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本丸狂想曲

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: 烏丸梢
目次

「秘密の成り立ち」

彼女にとって『一期一振』は幼い頃からの唯一人の憧れの人だった。
容姿端麗、物腰は柔らかだが、粟田口の長兄として文武のどちらも長けていて、欠点を上げる方が難しい。
そんな人に幼い彼女は長く恋焦がれていた。
最初の『一期一振』は親類の審神者が降ろしたものだったが、とても紳士的に接してくれたし、その笑顔が眩しかった。
つまりは絵にかいたような王子様像そのままだったのだった。
いつか自分も審神者という職業になるのだと覚悟はしていたが、彼を降ろせるのであればその修行も何も苦では無かった。むしろ早く会いたい。早く自分の『一期一振』を降ろすのだと息巻いていた。
その様子は古株の初期刀、加州清光と初鍛刀で降りて来た乱藤四郎は呆れつつも微笑ましく応援しようと見守っていた。
だが、段々と演習を重ねるうちに理想である『一期一振』の人となりを漏れ聞くことがあった。
そして審神者が集まる会議であったり、懇親会であったりで衝撃的な事を知ることになる。

曰く大抵の『一期一振』は真面目は真面目だが、性癖が元の主に寄っていると。
遠くから憧れの人見ている恋する乙女の審神者としては聞き捨てならない。
想いの人の情報収集には越したことがない。
聞き耳をそばだてていると、そこで衝撃的な言葉を聞いた。
「一期一振に女の趣味を聞いたら、さらりとえげつない事言うのな」
「ああ、俺の所の一期も当たり前のように言ってたな」
普段なら、その審神者の男たちは近くに女性がいる前で言う事もない猥談に興じていたのは懇親会の酒のせいだからだろう。
彼女も顔を別の意味で赤くしながら耳を澄ませていた。

「『女性の好みですか? やはりそれは』って真面目な声でさ」

「そうそう! 『巨乳に限りますな』って爽やかな笑顔で言い放つのな」

とんでもない衝撃だった。
思わず他の審神者からお酌をしてもらう手が震えてコップを落とすくらいには動揺していた。
その後はどう自分の本丸に帰ってきたのか覚えていないが、帰宅してやることは一つだった。
聞いた話が本当であるのか、ネットや親交のある審神者の話をそれとなくリサーチして情報を集めた。
だが、聞けば聞くほど嘘だと思っていた話は信憑性が高かった。丘と思っていた高さが、標高3000メートルくらいの山であったくらいには高かった。
どの本丸の一期一振は高い可能性で巨乳が好き。
それがリサーチして得た結果だった。

刀剣男士ほどとは言わないが、審神者の彼女の容姿もなかなかに整っていた。
町に出れば加州清光と乱藤四郎が率先してガードに回るくらいには知らぬ男から声を掛けられていた。
性格も一点を除けば品行方正で温和であるから、後から降ろす刀剣男士たちは良いイメージしか持ってない。
しかし、そんな彼女もコンプレックスが一つだけあった。
昔から気にして誤魔化すような衣服を着ていたり、それを補うものを装着していたりした。
年頃の町娘や審神者の女の友人を見てはため息をつく日々だった。
そこは女性の恰好をとる乱藤四郎がフォローに入るが、暖簾に腕押しでしかない。
まぁ、簡単に言ってしまえば、貧乳だったのだ。
加州清光は別にそこまで無い訳ではないと思うし、それを覆すほどの魅力を彼女は持っていると我が主ながら自慢に思うのだが、恋する乙女にはその言葉は届かない。

そして、とうとうその時が来てしまった。
来る前からもう彼女は対策をとっていた。とっていたからこそ、演習などで会う他の本丸の一期一振の視線がこちらを気にしている様なのも知っていた。
これなら大丈夫。
確信的なものを覚えつつ、いつもの様に鍛刀作業に入っていた。
何度目かの鍛刀時間3時間20分。
この時ほど待ち遠しいものは無く、その前にで降りて来た鶯丸にも江雪左文字にも落ち込んだ顔合わせになって申し訳なく感じていた。

来る、来て、来い!!!

声にならない強い祈りを組んだ手に込めて、恐る恐る手伝い札を使う。
途端に場は光りに覆われ、キラキラと霊力が煌めくのが見え、
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
その言葉とその待ち焦がれた姿を見て、彼女は呼び出した彼のまえで、号泣していた。
「あ、主!? 私はなにか粗相を致しましたか!?」
慌てる一期に傍にいた加州清光が違う違うと笑った。そして今まで待ち続けていたのだと一期に告げると加州は照れた審神者に背中をバシバシと叩かれた。
その時の嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな一期の顔は忘れることはないだろう。
自分が降ろした、自分の一期一振。
憧れて楽しくも苦しい想いをした人が目の前にいる。
これに感動しない人などいないだろう。
涙をこぼした後は、彼に気持ちを込めて微笑んだ。
「これからよろしくお願いします」

彼女は何気なく言ったのだが、一期一振にとってこの泣いた後の笑顔とゆっくりとした挨拶に心奪われていた。
二人はめでたく運命的な出会いを果たしたのである。

加州清光と乱藤四郎だけは、それを複雑な笑みで見ていた。
応援してはいるけれど、これだけ不安に思う事もない。
乱は確信していた。兄が審神者の胸もチェックしていたことを。
加州は複雑に思っていた。貧乳のはずの彼女の胸は服を着ていてもわかるほど豊かになっていたことを。
二人は覚悟した。
この恋人になるであろう男女に振り回されるのだろうと。
それは間違いなどではなく、事実起こることである。

そして事件は起こった。

【続】
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