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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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ただならぬ予感

「ちょっと待て、常守!」
 即座に分析室を出た朱を追いかけるように宜野座が声をかける。
 その声色は執行官としてではなく、かつての同業である監視官の頃の声色を思い出させるものだった。
 わずかではあるが朱の歩幅がゆるむ。
 その隙に宜野座が追いつき、軽く肩を掴んだ。
「休憩はおまえもとれ」
「……宜野座さん。私もね、わかってはいるんです。でも、どうしてもじっとしていられなくて。あの子が縢くんであるなら、どういうことなのか知りたい」
「それは俺も同じだ。もう生きてはいないだろうと諦めていたあいつが生きていた。成長はしていない、むしろはるか昔のままで止まっている不可解さも追求したい」
 と言ったこところで、これでは休ませるどころか仕事をさっさと進めようと推奨しているようなものだ。
「……わかった。とりあえず、あの子のと話をしよう。その後、常守はしっかりと休め」
「はい。でも、そういう宜野座さんも休んでくださいね」
「ああ。そっちが休んだのを確認したらな」

※※※

 医務室の扉が開くと、近くのベッドの上にその子供はちょこんと座っていた。
 言われてみればどことなく縢の面影はあるが、執行官としての彼からにじみ出るギラギラしたものはない。
 どちらかといえば純真無垢、生まれたての赤子のような印象がある。
「唐之杜の報告を信じれば、潜在犯ではなく色相の濁りは皆無らしい。だとすれば、五歳で潜在犯認定をくらった縢と同一であるかは疑問だな」
「ええ。世の中には似た人物が三人いると言われていた時代もあったようですが、シビュラに管理されるようになってからは、似た人物の概念は違ってきています。外見は似ていても中身はまったくの別人」
「ホロってこともなさそうだな」
「それは雛河くんに確認してもらったから間違いではないわ。正真正銘の生身の人間よ。そもそもホロで偽るにしても、幼少化する意味がわからないわ」
「同意だ。で、どうする?」
「とりあえず、ご両親のこと、自信のことをことを聞くしかないわね」
 朱は真剣な表情から一変、監視官としての立場も封印し、優しいお姉さんという設定で幼少化した縢に近づく。
「こんにちは。私は常守朱といいます。あなたの名前を聞かせてくれる?」
 目線を子供にあわせるように少し前屈みになった。
「こんにちは。ぼくはね、かがりしゅうせいっていうの。あのね、パパとママと一緒に買い物をしていたらね、きゅうにねいなくなってね、気付いたら知らない場所にいたの。そしたらね、着ぐるみがやってきてね、大丈夫って聞くから、ここはどこって聞いたの」
 着ぐるみというのはコミッサちゃんのことだろう。
 宜野座たちに入った一報はエリアストレスが上昇している場所があるというものだった。
 かけつけるとコミッサちゃんの側で大泣きしている子供がひとり、それが目の前にいる子。
 宜野座たちが保護をすると色相が落ち着きだし、今では朱と変わらない綺麗な色を保っている。
「そっか、パパとママとはぐれてしまったんだね。それは心細いよね。そしたらね、お姉ちゃんと、このお兄ちゃんが縢くんのお家に連れて行ってあげる。きっとご両親も心配して、秀星くんのことを捜していると思うよ。その前に、無事だって電話で連絡をいれたいの、電話番号、わかる?」
 わかるよ! といって首にかけていたカードケースを取り出す。
 そこには通っている小学校の名前、本人の名前、そして電話番号が書いてある。
「すごいね。これ、少しだけ貸してくれる?」
 相手の了解を得て受け取ったそれを宜野座に手渡す。
 受け取った宜野座はすぐに書いてあった電話番号をダイヤルした。
 ところが……
「どういうことだ?」
 たしかに間違いなく電話番号を押したはずである。
 画面にも間違いなくその数字が並んでいる。
 それなのに、どういうことなのだろうか、これは……
 目にしていることが信じられず、報告するよりそれじたいを拒絶してしまいたい心境から、思ったことが声となってでていた。
「どうかしましたか、宜野座さん」
 監視官から執行官に格下げとなったとはいえ、刑事としての素質は変わらない。
 朱にとっては頼りになる仲間であり元先輩である。
 その彼がいぶかしむような口調をしたことに、ただならぬ予感がしてならない。
「いや、だが……」
「落ち着いてください、宜野座さん。ありのままを報告してください」
「ああ、そうだな。その子の持っていた電話番号に電話をしたが、その番号は存在しないとでている。さらに、その子の通っている学校はすでに廃校になっている。しかも百年も前にだ……!」
「百年前に廃校? どういうこと?」
「俺が知りたい。とにかく、唐之杜のところに戻ってもっと詳しく知る必要がありそうだな」
「……そのようですね。では、この子も連れていきましょう」
「常守?」
「伝言ゲームのようにしていては正しい情報は得られません。それに、私はこの子が嘘を言っているようには思えません。全員にこの子の話を聞いてもらい、今後の捜査方針を決めたいと思います」
「……わかった。常守がそう決めたのなら、俺は全力でサポートするだけだ」
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