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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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はじまり

 その日、常守朱は連日の捜査に心身ともに疲労が蓄積されていくのをありありと実感していた。
 朱がそれを実感しているのだから、同じ監視官である霜月美佳はそれ以上であった。
 いつもなら嫌みのひとつでも口から出ているであろう状態はすでに通り過ぎ、文句をいう気力から失われていた。
 公安局刑事課一係配属の執行官の四人も限界をすでに越えつつあった。
 彼らが限界であると認識しないようにしているのは、ふたりの執行官より先にそれを認めることだけはできないと思っているからである。
 しかし、それがより朱を事件解決へと向かわせてしまっていることに気付いていない。
 いや、気付いてしまっているからこそ言えないという執行官がいた。
 それが宜野座伸元である。
「そろそろ常守監視官を……」
 どうにかして休ませなくてはならないな……と思っていたことが声となって出てしまっていたことに気付いていない。
「常守監視官がどうかされたのですか?」
 思ったことに聞き返されたことに驚いた宜野座が振り返ると、そこには須郷徹平が眉間にわずかなしわを寄せて立っていた。
「……あ、いや」
 そこでやっと思っていたことが声になっていたことに気付くが、だからといってどう返せばいいのだろうか。
 言葉に詰まり、とっさに否定してしまったことから、さらに須郷につっこまれてしまう。
「監視官のことを思っているのはみな同じです。なにか気になることがあるなら……」
 確かに、みな思っていても口に出せないでいることもあるだろう。
 自分が言ってもいいが、どう説得させるべきか……
 かつての自分であれば命令だとでもいって言い聞かせることもできただろうが、今は立場が違う。
 それなら、もっと親しい誰かか、せめて同じ女性からの助言として六合塚あたりにとでも考えはじめていたところだった。
 まさか須郷に聞かれてしまうとは不覚……としかいいようがない。
 別に苦手意識があるわけではないが、だからといって仲良くとも言い難い。
 ある程度の距離感を保ちながらの関係がいいような気がしていたのだが……
 だが、まあ、これもなにかの縁だろう。
 宜野座はひと息吐き、須郷を見上げた。
「常守監視官のこのごろをどう思う? 俺は少し働き過ぎではないかと思っている。あいつ、なにかあれば休み返上して捜査に加わっているだろう?」
「……た、確かに。近頃は事件が連続で起きて、どこも人手不足で……」
「まあ、そうなんだが。俺たちもこうして返上して事務処理にかり出されているわけだ。だからといって、監視官があれでは総崩れになるのも時間の問題だ」
「言われてみれば……、それで休みを取るように打診したいわけですね」
「まあ、そういうことだ」
「であれば、早く事件を解決する以外、ないのではないでしょうか?」
「は? それじゃ、今と変わらないだろう。しかし、それしかないのだがな、実際は。となれば、俺たちがもっと働けばいいというわけか」
 結局、須郷とでは宜野座の求める答えはでず、六合塚が戻ってくるのを待って、改めて意見を聞こうと思った直後、新たな事件の一報が入る。
 すぐにでも動けるふたりだが、執行官は監視官抜きでは行動ができない。
 常守朱が別の事件で捜査にでているとなると、霜月監視官が来るまで待つしかない。
 ふたりはすぐに地下の駐車場へと向かう。
 その最中、霜月美佳に連絡を入れ、すぐに現場に向かうため地下の駐車場で待っている伝えた。

※※※

 夜の空にうっすらと太陽の光が入り始めた頃、公安局の分析室に刑事課一係の面々が顔を揃えていた。
 そこに分析官の女性、唐之杜志恩の声が響く。
「だから、あの少年は縢秀星なのよ。もう、これで何度目?」
 事件の一報を受け現地に到着した霜月監視官とふたりの執行官、宜野座と須郷が発見し保護した少年の素性についての報告で、同じことを聞き返す彼らに、唐之杜は少し苛立ち気味に同じことを返した。
「いや、だから。なんの冗談だって話だ」
 くいさがる宜野座。
 それもそうだろう、行方不明になっていた縢が十歳以上若返り……いや幼くなって現れたのだ。
 誰だって冗談だと思いたい。
 縢のことを知っている者なら誰もが宜野座と同じ反応をするだろう。
 ただ、思ったことを表面化するかどうかの違いはある。
 六合塚は無表情で志恩の報告を聞き、朱はそれが現実であるならなにかがあるはずだと思考を巡らせる。
 縢と接点のない霜月は「また厄介ごと?」とうんざりした顔。
 須郷と雛河翔は場にいる者たちの反応を黙って静観しつつも、厄介な事件が追加されたという事実だけは受け入れつつあった。
「もう、何度も言わせないでよ。シビュラシステムのデータと一致してるの。あの縢くんと。なぜ子供に戻ってしまっているかなどは不明。そこはほら、調べるのはそっちの仕事でしょう? 私に当たらないでよ」
「……ッチ」
 たしかにそうなのだ。
 改めて指摘されると苛立ちが増加、宜野座は惜しみなく舌打ちをした。
「とにかく、本人と話をしてみればわかることだと思います。私と宜野座さんでとりあえず話してみるということで、ほかの人たちは……」
 朱は考えるのを中断し、指示を出す。
 仕事は山積みなのは明白なのだが、ここでさらに仕事を追加していいものだろうか。
 しばし言葉に詰まると、
「先輩。とりあえず休憩でいいですよね?」
 と、霜月の方から提案を受ける。
 そういえば休憩を最後にとったのはいつだっただろうか。
「そうね。それでいいわ」
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