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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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野心

 言葉を濁す征陸に代わり、チェ・グソンが宜野座の質問に答える。
「では私が代わりに。あの方は人間というものにとても興味をお持ちでしてね。こういう時、人はどう考え動くだろうとか、人が人らしく生きていける世界とはどういうものだろうかとかね。だから、別世界にはとても興味を持ちましてね……そして、実際に行かれたそうですよ。どの世界に言ったかまでは存じませんがね。その世界に住むもうひとりの自分の姿をご覧になり、思うところがあったそうです。それが組織設立の理由だとか。いつか満たされた時にその答えがわかると仰ってましたが、あの方の考えを汲み取り理解できる者は、別世界のあの方以外、いないのではないでしょうか。だから、こちらの世界のあの方が亡くなった時はかなり落胆されましてね。それで、あちらの世界にいる狡噛さんを捜すように指示をいただきました。きっと、彼なら自分を理解してくれるはずだと。過程はともかく着眼点は同じはずだと。相手の懐に入るのを得意としていましたから、政府を抱き込み、東金にすり寄り、資金調達、別世界に行くための技術などを得るのは思いの外簡単でした。一企業が単独で成功させたのは我々だと自負しております。その結果、警察に目を付けられ追われることになったのですが、私たちだって別世界に干渉していいとは思いません。ですが、その世界のよいところは学び、悪いところは見直し、自分の住む世界に反映させるのは悪いことと思いません。誰だって、自分の住む世界をより住みやすくしたいと思うものでしょう?」
「だからってな、一般人が踏み込んでいい領域を越えすぎてはいないか?」
「刑事さんの言いたいこともわかります。ただね、人は平和に慣れすぎると、今のでいいではないかと消極的にもなってしまうものです。変えたくてもそんな力はないとあきらめてしまうものです。そんなことはありません。変えたい気持ちがあれば誰でも力になるのだということを、我々は証明し続けてきました。神の域に入ろうとか、神を越えようなどとは思っていません。人は限りある命の時間を精一杯生き、そして最期の時に幸せだったと満たされ肉体を離れるのが理想なのです。人生を振り返り、苦難もあったが楽しい人生であったと思いたい。ですから、長寿には興味ありませんし、ましてクローンなど、論外です」
「東金を敵視しているのはそれが理由か」
「もともと、設立に至るまでの利用価値しかありませんでしたけれどね」
「たしかに、クローンはダメだ。以前の記憶を引き継ぐ技を得るのはクローン以上に論外だよ」
「ああ、やはり。東金はそれも得たのですね。それはここの東金から得たモノでしょうね。厄介ですね。もしかして、あの東金朔夜は……」
「可能性はなくもない」
「興味深いですが、私では対処できない案件のようで。今回は触れない方が賢明のようです」
 チェ・グソンと征陸の会話に宜野座が割り込む。
「おまえたちの思惑や思想はどうでもいい。それはこっちの世界には関係ないことだ。戻ってから好きなだけ議論をすればいい。結局のところ、なぜこの世界は巻き込まれた? あんたたちのいう、あの方っていうのが糸を引いているんじゃないのか?」
「イヤですね、執行官どの。話を聞いていましたか? 我々の組織は東金を軽蔑しています。その東金を操りひと騒動なんてありえません。あの方の美学に反します」
「あの方、あの方……まるで俺たちに聞かせたくないから隠しているようだな」
「ええ、その通りですよ。こちらの世界でその名を口にするのはタブーですからね。それも、あの方のご配慮なんですが、どうしても知りたいというなら、言ってもいいですよ? おそらく、常守監視官は勘づいているようですが」
 チラリと朱をみた。
「ええ、最初は確証がなかったけれど、狡噛さんを捜したってあたりから、なんとなく。私に気を遣っているのなら無用よ。堂々と名前を口にすればいいわ。個人の感情と事件解決は別物。それくらいの切り替えはできる。そこまで分別がないわけじゃないわ」
 朱に気を遣っている、そこで宜野座も唐之杜も六合塚も気づく。
 あの方が誰なのかを……
 そしてあの方の名を知ることで私情が絡みそうな人物がもうひとりいるが、その本人はまだわかっていないようだった。
 朱に対しての後ろめたさ、東金朔夜以上にタブーな存在がいたことに動揺する。
 その動揺を隠すことが先決だった。
「そうですか。そうまで言われるなら、こちらも遠慮せずに言わせていただきますよ。あの方、槙島聖護さんとね……!」

 マ キ シ マ シ ョ ウ ゴ

 それぞれの脳内にひと文字ひと文字がゆっくりとインプットされていく。
 そしてあいつがここにいなくてよかったと宜野座は思った。
 チェ・グソンは槙島の名を口にした瞬間から、一係、とくに朱の様子を直視した。
 動揺は無意識に表面化する。
 とくに平静を装うと思えば思うほど。
 しかし、朱からは動揺が見えなかった。
「むしろ恐ろしいと感じますよ、私は。ただ、賛辞の言葉としてさすがですとだけ言っておきましょうか。ほかの方々は、まあ、想定内の反応ですが、大丈夫ですか?」
 槙島に並々ならぬ執着心を持っていたわけではない。
 ただ大事な同期を奪われたという感情はある。
 宜野座は憎しみより別の感情が奥底にあることを知った瞬間だった。
「見くびらないでくれ。それくらいのコントロールはできる。むしろ、俺としては征陸をみた瞬間の驚きほどではない」
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