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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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人間とは

「たしかに、それはそうかもしれませんね。ちなみに、私のいる世界ではあなたがたは親子ではありませんよ。宜野座信元がなにをしてどう生きているのかは知りません。興味があるなら調べておきますが?」
「いや、いい。俺は俺で、別の世界の俺がどう生きているかなど興味はない。ただ、どの世界の俺も、納得のいく生き方をしていてくれたらと思う」
「そういうものですか?」
「どうだろうな」
「ちなみに、人は生まれながら罪人であり、悪の塊としてこの地上に生まれるのだそうですよ。人は誰に教えられてもいないのに悪事だけはできるのだそうです。本能のままに生きる人こそ罪人なのかもしれません。そしてより悪事に長けている人こそ、人の中の人、最高の人なのかもしれない。善人として生きている確率の方が低いと思った方がいいですよ」
「それは、おまえたちが別の世界でみた自分の姿なのか?」
「実は私も、別の世界の自分にはあまり興味がなくてですね。ああ、でも、この世界の私がどう生きたかは知っていますよ。この世界でも槙島さんとともにあったことを光栄に思っています。思いは繋がるものなんでしょうね。たとえば、こちらの槙島さんと狡噛さんは分かり合いながらも敵対した。相手の思考・行動がわかるくらい似ているのに並んであるくことはできなかったのに、あちらではともにいる。ほんの少し、なにかが変われば関係はよくなるのでしょうね。なので、あなたも征陸さんの近くに存在しているかもしれませんよ」
「どうかな。俺は親父とは上手くやれていなかった。やっと理解できたと思ったときは遅くてな……なんて、そんな話をしている場合じゃないだろう」
「ええ、まったくです。でも、脱線したわけではありませんよ? 人は罪人であるからこそ、学ぶのです。歴史に、そして自分の経験に。それでもなお、悪事に荷担するのはなぜでしょうね。そういう者は、根底から違っているのです。悪事をしているという認識がない。なぜなら、許されるからです。東金は……とくに東金朔夜は。その東金朔夜の記憶を引き継いだクローンがいるなんて、ゾッとします。もし、大量生産でもされたら……そこで、提案があります」
 チェ・グソンの視線が朱をみた。
「二手にわかれて捜査をしませんか? 二手とは、こちらとあちらの世界です。必ず元の世界にお帰しいたします。単独で戻ることのできない、狡噛さんをこちらに残します。警察の情報がほしいので、征陸さんには一緒に戻っていただき、縢秀星と東金朔夜もここに残します。代わりに、監視官と執行官のひとりが同行してください」
「その利点はなんですか?」
「原因はあちらの東金財団と縢家です。こちらの世界だけでは解決できないでしょう。あちらで捜査をし、証拠を集めます。その上で、こちらの方を片づけるのが賢明かと」
「東金朔夜をここに残して大丈夫ですか?」
「目を覚まさないよう、眠らせておけばよいでしょう」
 簡単なことですよね? とチェ・グソンが唐之杜をみた。
「できないことはないけど、薬を使うし、あとで人権問題とかいやよ?」
「支障のない程度でお願いします、唐之杜さん」
「それって、朱ちゃんが責任を餅ってこと?」
「はい」
「あ、今の会話、録音しちゃったから。証拠ってことで。それで、朱ちゃんがあっちに行くの?」
「そうですね。できれば私はこちらで調べたいこともあるのですが」
 と、霜月監視官をみる。
「先輩、その調べ物は私がやります」
 と、自分が残るからと主張返しをした。
「常守が行くなら、同行する執行官は俺がいく」
 と、宜野座が自ら挙手する。
「征陸さんも一緒だけど、いいの?」
「……っう。俺としては狡噛といるのも同じだ」
 どちらも苦痛でしかないなら、朱に同行した方がいいと考えたのだった。
 だが、
「宜野座さんには霜月監視官の補佐をお願いします。同行する執行官は須郷さんにお願いします」
「なんだって?」
「経験のある執行官を残したいから。監視官だったころの経験も必要になると思うから。お願い」
 そうまで言われてしまうと無理強いはできない。
「仕方ないな。それも一理ある。須郷、常守のこと、頼んだ」
 軽く須郷の肩に手を置く。
「任せてください。なにがあっても、調査結果と常守監視官はこちらの世界に帰します」

「それで常守、上にはどう報告をするつもりだ?」
「それなんだけど、私が拉致されたことの報告は?」
「いや、していないだろう。執行官にその権限はない。霜月がしていないなら、していないはずだ」
 と、美佳をみた。
「し、してません。しているゆとりもありませんでしたから」
「そう。では、霜月監視官、私が別世界に行ったら、すぐに報告してください。そうね、捜査をしやすくするためにも、東金朔夜に拉致されたとでも言って、公安あげて東金財団を捜査できるようにして。死人に拉致されたという不可思議な事件の捜査になるわけだから、どんな捜査をしても捜査方針に意義はでないと思う」
 朱には思うところがあった。
 おそらく、シビュラはざっくりと別世界との関係を知っていたのだと思う。
 そもそもシビュラはどういう経緯、発端で進み実行したのだろうか。
 シビュラの元となった知識が別世界のものだとしたら?
 東金財団のやっていることを黙認していたら?
 一度感じた疑問は二度三度と考えさせられるものだった。
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