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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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この世界

 朱はこの世界の実体を知っても、この世界から出ていきたいとは思わなかった。
 また納得できないこともあったが、だからといって反旗を翻す気もなかった。
 これはこれで「有」なのだと自然に受け入れれていたからだ。
 だからといって、この世界の成り立ちに無条件で従うつもりもない。
 その方法がほかの人と違うだけ。
 いや、少数派だったというだけなのかもしれない。
 力には力で対応は間違ってはいないが、それがすべてではない。
 人は対話を通して最善を尽くすことができる、朱にとって力業は最後の最後、これ以上どうにもならない時の最終手段でしかないのかもしれない。
「まあ、合っているかどうかなんて、誰だってわからないんじゃいかね。なにしろ、並行線状にいくつもの世界が存在していることを知っているのは一握りだ。嬢ちゃんだって、知らない頃はこの世界がすべてでこれが当たり前の世界だと思っていたんじゃないか? 多少の理不尽はあったかもしれないが」
「……そうかもしれません」
 別の世界の私はどんな生き方をしているのだろう。
 もしこの世界とは違う世界で、もっと自由に、もっと選択肢があって選び放題の人生を目の前に悩んでいるかもしれない。
 出した答えに不安を感じ、毎日毎日が戦いかもしれない。
 それを考えると、シビュラに決められた人生は案外ラッキーなことなのかもしれない。
「すません、ちょっと別の世界にいたらなんて考えてしまいました。無いものねだりですね。今は目の前のことに集中します」

※※※

「それで、この廃れた地下鉄駅に見覚えがあるといったんだな、秀ちゃんは」と征陸さん。
「記憶というよりは、この駅を使って家族で買い物にきた……だったと思います。そちらの世界では存在して機能している駅ですか?」
「ああ、バリバリの現役だな」と狡噛。
「この駅を使って買い物ってなると、最近できたアウトレットモールかもしれないな」と征陸。
「嬢ちゃん、こっちに世界はどうなんだ?」
「この駅を利用して移動する人はいません。この駅は約半世紀前に廃線、そのまま放置になっています。またこの区間も区間整理対象から外され、シビュラ反対を掲げる人たちのたまり場です。サイコパス指数が正常の人もいますが、潜在犯が潜んでいる可能性もあります。日中は使われていない廃墟ビルなどに隠れていますので、ひとつひとつあたるしかないかと。なにか思い当たることが?」
「いや。秀ちゃんが保護されたってのも」
「ここです」
「飛ばされてでた場所は?」
「ここじゃないみたいです。こっちにもショッピングモール施設はあります。ただ、ここから少し離れていますね。気が付いたらそこにいて、見あたらない父親を捜してさまよい、見たことがあるこの区域でこの駅にたどりついたようです。電車をつかい、家に戻ろうとしたのかもしれません」
「じゃあ、そっちを見に行くか」と狡噛。
「ここにはなにもないと?」
「ないな。せめてなにか痕跡でもと思ったがない」
「痕跡?」
「……っと、どうするとっつあん」
「どうって、コウが滑らしたんだろう?」
「あの、どういう?」
「ああ、しょうがねぇな。飛ばされた先に入るには入り口が必要だ。入り口の痕跡はそう簡単には消せない。なぜなら、入り口は出口にもなる。来た者は入り口を忘れないようマーキングしておく。刑事は他人の痕跡を見つける力がある。そして俺の組織でも関知できる装置や能力がある者もいる。俺は後者でな。鼻がきくっていうか。とっつあんの方もそうなんだろう?」
「ああ」
「というわけだ」
「では、くまなく探索すればわかるということですか?」
「いや、それがな……」と、征陸が歯切れの悪い言いだしを口にした。
 続けて、
「無理矢理飛ばされたもんでな」と、さらに歯切れが悪い。
「つまり……」と、狡噛が後を引き継ぐ。
「他人があけた入り口、もしくは無理矢理こじあけた入り口は見つけにくい。というのも、目的の人物の意思を無視して飛ばすのは違法で、かなりの力業になる。だからリスク回避のため、同行者がいて、目的の人物を放り投げ、入り口を閉じて戻るという手間をかけているはず。となると、一度入り口出口を使われているから、気配が弱い。くまなくってことは、センチいやミリ単位でじっくり捜査するってことだ。どれだけの時間と労力がかかると思う?」
 考えたくもなかった。
 それがたとえ、一筋の光を手にできたと思った矢先でも。
「探知できる範囲や強さはなんとなく理解しました。でも、ふたりの様子から、可能性はゼロではないようですが」
「ああ、ある。話を聞くと、秀ちゃんは気づいたら知らないモールにいたんだったな。わずかでも気を失っていた可能性がある。飛んだ先ですぐ順応するには気を失うのはタブーだ。となれば、縢秀星をここに連れてきた奴がいるはず。そいつは秀ちゃんを残し戻っているとは思えない。その子が入った入り口はまだ残っている可能性がある」
「わかりました。なぜそう導き出したのかは移動しながら聞きます。行きましょう」

※※※

 道すがら、狡噛はなぜそう思ったのかを説く。
「ここに飛ばされたメンツ、時期を考えれば必然だな。なぜ今までそう思わなかったのか、自分の愚かさを呪いたいくらいだぜ。なあ、とっつあん」
「すべては黒幕の思惑通りってことだな。悔しいが」
「あえて人混みに飛ばす、見知った場所へ誘導する。この世界を熟知していれば街頭スキャンですぐに知れる。その原理を使い、安全なものにガードさせる。安全なもの、公安局だ。そして彼のいる世界の者を強引に飛ばす。公安が動く、秀星と接触できる。子供が単独で飛ばされたと知れば刑事は必死に守り、なにがなんでも元の世界へと連れ戻るはず。だがすぐ戻られるのも困る。ひっかき回してくれるだろう人物が必要、それが俺だ。とっつあんとそれなりに面識があり、利害が一致すれば協力関係も築ける人物。だったら同じ警察の人物にとも思うが、黒幕は警察を信じていない……そんなところだろう」
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