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機動戦士ガンダム End of One War 0097

原作: 機動戦士ガンダム 作者: 郭嘉
目次

プロローグ-2

 カチ、カチ、カチ、カチ。

 スティック式の操縦桿に付いている、右マニピュレーターの所持するビームライフルの発射と連動しているボタンをテンポよく……だが、つまらなそうに押すパイロットは女性、いや少女だった。

 汚れ一つない真っ白なノーマルスーツの上からでも、そのまだ未発達な体つきは見て取れる。

「これじゃあ、大した慣らし運転にもならない」

 少女の目的は『誰も殺さないこと』『ルナツーの防衛戦線を突破したら即時引き上げること』『戦闘データを収集すること』『目ぼしいパイロットをマークすること』の4つだった。

 しかし、あまりにも、あまりにもルナツーの防衛に当たっている連邦軍のモビルスーツは弱過ぎた。

 行動が読みやすく、攻撃も行動も、以前に読んだ地球連邦軍のモビルスーツの教本のマニュアル通りで、少女からしてみると『殺してください』と言っているも同然の動きばかりであった。

 中には多少は動けるパイロットもいたが、話にはならなかった。

「ん?」

 少女はバーニアを弱め、機体をくるりと前転させるとモニターを注視した。

 浮いている救命ポッドや半壊している機体を牽引して連邦のモビルスーツが後退していく。

「なに? あきらめたの? つまんなぁい」

 そう言いつつ、少女は笑みを浮かべる。

 あれだけ撃ちまくって一発も、このギラ・ズール高機動型に当たっていないのだ。更なる被害を出す前に撤退させるのが賢明な判断ではある。

 ピーーーーーー

「え?」

 ロックオンアラート。

 少女は素早く操縦桿を握り直し、一気に機体を上方へと走らせる。

 次の瞬間、ギラ・ズールのいた空間を無数の拡散弾が通過していった。

「ジムⅢ? 撤退したんじゃないの」

 少女はビームホークを腰部にしまうと、ビームライフルを右手に持たせ、銃口を前方から猛スピードで接近してくるジムⅢを定める。

 両肩部にミサイルポッドと両腰部と両脚部に大型ミサイルランチャー、両手にバズーカと重装備に身を包んだジムⅢはかなり異様だった。

 そして、少女は味方が撤退したのにも関わらず前線に出てきたジムⅢに違和感も感じていた。

「エースのご登場ってわけ」

 ギラ・ズールとジムⅢ。

 スペックで語れば、圧倒的に旧式であるジムⅢの方が不利ではある。

 だが、エースパイロットの中には、新型機体よりも乗り慣れた旧式機体の方が良い、という者もいる。

 実際に一年戦争において、グフやドム、ゲルググといった新量産機がロールアウトしても、多少の改良はしているだろうが……ザクに乗り続け戦果を挙げたパイロットもいたらしい。

 そして、それは操縦システムの違いという面でもそうだ。

 日本車の右ハンドルから急に、外車の左ハンドルになれば違和感はあるだろうし、運転だっておぼつかなくなるだろう。

 戦場で新型モビルスーツの試運転調整などさせてもらえるのは、戦場とは関係ない後方か、比較的戦況が落ち着いているところくらいだ。

 だが、開き過ぎたモビルスーツの性能は、どんなに優秀な操縦センスや天才的技量をもってしても、ニュータイプや強化人間であろうと、埋めることはできない。

「おもしろいっ」

 少女は興味がわいた。

 こんな無茶な戦闘を、たった一機で仕掛けてくるパイロットに。

 モニターに映るジムⅢの左肩部から大量のマイクロミサイルが発射される。まるで、それは大輪の白い菊が咲くように広がっていく。

「なるほどねっ、捉えられないなら面制圧ってこと? 味方を退げた理由はこれか!」

 少女の指がリズムをとるようにボタンとタッチパネルを操作する。

 左マニピュレーターがビームマシンガンをつかみ出すと、左から右に薙ぎ払うように連射して自身の前面に迫っていたマイクロミサイルだけを迎撃する。

 ギラ・ズールの全天周囲モニターは爆炎と煙に支配されてしまった。

「小賢しい、マイクロミサイルの中にスモークが……はっ!?」

 少女が回避行動をとろうとした瞬間、煙を切り裂き、バズーカの拡散弾がギラ・ズールの機体に直撃する。

「くぅ!」

 散弾ではギラ・ズールにダメージが入ることはほとんどない。

 だが、それは装甲に守られている部分だけの話であり、メインカメラであるモノアイや関節部、弾の当たったときのモビルスーツに対する衝撃は別だ。

 大きくよろめく機体の中で、少女も操縦桿を強く握りしめ、体に喰い込んでくるベルトの痛みに耐えながらモニターから目を離さない。

 またしてもマイクロミサイルの花が宇宙に咲いている。

「しつこいっ」

 今度は後退しつつビームマシンガンを放つ。

 はたして、マイクロミサイルの中に紛れていたスモーク弾はギラ・ズールに届くことなくはるか前方で爆散した。

 これでは煙幕の役割は果たせない。

「今度はこっちの……」

 番だ、と言いたかったのだろう。

 少女の視界の隅に、薄く煙を引く黒い物体が入ってきた。

 大型ミサイルランチャーの弾頭。

 二回目のマイクロミサイルを撃つ前に、ジムⅢのパイロットは先の攻撃でギラ・ズールを堕とせないと読んでいて、あらかじめミサイルランチャーを放ち、罠を張っていた。

「ニュータイプかっ、敵は!」

少女は叫ばずにはいられなかった。

背面すべてのバーニア、スラスターを全開にし、前方へと一気に加速する。

自分にかかってくるGなど知ったことではない。ここで逃げ切らねば、死は確実なのだ。

 ジムⅢからの追撃を警戒してシールドを前に出し、煙幕の中へと突入する。

 その刹那、大型ミサイルは爆発を起こし、少女のギラ・ズールのいた場所を含め、四つの30m級の爆炎がデブリごと宇宙を焼き払った。

「あぁっ」

 後方からのとてつもない衝撃に、ガクンガクンと少女の体が揺さぶられる。

 機体損傷を報せるアラート通知音がコクピット内に鳴り響き、体を揺さぶられたときに噛んでしまったのか、唇から流れた血が宙を漂う。

 サブスクリーンに映し出されるギラ・ズールの機体は1分前の新品同然のものとは、大きく異なっていた。

 背面の損傷がすさまじく動くバーニアは5か所のみ、右脚部は半壊し反応なし、爆風に煽られた際にビームマシンガン、ビームホークを消失。

 屈辱だった。

 自分の油断もあったことは理解できている一方、旧式の機体に、一機のモビルスーツに対して広範囲制圧武器でもって力押しするだけのくだらない戦いを押し付けられ、ギラ・ズール高機動型をここまで貶められた自分が情けなくてしかたない。

 こんな姿を見られた。

 少女は獣の眼光で、ジムⅢをにらみつける。

「おのれぇぇっ!! 殺す! お前はここで死ねっ!!」
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