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三途の川を渡る電車

ジャンル: その他 作者: そばかす
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第30話

「あっ……もしかして連結部を黒い怪物で攻撃するのか?」
 ぼくの言葉に、シンヤはうなずく。
「たしかに……黒い怪物が、あたしたちの憎しみや恨みからできているような〝攻撃的な存在〟なら、運んでもらうとかよりも、なにかを攻撃するほうが向いてそうよね」
 ピュアの言葉で、クロスとギャングの最後を思いだした。確かに攻撃することに特化していそうだ。
「よし! だったらさっさと始めよう。この黒い怪物をどのくらい出したままにしたり、制御できるのかわからないんだし」
 ぼくら三人は黒い怪物を動かした。
 ぼくの怪物は、連結部に。ぎゅうぎゅうに押し込まれるように。
 ピュアとシンヤの怪物は壁をお化けのように通り抜けて、連結部に車両の外から取りついている。
「じゃあ、せいの、でいこう」
 シンヤの言葉に、ぼくとピュアはうなずく。
 シンヤがぼくを見上げた。それで合図を送れと目でいっているのがわかった。
「せいっ、……のっ!」
 ぼくの掛け声にあわせて、三体の怪物は同時に動きだした。
 黒い塊から、鋭い槍のようなものを出し、ガスガスガスッと連結部を串刺しにする。
 ギギィィと軋む音をあげつつも、電車は離れない。思ったよりも丈夫だ。
「もう一度いくよ。せい、の!」
 今度はシンヤが声をあげる。
 一度目に比べて二度目は明らかに怪物の攻撃力は落ちていた。
「……なんか、怪物が弱まってない」
 ピュアの言葉に、
「もしぼくらの精神力みたいなもので動いているなら、きっと無制限に力を発揮できるわけじゃないはずだよ。弱まるのも当然さ」
「せい、の!」
 今度はピュアが声をあげて、三体同時攻撃。
 が、今度は電車の車両に貫通さえしない黒い槍が何本も出た。ウニのようになったぼくの黒い怪物を見ながら、ぼくはため息を吐いた。
「いい作戦だと思ったのに……」
「だったら――」
 シンヤが眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせる。
「だったらさ、一番むかつくやつの顔を思い浮かべなよ! もしくは、死に至るまでの絶望と後悔の日々。苦しみを! そうすればきっと怪物は大暴れするさ」
 ……それは、……たしかに一理ある提案のように思えた。
 ぼくとピュアは顔を見合わせ、うなずきあった。
 シンヤの掛け声にあわせて、思いきり憎悪の力を叩きつけた。

 がくん、と。
 いきなりジェットコースターに乗ったかのように、強烈な重力を感じた。

 それが、連結部が破壊されたため、ぼくらの乗る車両が一気に減速したためだと気づいた。「やった! シンヤ、やったぞ!」
 ぼくは彼を褒め称えた。
「すごいわ、シンヤ! あんた、天才よ!」
 ピュアも叫ぶ。
 電車はぐんぐん減速していき、素早く流れ去るように見えていた鉄骨も、ゆったりとした動きになってきた。
 だが、シンヤの返事はない。
 見ると、彼は片目から血を流していた。
 あのトレードマークの分厚い眼鏡は割れ、穴があいていた。
「……へへ。へましちゃった。ぼくの黒い怪物の槍みたいなのが、ぼくの眼鏡のレンズをつきやぶって、眼球をぶっ刺しやがった。……すぐに消したから、命には別状ないと……思うけど……」
 右目から血の涙を流しながら、少年は倒れたままそう答えていた。

「これって、失明するのかなあ。いや、もう世界が半分しか見えないから、失明は確定してるんだけど、もう片方の目もさ。……痛っ」
「たしかに、時間が過ぎると、じょじょに悪化するっていうなら、このままだと」
「まさか、脳のほうまで侵されたりしないよね? 脳を失ったら、さすがにやばいと思うんだけど」
 シンヤの口調は軽いものだったが、その内容にぼくとピュアは戦慄した。
「車掌をさがしてくる」
 ぼくは停車しつつあるものの、まだほんのゆっくりと歩く程度の速度で動いている車内を走りだした。
「あ、わたしも」
「いや、ひとりで充分だ。ピュアはシンヤについてあげてて。だいたい君は足首がないだろ」
「あ、そっか。……わかった」
 ピュアは、ぼく同様、体の一部を失った痛みのようなものは感じていないらしかった。ぼくも正直腕がないとは信じられないくらいだ。ピュアは、足の長さがただ変わっただけとでもいうように、健康なほうのひざを曲げて、足の長さをそろえてふらつきながらも歩いたり、立ったりしていた。この世界ならではだろう。
 ぼくは走りながらも、車掌の現在位置を確認してから行動すべきだったと後悔した。
 いくつもの車両を移動したが、車掌の姿は見えない。
 もしあの切り離した前のほうに乗っていたのなら、絶望的だ。もう前の車両はとっくの昔に見えなくなっている。
 気づけば、……もうぼくらの乗る後方の車両は停止していた。
 ぼくはさらに車両を移動し、
 死神の鎌を見つけた。
 ぼくの腕を切り落とし、ピュアの足首を切り落とした鎌だ。
 それを拾い、ぼくはもと来た道を戻った。いるかいないかわからない車掌よりも、シンヤの処置をちょっとでも早くすませるべきだった。
「意外と早かったね」
 戻ると、シンヤは座席に小さな体を横たえたままこっちを見た。ピュアがひざ枕をしてあげている。
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