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本丸狂想曲

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: 烏丸梢
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「改定する秘密」

「……主……今なんと?」
呆然自失ながら、ようやく一期から言葉がこぼれた。
それによって集まってきた一同の沈黙が破られる。
「ですから」
騒ぎ始めようとしていた外野の声が審神者の声によってさっと引いていった。

「貧乳好きの一期一振さんを鍛刀しようと思います」

いっそ潔く明瞭な答えだった。頭が痛いくらいに。

「あるじさん、それって無理なんじゃないの?」

ズイと声を上げたのは意外と度胸は男前の乱藤四郎だった。
「だよねー。それが可能なら一発目の鍛刀で主が顕現させてそうだし」
話に乗ってくるのは初期刀の加州清光。
「うん。それに『巨乳好き』のいちにいも一期一振たる要素だから、それを全く無視するっていうのはいちにいじゃない男士を顕現させるってことじゃない?」
「そうそう。前の主の好みや伝承がそのまま俺らの要素になる。ってことだから『巨乳好き』は外せないんじゃない?」
助け舟なのだろうが、何故かこの助け舟は一期の心にグサグサささるものがある。
「そもそも、主さん、手術しようとしてなかったっけ?」
ここまでくると初期の二人は容赦ないように爆弾を投下してくる。
「しゅ、手術ですと!?」
一期が何事かと叫ぶと、
「あ、コラ!乱ちゃん!言っちゃう!?それ!?」
鍛刀部屋からは割と軽いノリの返事が返ってきた。
「だって主さぁ、一期の前で隠し切れなくなってきてたから、もう豊胸手術するの!って息巻いてたじゃん。この前の審神者懇親会の飲みの帰りにー」
「清くんもそう簡単に言っちゃうかな!? 次の日に忘れてって言ったじゃない!」
このキャイキャイと交わされる会話は初期の二人と審神者の長い付き合いと、趣味趣向が似てる三人だからだというのは納得できる。が、空気が一気に軽くなった。
「主、手術まで考えておられたのですか……?」
少し話の蚊帳の外に出された気分で呟くように一期は聞いた。
鍛刀部屋のほうから「アッ」と気付いたような声が響き、少しの間をおいて返事がくる。
「その……先ほど着替えてたのはその為の着替えで……今日から数日間、審神者の強化合宿に行くと……」
言いにくそうな審神者の声に乱はあっけらかんと
「ああ、主さん強化合宿ってそういう事だったの?」
「確かに強化といえば強化?主に体の部分で」
「いちにいのための強化だね~」
二人はここまでいうと、視線だけで一期に合図を送る。『今だ!』と。

「主! 私の好みに合わせようと手術まで覚悟されていたのですか!?」
ここぞとばかりに大きく声を張り上げる。
「……そ、そうしたら何も問題なくなりますから!! 正々堂々一期さんに向き合えますから!」
戸の向こうの人もつられて大きく返事をした。
最初に主を発見してから今のいままでなにも男士たちはぼうっとしていた訳では無かった。あの手この手を使って戸を開けようとしていたが、さすがその手の筋は肝いりの我が主。誰がどう力を加えようにもびくともしなかった。かくなる上はと、三条の三日月や大太刀の石切丸、神刀として太郎太刀が奥の間から呼び出しを受けていた。
彼らならばこの強固な戸の結界も破ることができるだろう。しかし、三者三様で動きに時間がかかっていた。
一期の説得は成功して審神者が出てくればそれでよし、出てこなければ三人に戸を断ち斬ってもらおうという算段だった。
計画ではあったけれども一期はまっすぐに返してくれる彼女の気持ちが嬉しくもあった。
そして嬉しいのに、自分の気持ちが通らない悔しさも強かった。
「主には手術などいりません! 私はそのままの貴女でいてくれれば……」
「一期さんは!」
「!!」
「一期さんはそういって止めるだろうなって思ったんです。だから誰にも言わずに決行しようと……」
「主……」
「でも見られてしまったからには、バレてしまったのなら仕方ありません!」
「私はそのままの貴女で」
よしこのまま押し切って説得してしまおう、皆の心がひそやかに一致した時、

「なので、私は貧乳好きな一期さんを鍛刀します!」

何故か話が戻ってしまった。
頭が痛いことこの上ない。
「いやいやいや、先程も言いましたように……」
一期一振を顕現させようとするならば、嫌でも『巨乳好き』が付随してくるはずなのである。一期自身がそれを言うのは流石に憚られたが。
けれど彼女は知っていた。
「イレギュラーな鍛刀はあると聞いた事があります!」
「いれぎゅらー?」
「突然的に普通とは違う変異した性格を持つ刀剣男士の事です!」
「……はぁ……」
いまいち要領を得ない皆の声に審神者は高らかに言う。

「例えて言うなら、人見知りで怖がりの鶴丸さんとか!」

『なるほど!!!!』

かってないほどに皆の心が一つになった瞬間だった。
その中の一人ではあったが、鶴丸国永本人は複雑な気持ちであったのはそっと置いておこう。
「だから可能性はあるんです。貧乳好きな一期さんが鍛刀できるかもしれない可能性が……」
ぽつりと漏れるようにしかしハッキリとした声は、彼女の意志の固さを表しているようだった。
だがしかし、この場にいる数名や一期自身は果てしない違和感を感じていた。
「……あの、主、それは……」
一期は聞くのが恐ろしくもあったが聞かずにはいられなかった。
「……その『一期一振』を降ろしたとして、その時の『私』はいかようになるのでしょうか……?」
まさか、お願いだから予想を裏切ってくれ。今まで予想を裏切り続けられた中で初めてそれを望んだ。

「あ、え、えっと、今の『一期』さんは巨乳好きですから、そんな審神者さんをご紹介しようかと……」

けれども現実というのはかくも残酷である。


【続】
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