Chapter1-2
「歴代のガンダムと名のついた機体のリファイン計画。連邦軍はどっからそんな金を捻出したんだ? なぁ、カタリナ?」
「さぁ、わかりません。が、私たちの血税から、ではないですか」
バリャドリード艦長、ラルフ・ゴードン中佐の言葉に、副官のカタリナ・アッシュバーン大尉がアナハイム・エレクトロニクス社製のファイルに目を通しながら素っ気ない返答をする。
「勘弁してくれ。無駄なモビルスーツを作ってもらうために連邦政府に税金を納めてんじゃないぞ」
「0100年にはジオン共和国の自治権返還がありますから、それまでにジオン残党を壊滅させたい。そういう意図が見え見えです」
「やれやれ、そのフラグシップにこのプロジェクトの新型ガンダムを。で、今回の運用テストというわけだ」
ラルフはため息とともに、目の前にいる豊かなブロンドきらめく美女をまるで汚物を見るような眼で見据える。
「嫌ですわ、艦長。そんな目で見ないでください。私はこのプロジェクトの総責任者ですが、どこの部隊に、いつから、などを決めたのはアナハイムの上と連邦軍の上の人間です。私に文句を言われても困ります」
そんなことを言いながらも、ラルフの目など気にもせず温和な笑顔を返す。
そんな彼女を遠目に、カタリナはファイルの最初のページに記載されている総責任者の欄をなぞる。
メディア・シュナウザー 27歳。
アナハイム工専を卒業、モビルスーツ設計にて頭角を現し、数多くのモビルスーツの開発・改良に携わる。今回のプロジェクトも発案されてからたった2週間で6機の新型機の企画をまとめ上げてきたことから総責任者に抜擢される。
カタリナは眼鏡をくいっと持ち上げて、心の中で『なるほど』と納得した。
彼女の若さでこの壮大なプロジェクトの総責任者というのは些か不可思議なものだが、どうやら交渉術にも長けているのだろう、と予想はできる。
「ところで納品遅れで後から出発することになっている新型はちゃんとルナツーに届くのかい? もしかして、どっかでジオンの残党にでも譲渡する話にでもなってるんなら戦闘に巻き込まれたくないんでな、教えてほしいもんだが……」
「艦長っ」
と、カタリナの怒号がブリッジに響く。
流石に今の発言はまずい。
「あはは、そう言った話は聞いていませんね。それにジオン残党だった『袖付き』は元々資金難でしたから、アナハイムとしてももうモビルスーツを無償で提供する利点はないのでは?」
「ほぉ、まるでやっていたような口ぶりだな」
「社内では結構広まっている噂ですから、う・わ・さ」
おどけてみせるメディアに、ラルフは「はっ」と一笑して艦長席に深く体を預ける。
「まぁ、航行中にテストをするってときはこっちに報告をしてくれ。確かにあんたはアナハイム・エレクトロニクス社様の人間だが、ここは連邦軍の一部だ。何をするにもオレの許可は絶対だ」
「えぇ、わかっていますわ、艦長様」
そう言って、メディアは床を軽く蹴るとブリッジから音もなく出て行ってしまった。
ラルフはその姿を、体ごと振り返って見送り、がっくりと肩を落とした。
「艦長、セクハラ行為はやめてください」
「違うわっ」
どうやらメディアの下着をのぞき込もうとしていたように思われていたようだ。
艦橋内にいた男性クルーたちの一部もびくりと体を震わせ、いそいそと業務に戻る。
「どう思うよ?」
「したたかな女性ですね。さすがアナハイム・エレクトロニクス社のやり手社員、といったところでしょうか」
「きな臭くねぇか」
「だとしても、私たちにできることは予防くらいです」
カタリナの無表情に、眼鏡の奥で光る眼に、簡素な返答に、ラルフはげんなりと項垂れた。
ルナツーに物資を届けるまでの期間だが、若い女性の副官が付くと聞いてラルフと男性クルーたちは小躍りしたいくらいに喜んだが、実際に来たのがカタリナである。
23歳、若い。
風貌も出るところ出ているし、顔も整っている。
確かに若いが、経歴では17歳で士官学校を飛び級で卒業し、連邦軍に従軍。地上でジオン残党、ティターンズ残党を相手に奮戦、功績を上げていき、この若さで大尉だ。
経歴だけ見ればエリート中のエリート。
そして、どういう経緯からかはわからないが、モビルスーツ乗りから補佐士官に異動を希望し、宇宙に慣れるためフォン・ブラウンの駐留部隊で短期間の任務を果たして今に至る。
本来であれば、男どもの引く手あまただろうが、性格がこれではそれも難しそうだ。
「艦長、私たちの航行スケジュールはフォン・ブラウンでの納品で遅れています。艦の速度を少し上げましょう」
艦長席の脇で、腕を組み、何かを思案していたカタリナが、突然おかしなことをつぶやく。
「あ? 遅れの連絡はルナツーに入れてある。航行スケジュールも新しいものが来てるんだぞ。それにな、後から出発した補給艦とも合流しなきゃならん」
ラルフの言葉に、呆れ顔のカタリナの視線が刺さる。
「な、なんだ……」
「いえ、先程のメディア嬢に言っていた言葉は冗談だったのかと思っただけです」
ラルフは首を傾げた。
さっき言っていたこと?
