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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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めくらまし

「まだ入り口は閉じられていない。東金朔夜はまだこの世界にいる。だが、解せないな」
「なにがだ」
 征陸の抱く疑問に宜野座が問う。
「すべてを言わすな執行官。あの時、たしかにスタッフのひとりが嬢ちゃんを人質にした。ドミネーターってやつを構えた執行官の前に嬢ちゃんが立ち、撃つの撃たないので言い合っている間に連れ去られた。が、それだけのことが起きているのに、周りは無関心。なにかのパフォーマンスとでも思われたのかしれないとあの時は思ったが、対応したはずのスタッフの記憶にないことを自分たちは経験している。それはどうしてだ?」
「どうって……わかれば聞き返したりはしない。こちらは情報不足だ。そっちの世界のことを知らなさすぎる。だがそっちはこちらの世界のこともそれなりに知っている。情報量が違うんだ、同じように考えられるはずがないだろう」
「まあ、一理あるな」
「だったら……!」
「ああ、そうカリカリしなさんなって。説明しないとは言っていない。ただ、ちをっとコウとチェ・グソンと確認したいことがある。それはこの通信機で可能なのか?」
「いや、通信は一係の者としかできない仕様のはずだ。俺が連絡をするから、少し待て」

「宜野座だ。唐之杜、そこに狡噛かチェ・グソンはいるか?」
「いるけど、なに?」
「ちょっと呼んでくれ。確認したいことがある」
「……だそうよ。こっちに来て、話してちょうだい」
 と唐之杜の声がしてすぐに、狡噛の声がでる。
「ギノ、なんだ?」
「狡噛か、ちょっと待て。征陸が聞きたいことがあるそうだ」
 宜野座が征陸の近くによる。
「コウ、聞こえるか」
「ああ、どうしたとっつあん」
「結論を先にいうとだな、入り口は閉じてなかった。東金朔夜はまだこっちの世界にいる。だがな、数刻前の一件を知らないと言われた、ここのスタッフに。目の前で拉致事件が起きていた時も無関心だったことに違和感があったが、そもそも、本当は起きていなかったと仮定すれば納得できる。俺のいいたいことがわかるか?」
「別空間ということか」
「ああ、それだ。その昔、術者が使っていたと言われていた結界とかいうやつな。あれ、復元できているのか?」
「結界の復元、つまり術者の育成ってやつだな。警察はしていなかったのか?」
「その口調から察するに、そちらの組織ではいろいろやっていたようだな」
「ああ……待て、これ以上は俺の独断では無理だ。チェ・グソンに替わる」
 入れ替わるように、チェ・グソンの声がする。
「話は聞かせていただきました。結界の件ですが、あの方はあまりそういったものには興味がありませんでしてね。率先して復元、もしくは育成しようとはしませんでしたよ。経費も出していませんでしので。ただ、その子孫の方は居りましてね。護身にも役立つからと個人的に教えてはいたようです。どれくらいのものであるとか、実践的にはどうなのかはわかりかねます」
 結界とはなんだと宜野座は喉まで出掛かるが、押し戻す。
 ここは黙って聞いていた方が情報を得られると判断したからだ。
 だが無関心の美佳はなまくらなあくびを繰り返す。
「その者ができる結界を別の組織でも使える者がいる可能性は?」
「……あるのではないでしょうか。もしかして、征陸さんは、別空間、つまり結界の中で行われたことであると? 結界が使えるなら、身を隠すのも簡単。財団に助けを求めることも、急ぎ元の世界に戻る必要もない。理屈は通っていますが、それだと、常に我々の近くに潜んでいるともいえますね……ふむ、そういうことですか。狡噛さん、縢秀星から目を離さないでください。それから、あなたがたはそこを死守してください。のちほど、こちらから連絡をいれます」
 とだけいうと、通話が切れた。
「おい、征陸。どういうことだ!」
 チェ・グソンは確かになにかに気づいていた。
 それを説明せずに強引に通話を遮断。
 チェ・グソンの意図がわかったのだろう、征陸はなにもいわずにいる。
 それが宜野座には気に入らなかった。
 ここは自分たちが生きている世界で、大切な人が拉致られてもいる。
 なのになぜ蚊帳の外に追いやられてしまうのか。
「だから、そうカリカリしなさんなって。説明はする。とりあえず、俺たちはここを動かない」
「それは通話の内容でわかっている。にぜ動かない。あいつはなにに気づいた?」
「それゃ、縢秀星の危機だろうさ」
「なに?」

 危機を察したチェ・グソンは……


※※※

「分析官どの、ここの進入を阻止できますか?」
「無理よ。だって私、潜在犯だもの。そんな権利も自由もないわ」
「そうですか。ではご自分の身はご自分で守ってください。代わりに、縢秀星はうちの狡噛さんが必ず守ります。それと、そちらの執行官方、東金朔夜が出たら撃ちなさい。監視官がなにを言っても撃つことをおすすめします。そうしないと監視官を取り戻せないかもしれません」
 チェ・グソンの視線の先には須郷がいた。
 須郷はチェ・グソンを見据える。
「同じ失敗は繰り返さない」
 すごみのある声でそう返した。
 だが、置かれた状況を理解しているのはチェ・グソンと狡噛のふたりだけである。
 唐之杜はもちろかだが、雛河も須郷も理解できていない。
 ただ、ただならぬ事態になるのだろうということは感じていた。
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