ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

狡噛慎也

「おまえ、常守のことは別世界でも有名だと言ったな。ある程度別世界のことを知る知識がある世界の人だということはわかった。なら、なぜこの世界にきた? この世界で狡噛慎也という人物がどういう立場か、わからないはずがないだろう?」
「ああ、それな……俺としても今回はイレギュラー続きなんだよ。とっつあんがあの場所に現れたのも、こっちがわに無理矢理飛ばされたのも」
「飛ばされた? どういう意味だ? やはりおまえたちは未来人なのか?」
 宜野座の頭の中では瞬く間に仮説が作り上げられていく。
 彼らが未来から来たのであればなにもかも辻褄があうのだ。
 この世界では理解できないもの、それが存在している世界となれば未来しかない。
 だが、そうなると縢のことが説明できない。
 彼は廃れた街を見て、いた世界と似ているといった。
 廃れる前の世界と似ていると……彼だけが過去から来たのだろうか。
「未来人……おもしろいことを言うな、宜野座……宜野座って面倒だな、ギノでいいか」
「はあ?」
 いきなり馴れ馴れしくギノと呼ばれた宜野座が素っ頓狂な声を発する。
 そんな宜野座の横で朱が吹き出すように笑った。
「常守?」
「まったくの別人なのに、宜野座さんのことをギノって呼ぶなんて。別人だけど同一人物、同一であった別人。どちらが主体かはわからないけど、そんなところなのかなって。自分たちの意志で来たわけではない、戻るには単独では無理ということはなんとなくわかりました。嘘をついているようには見えないので、征陸さんと一緒に、もう少し詳しく話を聞かせてください。その上で、ひとつ、ふたりに訪ねたいことがあります」

※※※

 一旦休憩ということで、ふたりをそれぞれ別の部屋に監禁、ドローンに監視をさせながら一係の面々は分析室に集合した。
「唐之杜さん」
「はいはい、検査結果ならさっき出たわよ。もうね、こういうの驚かなくなってるのよね。てことで、結果は想像通りでした」
「つまり、亡くなった征陸さんと、行方不明の狡噛さんとまったく同じデータだったんですね」
「そうなのよ、朱ちゃん。そっくり同じ、クローンといってもいいくらい」
 その結果を聞き、一係の面々は各々で感じたことが多少違うようで、違った表情を見せていた。
 しかし、その感情をどう言葉にしていいのかが見つからず口を閉ざす。
 そんな中、霜月監視官が口火をきった。
「悩むことなんてないですよ、先輩。狡噛って人は逃亡中ですし、きっと演じているんです。もうひとりの征陸って人は双子とか三つ子とかだったんじゃないですか? だって、縢って子と違って亡くなった時の年格好と同じなんですよね。これで説明がつくじゃないですか」
 といいながらも、とても無理がある説明であることは、言っている霜月美佳自身がよくわかっていた。
 双子や三つ子でもまったく同じ生体を得ることはありえない。
 それこそ、唐之杜のいうクローンでないかぎり。
 しかし、この世界ではクローンの製造は禁止されている。
 再び沈黙になりかけた時、
「ねえ、朱ちゃん」
 と、唐之杜が朱の意見を聞きたいと声をかけた。
「小さい秀くんに、ふたりの写真を見せてみるというのはどう? もしくはその逆でもいいわ。慎也くんは想定外だと言ったんでしょう。その想定外が秀くんのことかもしれないって思わない?」
 短期間に別世界の人間が出現することじたい異常なのだ。
 だったら、ありえないかもしれないことも今は可能性のひとつとして考えた方が突破口が開けるかもしれない。
「そうですね。なにも知らない私たちがここで議論しても仕方ない。だったら、三人に聞きましょう。まず、縢くんの写真をふたりに見せます。わずかでも疑わしい反応をしたら問いつめます。ふたりの方で違和感なく本当に知らないのだと感じたら、ふたりの写真を縢くんに見せます。この作戦でいきましょう」
 納得できないという顔をしている者もいたが、声を発して意義を唱える者はいなかった。
 それより得策と思える提案が思い浮かばないのだから、納得できなくても受け入れるしかない、そんなところだろう。

※※※

「少しは休めましたか?」
 征陸がいた監視部屋に狡噛が連行され、ふたりの前に常守と宜野座が座る。
「嬢ちゃん、休めるかどうかって、監視されながらで気が休まるとは思えないね」
「そうですね。もう少しだけ我慢してください」
「まあ、そちらの状況もわからなくはないから。まあ、しっかりやってくれというほかはないな。コウの同席を許したってことは、とりあえずは俺たちのことを信じることにしたって思っていいんだな?」
「はい。狡噛さんには言いましたが、こちらからもひとつ伺いたいことがあります。先に、伺ってもいいでしょうか?」
 征陸が狡噛を見、狡噛が軽く頷くと、「なんでも聞いてくれ」と返した。
「それでは、この写真を見てください。おふたりは面識がありますか?」
 小さい縢くんの写真をふたりの前に出す。
 反応はいくつか想定できる。
 知っている、知らないに加え、年格好が違うが知っている、もしくは記憶にあるなどだ。
 先に反応したのは征陸だった。
「こりゃ、縢家のぼっちゃんじゃないか。どうして嬢ちゃんたちが?」
 それに答えようとすると、遮るように狡噛が割って入ってくる。
「答えを急ぐなよ、とっつあん。このボンボンがあんたの知る縢のぼっちゃんとは限らないだろう。こっちの世界のかもしれない」
 間髪入れず朱が返す。
「それはありえないわ」
「どういうことだい、嬢ちゃん」
「こちらの縢秀星はもう……」
 朱は語尾を濁らせた。
 同席している宜野座も実際見聞きしたわけではないが本能的かつ経験から、なんらかの事態に巻き込まれ消されたか亡くなったかしていると思っている。
 朱は意外なところから縢の最期を知ることになった。
 だが公には監視カメラに映らないようにして逃亡、行方不明ということになっている。
 今ここで死んでいると言ってしまっては、ほかの面々に説明を求められるのはあきらかだった。
 それだけは避けたい。
「ああ、そういうことか。まあ、そっちもいろいろ大変だな」
 征陸は朱の只ならぬ雰囲気から何かを察し、それ以上の追求はしなかった。
 それは狡噛も同じだった。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。