美佳に、これ以上の説明は無理と判断した朱は、
「それは私が指示しました」
 と口を挟んだ。
「どういうことかね、常守監視官」
「私はかつて、征陸執行官、狡噛執行官とともに捜査にあたったことがあり、一般の情報屋から情報収集をするという昔ながらの捜査方法を知りました。刑事の視点ではない視点からの情報も重要と感じたからです。私は今回の一連事件を捜査中に、なにか想定外のことに巻き込まれた時のための保険をかけました。顔見知りの情報屋に何かあれば宜野座執行官に……と話しましたので、どこかで私の件を聞きつけ、宜野座執行官と会うべく行動をしたのだと思います。征陸執行官たちが使っていた情報屋との引継でしたので、彼らとつきあいの長い宜野座執行官が実際に情報屋と取引をしていなくても、面識はあったはずです」
「ほう、なるほど。常守監視官発見に至るまではわかった。だが、常守監視官。拉致されていた間の記憶が曖昧すぎないかね?」
「誰だって、突然拉致されれば気が動転します。それに、常に暗闇の中にいたので、どこに捕まっていたかなどはわかりません。ただ、拉致をした男の声、姿はしっかりと覚えています。モンタージュ作成には協力いたします。刑事課に配布し、指名手配します」
「……ふむ。一係は失態続きだからね、その件が解決してこその挽回だということを、肝に銘じて置くように。それと、行方不明となっている狡噛慎也のことだが、あれはこちらで対処することになったから、もう手を出さなくていい。一係は常守監視官の拉致事件犯人確保に全力を注ぐように。わかったら、さがってすぐに対応したまえ」

※※※

 局長室を出て、刑事課のある階にいくエレベーターを待つふたり。
 沈黙を破ったのは、以外にも霜月美佳だった。
「先輩。この後のこと、どう考えているんですか? 私、これ以上、厄介なことに巻き込まれるのはイヤです」
「……霜月さんの気持ちもわからないわけじゃないわ。だけど、自分が安全であればほかがどうなってもいいとは思いたくはないの。たとえそれが別世界のことであっても」
「先輩……、私だった真犯人をこのままにしていていいとは思っていません。でも、なんとなくこれ以上深入りするのはよくない、そんな気がするんです」
「無理しなくていいわ。危険と思ったら、自分を優先してもいい。もう少しだけ協力をしてほしいというのは、無理なお願い?」
「べつに、やらないとは言ってません。これから、どう動くんですか?」
「縢くんと東金朔夜、ふたりと直接話すわ」
「先輩」
「なに?」
「東金朔夜には気をつけてください」
「ええ。十分、危険だと認識しているわ」
 エレベーターに乗り込み、ふたりは刑事課一係までともであったが、入り口付近で朱は分析室に行ってくるといい、美佳と別れた。

「朱ちゃん! 無事な姿を見るまでは、お姉さん、もう心配で心配で……」
 唐之杜がいつもの調子で迎え入れてくれる。
 かしこまられたり、気を遣われたりするよりはるかにいい。
「この通り、無事に戻れました」
「それで? 別の世界はどうだったの?」
「こことはまったく違う世界でしたけれど、あの世界にもいいところも悪いところも……シビュラの恩恵のありがたさを感じることもあれば、あちらの世界が羨ましいと感じることも。結局、ないものねだりなんですよね」
「ま、世の中なんてそんなものよね。満足、文句のつけようがない理想の世界なんて、存在しない。不自由や理不尽さを感じながらも、その中でどうやったら楽しめるか、それを探しながら生きていくのが人の運命ってところかしら?」
「唐之杜さん、かっこいいこと、いいますね」
「あら、誉めたって特別なものなんて出てこないわよ」
「でも、お願いした件はやってくれましたよね?」
「それはもちろん」
「どうでしたか?」
「二面性、多重人格の可能性ね……秀ちゃんがパパと言った時の人格はあれ以来でていないのよ。ずっと東金朔夜のまま。でね、秀ちゃんに、あの人は誰って聞くと、しらない人っていうの。だからね、パパは見間違えじゃないのって聞いたら、そんなことないって拗ねられちゃって」
「ひとつの人格だけがずっとでているってことはありえるんですか?」
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