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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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征陸智己 その二

「それはつまり、この時代の人ではないと自白したと思っていいのですね?」
「まあ、そうなるな。で、なぜ俺がこの世界の人間じゃないとわかった?」
 それは……と朱が口を開きかけたが、言葉が外にでることはなかった。
 宜野座の荒々しい声色が先に響かせたからだ。
 宜野座はバンッと机を叩き、前屈みになる。
 その勢いで向かい側に座っている征陸の胸ぐらを掴みかかりそうな勢いだ。
「宜野座さん!」
 さすがの朱もそれは見過ごせず、宥めるような口調で彼の名を口にする。
 チラリと監視カメラの方を見るが、それに向かい助けを求めるような仕草はみせない。
 むしろ、大丈夫だからと訴えているようにも見える。
「落ち着いてください、宜野座さん。この征陸さんは、こちらの事情を知らないんです」
「わかっている。わかってはいるが、この顔、この声で言われ、落ち着いてなど……」
 宜野座の戸惑いや苛立ちもわからなくはない。
 こちらの世界でのふたりの関係は一般的な家庭とは違い、また一般的な父子関係とも違う。
 それらのわだかまりが消え、宜野座が父である征陸を受け入れ許せたのは、目の前で命の灯火が消えかけた時だった。
 結局、父と同じ道を歩むことにした伸元だが、だからといって別の世界から来た父と同じ人物を受け入れろという方が酷というものだ。
 それでも、今は執行官として踏ん張ってほしいところである。
「……いや、すまなかったな、常守。なぜわかったか、その理由は俺が話す」
 宜野座は気持ちを落ち着かせるような息を吐くと、目の前の征陸を見据えた。
「あんたがこっちの人間じゃないとわかったのは、至って簡単なことだ。あんたの死を俺が見届けたからだ。こちらでの征陸智己は俺の父親になっている」
 ひょうひょうとしていた征陸も宜野座の口から語られることは想定外のようだった。
 ひょうひょうとした態度から、がっくりと肩の力が抜けていくようにうなだれる。
「そうか、こっちの俺はもう死んでいるのか。で、あんたとは親子関係。その態度からして、良好とはいえなかったようだな」
「ああ……。こっちは質問に答えた。あんたがどこから来たのか、それを聞かせてほしい、こちらとしては聞く権利がある。俺個人としても、死んだ人間が目の前で生きているっていうのはどうもな……」
「ああ、それな。俺も最初はそういう感覚ももっていたが、まあ、慣れだな。この世界に俺の居場所はない、関わるな、単なる傍観者に徹しろ。まあ、この仕事の教訓そのものだ。どこから来たのか、それを話すのにはコウの意見も聞きたい」
「コウというのは、さっき対峙していた男、狡噛のことだな?」
「……なんだ、コウとも面識があるのか。こりゃ参ったね。こんな失態、新人でもしないだろうさ。で、コウと話を合わせたいんだが、同席ってのは無理かね」
 宜野座にはそれを決める権利はない。
 朱は征陸の様子を伺い、口調や声のトーン、仕草などから彼の言葉の真意を伺う。
「嘘はついていないようですね」
「嬢ちゃん、嘘言ったところでこちらにはなんの特もない。どちらかといえば、コウと協力関係を築き、この状況から脱したいというのが本音だ」
「この状況とは、元の世界に戻る……と解釈しても?」
「そうだな、その理由もひとつとだけ。あとは、コウと話させてもらえるかどうかで決める」
「……わかりました。ただ、一度、私たちだけで狡噛さんと話させてもらってからでいいですか?」
「それは構わない。で、その間は拘束されるのかね」
「ええ……と、拘束はしませんが監視役はつけさせてもらいます」
 そういうと、朱は須郷と霜月監視官にその場を任せ、宜野座とともに別室へと移動した。
 しばらくすると、狡噛が連行されてやってくる。
 ほぼ犯人扱い状態に不満らしいが、それでも致し方ないと諦めているようなところもある。
 彼は朱を見てこの世界がどういう場所かを当てている。
 自分たちの知っている狡噛であれば当然なのだが、どこか他人行儀であった違和感を見逃してはいない。

「常守朱監視官と、そっちは執行官っていったところか」
 狡噛はふたりを見てすぐさま関係を見破る。
 しかし、執行官が宜野座であることはわからないらしい。
「こちらは執行官の宜野座伸元。こちらの世界では同期だったようですよ。そうではないということは、別の世界からきた人ですね」
「なんだ、とっつあんがゲロッたのか。だらしないな、刑事ならもっと……ああ、そうか。刑事相手にやりにくかったってところか。で? 俺からなにを聞きたい?」
「なぜ私が常守朱であること、監視官であることがわかったのでしょう?」
「ああ、それか。俺らの仲間内じゃ結構有名だぜ、あんた。シビュラ世界の刑事、常守は要注意ってな」
「シビュラ世界?」
「あ? とっつあん、その話をしたんだろう?」
「いいえ」
「じゃあ、なにをゲロッたんだ」
「別の世界からきたことだけです」
「は? で、ほかは俺に聞けってか?」
「違います。狡噛さんと話がしたいので許可してほしいと。その前に私たちがあなたと話したいとお願いしました。あなた、本当に狡噛慎也なんですね?」
「ああ、そうだ」
 たったこれだけの会話でわかる、目の前の狡噛は自分たちの知っている狡噛ではないことを。
 そして疑問点が浮かび上がる。
「狡噛……」
 朱との会話を黙って聞いていた宜野座が割り込む。
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