そこで、ラルフはハッと息を吞む。
『戦闘に巻き込まれたくない』
「よし、当艦はスケジュールの遅れを取り戻すため速度を上げろ!」
艦長席に座り直したラルフはクルーたちに叫んだ。
「さぁ、わかりません。が、私たちの血税から、ではないですか」
バリャドリード艦長、ラルフ・ゴードン中佐の言葉に、副官のカタリナ・アッシュバーン大尉がアナハイム・エレクトロニクス社製のファイルに目を通しながら素っ気ない返答をする。
「勘弁してくれ。無駄なモビルスーツを作ってもらうために連邦政府に税金を納めてんじゃないぞ」
「0100年にはジオン共和国の自治権返還がありますから、それまでにジオン残党を壊滅させたい。そういう意図が見え見えです」
「やれやれ、そのフラグシップにこのプロジェクトの新型ガンダムを。で、今回の運用テストというわけだ」
ラルフはため息とともに、目の前にいる豊かなブロンドきらめく美女をまるで汚物を見るような眼で見据える。
「嫌ですわ、艦長。そんな目で見ないでください。私はこのプロジェクトの総責任者ですが、どこの部隊に、いつから、などを決めたのはアナハイムの上と連邦軍の上の人間です。私に文句を言われても困ります」
そんなことを言いながらも、ラルフの目など気にもせず温和な笑顔を返す。
そんな彼女を遠目に、カタリナはファイルの最初のページに記載されている総責任者の欄をなぞる。
メディア・シュナウザー 27歳。
アナハイム工専を卒業、モビルスーツ設計にて頭角を現し、数多くのモビルスーツの開発・改良に携わる。今回のプロジェクトも発案されてからたった2週間で6機の新型機の企画をまとめ上げてきたことから総責任者に抜擢される。
カタリナは眼鏡をくいっと持ち上げて、心の中で『なるほど』と納得した。
彼女の若さでこの壮大なプロジェクトの総責任者というのは些か不可思議なものだが、どうやら交渉術にも長けているのだろう、と予想はできる。
「ところで納品遅れで後から出発することになっている新型はちゃんとルナツーに届くのかい? もしかして、どっかでジオンの残党にでも譲渡する話にでもなってるんなら戦闘に巻き込まれたくないんでな、教えてほしいもんだが……」
「艦長っ」
と、カタリナの怒号がブリッジに響く。
流石に今の発言はまずい。
「あはは、そう言った話は聞いていませんね。それにジオン残党だった『袖付き』は元々資金難でしたから、アナハイムとしてももうモビルスーツを無償で提供する利点はないのでは?」
「ほぉ、まるでやっていたような口ぶりだな」
「社内では結構広まっている噂ですから、う・わ・さ」
おどけてみせるメディアに、ラルフは「はっ」と一笑して艦長席に深く体を預ける。
「まぁ、航行中にテストをするってときはこっちに報告をしてくれ。確かにあんたはアナハイム・エレクトロニクス社様の人間だが、ここは連邦軍の一部だ。何をするにもオレの許可は絶対だ」
「えぇ、わかっていますわ、艦長様」
そう言って、メディアは床を軽く蹴るとブリッジから音もなく出て行ってしまった。
ラルフはその姿を、体ごと振り返って見送り、がっくりと肩を落とした。
「艦長、セクハラ行為はやめてください」
「違うわっ」
どうやらメディアの下着をのぞき込もうとしていたように思われていたようだ。
艦橋内にいた男性クルーたちの一部もびくりと体を震わせ、いそいそと業務に戻る。
「どう思うよ?」
「したたかな女性ですね。さすがアナハイム・エレクトロニクス社のやり手社員、といったところでしょうか」
「きな臭くねぇか」
「だとしても、私たちにできることは予防くらいです」
カタリナの無表情に、眼鏡の奥で光る眼に、簡素な返答に、ラルフはげんなりと項垂れた。
ルナツーに物資を届けるまでの期間だが、若い女性の副官が付くと聞いてラルフと男性クルーたちは小躍りしたいくらいに喜んだが、実際に来たのがカタリナである。
23歳、若い。
風貌も出るところ出ているし、顔も整っている。
確かに若いが、経歴では17歳で士官学校を飛び級で卒業し、連邦軍に従軍。地上でジオン残党、ティターンズ残党を相手に奮戦、功績を上げていき、この若さで大尉だ。
経歴だけ見ればエリート中のエリート。
そして、どういう経緯からかはわからないが、モビルスーツ乗りから補佐士官に異動を希望し、宇宙に慣れるためフォン・ブラウンの駐留部隊で短期間の任務を果たして今に至る。
本来であれば、男どもの引く手あまただろうが、性格がこれではそれも難しそうだ。
「艦長、私たちの航行スケジュールはフォン・ブラウンでの納品で遅れています。艦の速度を少し上げましょう」
艦長席の脇で、腕を組み、何かを思案していたカタリナが、突然おかしなことをつぶやく。
「あ? 遅れの連絡はルナツーに入れてある。航行スケジュールも新しいものが来てるんだぞ。それにな、後から出発した補給艦とも合流しなきゃならん」
ラルフの言葉に、呆れ顔のカタリナの視線が刺さる。
「な、なんだ……」
「いえ、先程のメディア嬢に言っていた言葉は冗談だったのかと思っただけです」
ラルフは首を傾げた。
さっき言っていたこと?
そこで、ラルフはハッと息を吞む。
『戦闘に巻き込まれたくない』
「よし、当艦はスケジュールの遅れを取り戻すため速度を上げろ!」
艦長席に座り直したラルフはクルーたちに叫んだ。
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