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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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予感は現実に

「休憩しているところ、呼び戻してごめんなさい」
 分析室に再び一係の面々が顔を揃えた。
 朱の出した召集に対し、不満タラタラなのは霜月くらいで、ほかはそれが仕事だからと特に問題にも思っていない。
 朱は霜月の不満顔を見て知りながらも気付いていない素振りを見せ、早速本題に入る。
「霜月監視官たちが保護をした縢くんとさきほど宜野座さんと話したのだけど、この子のいう連絡先が存在しなかったの。そればかりか、通っていると教えてくれた小学校は、ほぼ百年前に廃校になっている。私はこの子が嘘を言っているようには思えない。だとしたら、これはどういうことだと思う? みんなの考えを聞かせてほしい」
 保護した縢くんが持っていた電話番号をそれぞれがかけてみると、存在しないことがそれぞれに知らされる。
 通っていると言っていた学校が廃校になっていることは唐之杜がデータとして表示した。
 縢くんはそれを見て
「ぼくの学校、なくなっちゃってるの?」
と聞く。
 その口調や表情から演技とも思えないし、嘘をついているとも思えないと場の誰もが感じた。
 唯一ひとりを除いては。
「先輩は甘いです。子供は簡単に嘘をつきます。ものごとをねじ曲げ、都合よく話をつくりかえます。子供の証言は信憑性がないことは、昔から言われていることじゃないですか。その子が行方不明というか逃亡中の元執行官、縢秀星だっていうなら、そうなんじゃないですか。手術で姿を変え、薬剤かなんかで記憶をすり替えて。だって潜在犯ですよ? 自分が生き抜く為ならなんだってするんじゃないですか?」
 確かに、突きつけられたデータだけで判断をすれば、その仮説も成り立つ。
 だが、縢を知っている宜野座にとっては、彼がそこまでして逃げ切ろうとするかが疑問だった。
「しかし、そうだとするなら、なぜ約百年も前に廃校になった学校に通っているなんて記憶にすり替える必要がある?」
 つじつまがあわない箇所をつっこまれた霜月は、
「対処した医者がヤブだったんじゃないですか?」
と、苦し紛れの理屈を返した。
 場にいた者たちが軽く呆れにもとれるため息を吐く。
 なんともいえない空気を割くように、六合塚が「意見、いいですか?」と軽く挙手した。
「シビュラの監視下にあるのは日本だけ……でしたね。外国から、もしくはシビュラの監視下にない日本のどこかからここにやってきた……というのはどう? たとえば、彼が無事国外かどこかにでることができて、そこで……」
と言い掛けたところで口を閉ざした。
 仮説とはいえ、彼らしくない選択だと感じ始めたからだろう。
 六合塚の言葉の続きを唐之杜が代弁する。
「つまり弥生は、彼が無事逃げ、逃げ切った先で結婚とかしちゃって、できた子が、その子……悪くはないんだけど、彼が結婚とか子供の父親になるとか、ちょっと違う気がするのよね。そもそも、彼が逃走しちゃったのっていつだっけ? 年数敵にあわないし、それをいうなら、彼の兄弟とか親戚とかの方が説得力あるっていうか。だとしても、まったく同じデータの人間なんて、クローンでもないかぎり無理。となると、どこぞかの金持ちがクローン人間を作っちゃったってことで、これはこれで大問題だと思うのよね」
 しかし、この大問題のクローン人間であれば、一番しっくり説明ができると思う彼らだった。
「この子が縢くんと同じデータを持っていることについての理由付けは、そういう考えもあるとできるけれど、百年前に廃校になっている学校に通っていることについての説明は?」
 朱としては、そのあたりにこの子の存在理由の説明が隠されているように思いはじめていた。
「非現実的でよければ……」
 すると朱は雛河の方をみた。
「うん、いいよ。雛河くんの意見をきかせて」
「あ、うん。タ、タイムスリップとか?」
 それってなんだっけ? という表情がまばらに出たところで、唐之杜がサクサクと検索をして
「あ~、創作物に出てくる、時代を行き来してしまうってやつ? たしかに、それなら説明がつく。だけど、非現実的よね……」
 と、唐之杜は自己完結した。
 だが、朱は違っていた。
 タイムスリップができるできないは後回しでいい。
 だけど、小さい縢くんがここではないどこかからやってきたのだという証拠、証明ができれば解決策も出てくると考えた。
「ねえ、縢くん。ご両親とお買い物をしていたらはぐれてしまったんだよね? どこに買い物に行ったか、覚えている?」
 その場所が今でも存在するのか、それとも過去に消滅してしまっているのか……
 縢くんの口から出た場所を唐之杜が調べる。
「朱ちゃん、その場所はないわ……今も過去も。でも、その場所には別のものが建っていてね、商業施設っていうのかな、名残はないだろうけれど、今もその系統は維持して存在している。どういうことなのかな、これって……」
「わかりません。過去に存在したもの、過去も今も存在していないものを知っている人物が今私たちの目の前にいる。だとしたら、この子をそこに連れて行くしかないのかもしれない」
「連れ出すの? まあ、朱ちゃんが決めるのなら、止める権利はないけど、いつまでも隠せるものじゃないと思うな。上に報告、してないでしょう?」
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