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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

現る!

 分析室に静けさが漂う。
 その静けさはとても不気味でしかなかった。
 扉が開いた形跡はない、だが、わかる。
 なにかとてつもない者がそこにいる!
 一瞬、狡噛の目がなにかを捉えた。
「チェ・グソン、後ろだ!」
 狡噛が叫ぶと、チェ・グソンが半身分だけ横に移動する。
 すると肩の横からヌッと腕が出た。
 まるでチェ・グソンの腕が三本あるかのように見える。
 ヌッとでた腕は狡噛の後ろにいる縢秀星を掴もうとしているようだ。
「させるか!」
 狡噛が相手の腕を掴んだ。
「いつまでも隠れてんじゃねぇ!」
 力一杯引っ張ると、見知らぬ男の姿が現れた。
 てっきり東金朔夜だと思っていたチェ・グソンは「あれ?」と拍子抜けしたような声をだす。
 続いて狡噛も「だれた?」と聞こうと声を出そうとしたが、思いもよらない者の声で遮られる。
「パパ!」
 狡噛の背後で声がして、縢秀星が前に出た。
 すでに女装のホロ姿ではなく、本来の縢秀星の姿になっていた。
「秀星、無事だったか!」
 相手の男も秀星のことを知っている、これは間違いなく父子なのかもしれない。
 だが安心はできない。
 息子に近寄ろうとした男の前に狡噛が立ちはだかり、秀星を背後に隠す。
「おまえは誰だ?」
 狡噛が問う。
 その問いに答えたのは秀ちゃんだった。
「パパだよ」
 ほんとうかという目で男を見ると、小さく頷く。
「そうなのか、チェ・グソン」
 第三者の証言がほしく、チェ・グソンに問う。
「すみません。縢家は特殊で、実はあまり。それに確か、その子の父親は婿養子だったはず。複雑な一家ですからね」
「そうだったな。じゃあ質問を変えようか。常守監視官はどこだ?」
 男の顔色がわずかに変わる。
「そこにいるのか? それとも東金朔夜に脅されているのか? だから言葉を発せられないのか?」
 探るように問う。
 狡噛が探りを入れている時、須郷はドミネーターを静かに構えていた。
 標準は突然現れた男。
 そしてドミネーターが表示した人物を見て驚く。
 だが、二度の失敗はしたくない。
 ドミネーターの表示を信じ、須郷は引き金を引いた。

 子供の泣き声、それと同時に聞き覚えのある声が響く。
「雛河くん、この男を拘束! 唐之杜さん、秀ちゃんのこと、お願い。目の前で父親が撃たれたの、精神面のケアを」
「任せて。それより、よく無事で……おかえり、朱ちゃん」
「……ご心配おかけしました。理解できないことも多々ありますが、得られた情報もあります」
 それから須郷に近寄り、
「ありがとう。今の彼なら犯罪計数が低いはずだから、あなたなら撃ってくれると信じていたわ」
「……常守、監視官。これは、いったい、どういうことですか?」
「あなたが混乱するのも無理ないわ。私もまだ理解しきれない。どうやら、もっと踏み込んで聞かなくてはならないみたいね。それに、はじめましての方がいるみたいね」
「……はじめまして、チェ・グソンといいます。無事でなによりです。狡噛さんと同じ組織の者です。わけあって、侵入させていただいてました。まあ、こちらの世界の仇となるようなことはしていませんのでご安心ください。それと、こちら側の世界の者たちが迷惑をかけてすみません。早く収束するよう尽力しますので、お見知り置きを」

 その後、朱が無事に戻ったという報告を受け、宜野座たちが一旦撤収をして戻ってくる。
 縢秀星の父親と名乗った男はそのまま拘束したまま眠らせておくことにした。


※※※

 朱を見てよかったと安堵する宜野座、美佳もなんだかんだと朱の無事を喜ぶ。
 征陸も至らなかったことを詫びながらも、ことの次第の説明を求めてきた。

「征陸さんは、秀ちゃんの父親と面識はあるんですか?」
「直接はないが、資料などで目にしたことはある。あの顔は間違いない」
 すると須郷が信じられないという顔をして問う。
「なにかの間違いだ。もしくは、あれはホロではないのか?」
 今度は雛河が言葉を挟む。
「あれはホロじゃない。人間そのもの」
「では、整形でもしているのか?」
 整形をした場合、ドミネーターはどう反応し示すのか、須郷はわからない、
「それについては私から説明するわ」と唐之杜。
「整形をした時点でデータは書き換えられることになっていので、潜在犯が整形をして隔離から逃れるってことはできないはず。でも、違法な医療で整形をしたら、わからないかも」
「では、あの男は違法な医療で姿を変えたというのですか。あれは東金朔夜です!」
 場の視線が須郷に集まる。
 唯一、朱だけがそれをしなかった。
「常守は知っていたのか?」
 朱の様子に気づいた宜野座が問う。
「ええ。偶然。私を拘束した人は映画館のスタッフ、でもあれはホロで姿を変えていたものだった。ドミネーターには東金朔夜と出た。間違いなく、スタッフのホロを使っていたのは東金朔夜だったわ」
「東金を見たのか?」
「はい、みました。そして、東金朔夜が、あの男に変わっていく仮定も……」
「変身をするだと?」
 信じられないと声をあげたふたりの来訪者の声が重なった。
 チェ・グソンはひとりなにかを考えている。
 こちらの世界で東金財団といえば医療に特化していた。
 整形くらいならお手の物だろう。
 しかし、まったく別人に姿を変える、それも骨格すら変えるようにものを医療でどうにかできるものなのだろうか。
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