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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

時系列のゆがみ

 話が終わりかけた頃、目的の場所が見えてきた。
「モールというわりには人が少なくないか?」
 と聞いてきたのは征陸だ。
「今日は定休日なんですよ。というか、年に数回しかない定休日にたまたま当たっただけなんですが」
「へえ、それはラッキーだな」
 と、狡噛。
「そうですね。もし営業日なら人の往来がある中の捜査になっていました」
「常守、どう動く? 全員で移動か?」
 と聞いたのは宜野座。
「ひとり、ここに残って私たちと唐之杜さんの連絡係をしてもらいましょう」
「直接対話された方がいいのでは?」
 と聞き返したのは須郷。
「そうかもしれない。でも何かあった時、全員が一緒よりはひとり別の場所で待機の方がいい。なにがあるかわからないから」
「確かに。では、自分が残った方が?」
「そうですね。お願いします」

 駐車場に車を停め、須郷を残しほかの面々が車から降りる。
「まず、秀ちゃんがいた場所にいきましょう。案内してくれる?」
 と朱は縢秀星の目線に合わせるように屈んだ。
「うん、いいよ。こっち」
 縢は調査というよりはずっと閉じこめられていた場所からでられたことが嬉しいのか、はしゃいでいる。
 それでも征陸の手を離さないのは、それだけ信頼し頼りにしているからだろう。
「子供はいいね、ひとり緊張度合いが違う」
 半ばあきれるように狡噛が言うと、即座に宜野座が反応した。
「暢気にバカなことを言っている暇があったら、さっさと追いかけろ。おまえは母親の役だろうが」
「……あのな、ギノ。ここには俺たち以外いないんだから、べつにそこまで演じなくてもいいだろう」
「ふざけるな! どこから見られているかもしれないだろう? 慎重に行動して損なことはない」
「……ったく、堅物だな、ギノは。はいはい、母親になればいいんだろう」
 とボヤくと、小走りに先行しているふたりを追いかけた。
 その姿を見ながら朱が宜野座にいう。
「似ていてもあの人は狡噛さんじゃありません」
「わかっている。だが、あの顔、あの声でギノと呼ばれるとな。イラッとしないでいられる自信がない。そういう常守はどうなんだ?」
「私ですか? たぶん、平気に見えていると思います。というか、別人だって認識しています。だけどそう思っていないと、ふとした瞬間に狡噛さんが戻ってきているような錯覚になります。ダメですね」
「そんなことはないだろう。狡噛を知っている者なら、頭で理解できても心までは無理なんじゃないか。まったく、罪作りな男だよ、あいつは」
「……たしかに、そうかもしれませんね」
 と締めくくった頃、秀ちゃんが手を振り朱を呼ぶ。
「呼ばれてしまいましたね」
「ああ、急ごう」
 離れる直後、ふたりは軽く車内に残った須郷と視線を交わし、駆け足で先を歩く三人を追いかけた。

「ここは公園でしょうか」
「案内資料によると、モールの敷地内にある公園ということになっている」
 説明をするのは宜野座。
 こういったことは彼の得意とするところだ。
「秀くんは、ここにいたの?」
「うん、そうだよ。目が覚めたらここにいてね、パパがいなくてね、ちょっと周りを見渡したらね、なんか知らない場所でね。僕、知らない間にはぐれたんだと思ってね、来たときの駅に向かおうとしたの。でもね、なんか道も違ってね」
 無意識に歩いていたら着いたというが、そんな偶然があるだろうか。
 おそらくそこに向かうよう策を投じた者がいるのではないか。
 そのものはずっとこの世界にいて、姿を隠しながら見張っている……
「征陸さん、狡噛さん、どうですか?」
「う……ん、ちょっと違うな。別の場所にでて、ここまで運んだんだろうな。コウはどうだ?」
「とっつあんの見解に同意だ。突然出現しても違和感のない場所といったらどこだ?」
 狡噛に聞かれた朱は、幼児と一緒に出入りができ、不思議がられない、また他人を気にする必要もない場所……更衣室か個室のトイレか。ですが、そんな細かく設定することができるんですか?」
「できる」
 とふたりの声が重なる。
「同じ場所同士でしか道を繋げられないからな」
 と狡噛。
「でも、こっちとあっちが同じ地理とは限りません」
「だから調査員がいるといっただろう。警察の方もいるだろう? でなきゃ、人知れず紛れ込むなんて無理だ」
「ああ、コウの言うとおりだ。このモール内のトイレないし更衣室に標準を合わせる。たとえば、こっちの更衣室のひとつと、あっちの個室がちょうど同じ場所にあったのなら、人知れずに飛び越え紛れることができる。だいたいは人気のない場所を選ぶが、人の往来がある中の一室とは考えたな」
「感心している場合か、とっつあん。これからひとつひとつ確認しなきゃならない。どっちから行く? どっちが濃厚だ?」
「私はトイレだと思います」
「なぜそう思う?」
「店舗は入れ替えがあります。絶対ではありません。その調査をしたのはいつ頃かはわかりませんが、なにかを使用とした場合の作戦は慎重にすると思います。それが人の生き死に関わることなら。トイレはそうそう場所移動はしません。私はトイレの個室だと思います」
「嬢ちゃん。それ、いい着眼点だ」
「ああ、そうだな。行くぞ、監視官!」
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