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本丸狂想曲

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: 烏丸梢
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「秘密の暴露」

「……一期さんは……ご覧になったでしょう……!?」

薄いようで厚みを感じる戸の向こうから悲痛な声がする。
危うく意識がどこか遠くへ飛びそうになるのを彼女の声が引き留めた。
忘れ去りたい現実から逃避する意識を呼び起こす。

「そ、それは……」
いつもであれば即座に反応するのが礼儀というものだったが、見たみたものが審神者の一糸纏わぬ姿だったうえに、それをガッツリ見ましたとも言うに言えなかった。もちろん見逃すはずはなかったのだが。
「……言えませんよね……だって、私は一期さんの好みの巨乳ではありませんから……」
少し考えると彼女の考え方も何かおかしいところがあるのだが、横にいた弟の乱藤四郎に視線を投げると、フルフルと頭を振ってその視線を少し遠くに送る。そちらを辿ると少々離れた所に初期刀の加州清光がいて、困ったように薄く笑いながら頭を振っている。
どうやら彼女の困った思考の暴走は後天性なものではなく、この本丸初期からの二刀が知る先天性のものらしい事を痛感した。
「あ、あの、主!私は別に……その胸の大きさなど」
続々と事件を聞きつけた気配が集まってくるのが分かるが、公然での痴話喧嘩に恥を覚えている場合でもなかった。
「いいえ!分かっています!伊達に他の本丸341件の「一期一振さんの性癖リサーチ」をしたわけではありませんから!」
恥を覚える以上に、彼女は真剣だった。
これには一期もぐうの音がでない。彼女がそこまで調べ上げていたのにも驚いたが、やはり刀剣男士たるもの今までの持ち主の特徴や嗜好を受け継いでいる。その情報類を受け継いでいるからこその付喪神、刀剣男士たり得る部分もある。

「調べた結果、ほぼ十割に近い値で『一期一振』さんは巨乳好きと判明しました!」

今日ほど巨乳という言葉を連呼される日がくるとは思わなかった。そしてそれを言っているのが自分の最愛の人だとも思わなかった。
一期は視線を少し上げてきつく目を閉じた。
ただただ憎らしく感じるのは自分の業。
ここの本丸の一期一振、自分でさえもまごうことなき巨乳好きを否定できない事実だった。

「……なのに私は一期さんに好かれる資格もないのに自分や、周りを偽って……」

彼女の言い出す言葉が予測出来なさ過ぎて肝が冷える。
偽ってというのは偽乳房の事だろう。一期は手の中にあるそれに改めて視線をやるが、
「主!」
腹に力を入れて叫ぶと少し間があった。聞いてくれているという事だろう。またその気持ちが嬉しく思えた。
「私はこの様な偽の物につられて、貴女をお慕いしているわけではありません!」
ベチンと床に叩きつけられたそれは「あわわ」と横に控えていた乱藤四郎が素早く確保したので、現物を見た者はほぼほぼ少なくて済んだという。
「他の本丸の一期一振は知りませんが、私『この本丸の一期一振』は自分の意志によって貴方をお慕い申し上げております!」
はっきりとした声で言い切る長兄を弟たちと叔父は誇りに思い、他の男士たちも公然で言い放つ彼に勝てる者は色んな意味でこの場にいないなと思わせた。
これが自分の想いの強さであると言った。そのつもりだったのだが。

「……でも、一期さんは私の着替えを見た時、まず胸を見ましたよね?」

ドスン!!!!
三名槍の誰かの槍が思い切り胸に刺さった気分だった。
「……っ!!」
思わず胸に手を上げると、そこに穴が開いているわけでは無かったが、ジワリと額に汗が噴き出るのが分かる様だった。
外野もザワリとどよめく反面、「それはそうだろう」派と「それはないわー」派に分かれて議論が小声で始まっている。
弟たちの視線についてはほとんどが「お察しします」であったのと薬研は「しゃーねぇよな」だったのだが、一期本人はそれどころではなかった。

「そ、そのような事は……」

「……見ましたよね?」

「……その……」

「見ましたよね?最初に」

「…………はい、申し訳ありません」

外見にコンプレックスを持つものにありがちなことだったが、他人の視線に過敏になることがある。過敏になりすぎて相手が自分のどこを見ているかを把握できる者もいる。彼女はその手の人だった。
呆然としながらも、頭の隅で彼の視線がどこを捉えているか理解していた。
この様な慧眼があるからこそ優秀な審神者を務められるのかもしれない。今はとても関係ない方向に力を発しているが。
一期も苦悩していた。逃れられない本能のようなもので、そこに注目してしまうものは避けようがない。
本日何度目かの自己嫌悪に陥っていた一期だったが、まさかここに来て彼女が次の手を打つとは思わなかった。

「でも、いいんです。私は分かりましたから……」

鍛刀部屋にこもる彼女の声はとても優しかった。優しく柔らかで、まるで一期が鍛刀して泣いた後の挨拶の時のような初めて彼女に好感をもったその瞬間のような声だった。
胸に感激のようなものが込み上げ、思わず自分も声をあげていた。
「主……!私の想いが分かっていただけまs」


「つまり貧乳好きの一期さんを鍛刀すればいいんですよね?」


爆弾発言投下にその場に居た者は一斉に沈黙した。
「はい?」
一期が振り絞った言葉はそれだけしか出なかった。

【続】
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