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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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始動 その二

「か、考えておくだと? ったく、こっちの俺がどうだったかは知らないが、俺自身はそういう趣味はないし、そもそも捜査なんてガラじゃないんだ」
「まあまあ、そうイライラするな、コウ。どちらにしろ、俺たちはこの姿で街中を彷徨くことはできない。どうしたって、この世界の誰かの助力が必要だ。だとしたら、公安局の協力は非常にありがたい。ラッキーと思うしかないだろう」
「そういうがな、とっつあん」
 まだ納得ができない狡噛を征陸が宥める。
 しばらく宥めるとようやく、しぶしぶ、受け入れてもいいという状況にかわった。
「それでは、納得していただけたとして、話を進めます。ホロを装着していただくことで、この部屋以外への行動範囲も広げます。ただし、執行官の同行は必須にります。周りには擁護対象を一時的にこちらに匿っているので他言無用という設定になっています。縢くんにはふたりをパパやママと呼ぶよう心がけてください。それと、ホロ装着すると適正の声に変換されます。ですので、口調には気をつけてください」
 と、チラリ、狡噛をみた。
「……しょうがねぇな。やるだけはやってやるよ。で、こいつ……えっと」
 と、小さい縢くんをみる。
 視線に気づいた縢くんは少し悩んでから、
「……僕? 秀ちゃん」
 と答えた。
「あ、ああ、秀ちゃん……はどこで保護したって?」
「廃線になっている地下鉄の駅入り口付近です。かなり廃れた街で、日が暮れるとかなりの危険地帯になっています」
「じゃあ、とりあえずそこをみたい。いいか、監視官」
「問題ありません。それでは地下駐車場で。同行者は須郷さんと宜野座さん。雛河くんは不眠不休だったでしょう? この間に休んで。六合塚さんも適度に休憩をとりつつ、唐之杜さんの手伝いをお願いします。なにかあれば唐之杜さんに連絡を入れます」
「了解!」
 執行官面々の声が重なった。

※※※

「なんだ、ここは。廃れているとは聞かされていたが、想像以上だな」と征陸。
「気にいらねぇな、こういう格差は。政府が街ごと差別しているようだぜ」と狡噛。
「そちらの世界には格差はないんですか?」
 朱の質問に狡噛が答える。
「ないこともない。いや、あるな。だが、それはどの世界、どの時代でも起こりえることだが、国をあげて、政府が意識的に格差を進めるっていうのはある意味独裁的といってもいいだろうな」
 朱は思う。
 シビュラの監視下にあることで、ある意味、独裁国なのではないだろうかと。
 それでも、それを当たり前と思って生活をし、シビュラの恩恵を受けていると思っている人にとって、シビュラに監視されているとは思っていないだろう。
 人はだれだって、誰かに決めてもらい、つまづいた時には誰かのせいにして、自分は悪くないと思って生きていく方がらくである。
 自身で決断して未来を切り開く世界は理想的で自由度が高いようにみえて、実は決断のひとつひとつに責任を負う必要があり、生きていくことは苦難の連続、人生とは日々修行である、そんな考えになってしまうだろう。
 そこに楽しみを見つけられるかと考えた時、答えは「わからない」だ。
「征陸さんたちのいた世界はどういう世界なんですか?」
 年齢的に征陸に聞いた方がいいだろうと、質問の矛先を変えた。
「どういう世界って……そうだな、内戦程度の争いはあるが、大きな戦争はない。世界の半分は貧困だが、国単位でみれば一時的より底上げはできている。どの国も教育に熱心な傾向があり……しかし、年々人口は減っている。そんなところか」
「そういやあ、国境をなくそうとか、そんな話もあったな、なあ、とっつあん」
「ああ、あったな。人口減少で国を維持していくのが困難なところが出てきてな。支配国ってのは響きがよくないから、国境をなくせばいいんじゃないかって、そんな案もでいたが、あれは頓挫しただろう」
「シビュラ導入で成功した日本は治安がいいが、日本をでると荒んだ国ばかりなこの世界をどう思うかは勝手だが、俺は気に入らねぇな。これじゃ自分たちがよければほかはどうでもいいと言っているようなものだ。歴史に学び、鎖国は適切な判断とは思えないな」
「まあ、コウはそう思うだろうが、自衛ってことを重視した場合、鎖国は手っ取り早いとは思うがな」
「ふたりは、いろんな世界を見て、自分たちのすむ世界を客観的にどう見ていますか?」
「どうって……」
 と、ふたりの言葉が詰まる。
「それでも自分の住む世界が一番マシだと俺は思っている」
 と、狡噛が言うと、征陸も同意した。
「私も別の世界をみたら、自分のいる世界がマシだと思うのでしょうか?」
「どうした、嬢ちゃん。こっちの世界じゃシビュラに意義を唱えると色相ってのが濁るんじゃないのか?」
「ええ、一般的にはそう言われています。でも、私は不思議とあまり色相が濁らないみたいで」
「それじゃあ、この世界じゃやりにくいだろう。なかなか理解する相手に恵まれない」
「そうんですけど、でもそうでもなくて。だとしたら、私はやっぱりこの世界が合っているんでしょうね」

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