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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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変身する男

「変身する人間とは興味深いですね」とチェ・グソン。
「昔、読んだ本でそういうものがあったような気がします。定番は満月を見て変身するパターンでしょうか。男がオオカミに変わるというやつです。現実的にそれができるとなると。ひとつお伺いしててもいいですか?」
「ええ、いいわ」
「それは短時間で? たとえば一瞬であったり、ゆっくりであったり」
「時間の感覚は人によって誤差があると思います。それをふまえ、私が感じたのは一瞬ではありません。ただ、ゆっくりでもないです。たとえるなら、上着を一枚脱ぐくらいの時間、だったと思います。目の前で確実に見た目が変わりました。ホロで隠すというのとは明らかに違いました。あなたの知りたい答えになっていますか?」
「十分ですよ、常守監視官。あなたはとても聡明な方だ。変身というよりは変貌といった方が近いかもしれませんね。となれば、どんなカラクリなのかとても興味深いです」
 チェ・グソンは事件そのものより、人の姿が変わる現象に興味津々のようだ。
 場にいる面々の興味はそれぞれ違うだろう。
 中でも事件そのものに疑問を抱く者のひとりが声をあげる。
「なにを悠長なことを言っている!」
 視線が声の主を捉える、声の主は宜野座だった。
「問題はドミネーターは東金朔夜だという。だが、今、目にしたのは、縢秀星の父親だ。父親をみた者は少ないんだろう? 秀星が父親だというからそうなんだと俺たちは認識した。ということは、東金朔夜が秀星の父親。対立関係にある東金と縢、それらが実は親戚関係になっていたって、あんたたちの世界にとっては重大なことじゃないのか? そしてこっちの世界もそうだ。なぜ別世界を巻き込む? 俺たちは不満がないといったら嘘だが、それなりにシビュラの支配に納得をしているところがある。これはこれで、こういう生き方も悪くはないと思うところもある。かき乱さないでほしい」
 どの世界で生きたとして、不満がなくなるわけではない。
 人の欲は無限大、ひとつ満たされれば、さらなる欲を満たしたいと思う生き物だ。
 監視されるのはイヤだが、だが、先行きがわからない未来を自分たちで決めなくてはならないとしたら、それはそれで恐怖なのだ。
 失敗という結末は迎えたくない。
 であれば、シビュラの支配下にいた方がいい。
 なぜなら、シビュラの判断に間違いはないからだ。
 それは、この十数年で実証されている。
「ギノ、この世界を巻き込むことになったのは、悪かったと思う。だが、これだけの被害で済んでいるということをわかってほしい」
「……どういうことだ、狡噛」
「それは、とっつあんの口から説明してもらった方がいいな。そうだろう、とっつあん」
「……そうだな。実はな、俺は警察の者で、いわゆる刑事という仕事をしているが、特殊な部署にいてな。俺たちの世界は別の世界にいく技術を得た。最初は限られた者たちだけの特権だったんだ。警察と政府が認め、管轄下にあることで、一部の金持ちの娯楽でしかなかった。だから、庶民にとっては夢の世界でな。たとえるなら宇宙旅行ってやつだ。実際、ここの世界では実現化していないが、実現化している世界もある。その世界は宇宙旅行を実現化したが、別世界へ行くことは実現化していない。ようするに、人間の欲、願望をすべて実現化している世界はないってことだ。だがな、人の欲っていうものは無限で底なしだ。別世界に行った金持ちは見てしまったんだよ。こっちの世界では得たい願望が実現している。この知識を持って帰れば自分の住む世界で実現できるんじゃないかってな。もともとないものを無理矢理持ち込む、別の世界で知識を得るってことはもともとの流れに反することだ。時間や時空の歪みがでて、それがどう表面化してしまうかわからない。自分たちの住む世界の秩序を守るのが最優先だと感じた政府は、警察の限られた者たちにだけ特権を与えた。定期的に別世界に行き、別世界の人間が入り込み関与していないか調査せよってな。そうして設立されたのが、俺のいる部署だ。通称パラデカだ。バラレルワールドの捜査に特化した部署。ここでいう監視官のように、限られた者、精鋭部隊ってところだ」
「ちょっと待て」と宜野座。
「その話が真実だとして、別世界に行けるのは限られた金持ちと刑事だけなんだろう? 以前ほどの自由度がないように聞こえるが、狡噛たちは自由に行き来しているようだな。狡噛のいる組織は政府容認なのか?」
「いや、どちらかといえば非容認だ。警察は重要視して危険な組織として認識、彼らがどの世界に行き、どう関わったかを長年調査している。なかなか尻尾を掴ませないんだが、今回はがっつり掴ませてもらった。俺が指示を受け動いている身であれば、逮捕だな。だが、今回は彼らの強力なしでは元の世界に戻る方法がない。だから停戦、共同作業という妥協をした」
「狡噛たちはいったいなにをしている組織だというんだ」
「ひとことで言うのは難しいな。本人たちに言わせれば、人が人らしく暮らせる世界の創造らしいが」
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