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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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入り口

 この世界の狡噛ではないとわかっていても、「監視官」と呼ばれると共に事件解決に挑んだ時のことを懐かしく思ってしまう。
 朱を監視官と呼ぶ狡噛を見た宜野座もまた、まだ自分が監視官であった頃。裏切った友を許せないと思いながらも見限ることができなかった自分を思いだしてしまう。
 まったく厄介な案件だ……宜野座は内心そう思う。
 ならば、早く解決して帰ってもらうのが一番だ……と気持ちを入れ替えた宜野座は、立ち止まっている朱の背中を軽く押した。
「行くぞ」
 横をすれ違うわずかな間に、宜野座の声が耳に入った朱は、踏み出した足に力を入れ、さらに後ろに蹴り出すのだった。

 施設内に入り、館内の案内図を取り込み、全員で共有する。
「トイレの位置はすべてこれを見ながら確認、チェックしていきます。征陸さんと狡噛さんは別行動になっても関知することはできますか?」
 朱の問いに答えたのは征陸だった。
「嬢ちゃんのいう関知ってのは、入り口のことだな。それは問題ない。二手に分かれるってことか。賢明だな。どう分かれる?」
 朱はどちらについても問題はないと思っている。
 問題は宜野座だ。
 どちらの方が平常心でいられるだろうか……チラリと宜野座をみれば、面倒くさいとでもいいたそうな顔をしていた。
「では、私と征陸さん。秀ちゃんはこっちで。宜野座さん、狡噛さんをお願いします」
「……了解した」
 不満であるが、どちらについても不満であることには変わりはない。
「頼りにしているぜ。ギノ」
 宜野座の心知らずなのか、あえて煽っているのか、狡噛の態度は馴れ馴れしい。
 そんなふたりの様子に気づかない素振りを見せながら朱は話を続ける。
「宜野座さんは屋上から、私たちは地下から確認していきます」
「了解した」
「おい、コウ。執行官殿を振り回すなよ」
「とっつあん、あんたこそ、歳なんだ、無茶して監視官の足を引っ張るなよ」
 互いをいじり、そして笑うふたり。
 こんな現状でも緊張感というものが欠けている。
 朱たちの方が顔が強ばり緊張が増す。
「なあに、そう緊張しなくたって大丈夫だろうさ。ざっくりとだが、我々以外の気配は感じない」
 征陸のいうように、言われてみればそうなのだ。
「そうですね。緊張は見落とさないようにする方に神経を注ぐべきでしたね」
「まあ、そういう緊張も度がすぎると見落としにつながる。リラックスだよ、リラックス」
 そういいながら征陸が先に歩き出す。
 朱は秀ちゃんの手を握り、その後に続いた。
「さて執行官どの、俺たちも行くか」
「待て、その執行官どのっていうのはやめろ」
「ギノって呼ばれるのも嫌なんだろう?」
「わかっていて呼んでいたのか。普通に呼べばいいだろう、宜野座と」
「だから、宜野座っていい難いんだよ。じゃあ、やっぱギノだな。行こうぜ」
 こういうところはかつての友で同期でもあった狡噛とは違っているなと思う宜野座だった。

※※※

「嬢ちゃんはどう思う?」
 地下に向かうエレベーターの中で、征陸が問う。
「どちらが当たりを引いたかってことですか?」
「まあ、そうだな」
「五分五分だと思います。トイレの個室であったとしても、利用客が少ないところを選ぶと思います。ただ、秀ちゃんが飛ばされた時、屋上でなにか催し物をしていたらわかりませんが」
「普段、屋上を利用する客は少ないということだな」
「はい。地下も地下駐車場からトイレはあります。利用する確率は少ないのではと思っているので、屋上と地下、確率は五分五分です」
「なかなか賢明な判断だな。そこに時間帯も加わるとどうだろうか。開店直後なら駐車場の利用も少ないが、時間が経てば増えるだろう」
「そうですね。それは、この子に聞いてみれば……ね、秀ちゃん。秀ちゃんはいつ頃気づいたの? えっと、パパとはぐれたって気づいた時間、わかる?」
「んっとね、お昼はお外で食べましょうねってママがね、言ったのね。でもね、食べる前にはぐれちゃってね……」
「ママとはぐれたの? それはあっちで?」
「うん、そう。僕、よくわからないけど、ここは僕のいたところとは別のところなんでしょう? だったらね、ママとはぐれたのはあっちの方でね、パパとはぐれたのはこっちだよ」
「え? パパとこっちにきたの?」
「うん、たぶん。だって、ずっとパパが側にいてね、でね、なんかいつのまにか寝ちゃってね、でね、起きたらパパがいなくてね、そして知らないところにいたのね」
 秀ちゃんの話を聞いた征陸は険しい顔をする。
 また朱も、これ以上は子供の前でする話ではないと悟った。
「そっか。じゃあ、パパも捜さないとね。一緒に帰りたいでしょう?」
「うん! 捜してくれるの? ありがとう」
 とりあえず、向こうの世界のお昼頃、こちらに飛ばされたらしい。
 征陸たちの話を参考にすれば、並行線状に世界があり、時間の流れも同じだという。
 ならば、こちらに来た時間もお昼前後。
「一番の書き入れ時って時間帯だな。それも込みで狙ったか。だとしたら、どの場所のトイレを入り口にしたかわからないぞ」
「そのようですね。ひとつ、聞いてもいいですか?」
「なにが聞きたい?」
「飛ばせるのは人だけですか? 乗り物は? たとえば車に乗ったまま飛び越えることは可能?」
「できるかできないかでいえば、できる。だが、それ相応の装置が必要になる。手間がかからないという点でいえば人間だけを飛ばす方だな。もしかして、車に乗ってこっちにきてとでも考えたか? この子は電車に乗って買い物に来たんだろう? 可能性はないんじゃないか?」
「それは、危険を察知して縢家の誰かが秀ちゃんをこちらに避難させたらの場合で、別の誰がであれば……」
 と話したところで言葉をきる。
 これ以上の仮説は秀ちゃんの前で控えたかったからだ。
 そのタイミングでエレベーターが地下駐車場に着く。
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