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機動戦士ガンダム End of One War 0097

原作: 機動戦士ガンダム 作者: 郭嘉
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プロローグ-1

 閃光が走る。

 宇宙の闇を切り裂くようにピンク色の光が無数に走り、クラップ級軽巡洋艦・アエロのメガ粒子砲と副砲も火を噴く。

 彼らの狙いは一点。

『袖付き』と呼ばれるテロリストたちが乗っているAMS-129 ギラ・ズール。

 しかも、ただのギラ・ズールではない。

 その装甲は深紅に塗り染められ、『袖付き』の特徴である手首の部分には袖飾りを思わせるマーキングが施されている。

たったそれ一機だけだというのに、地球連邦軍のRGZ-95 リゼルやRGM-89 ジェガンのビームライフルはもちろん、アエロの側から援護射撃をしているRGM-86R ジムⅢのミサイルポッドやミサイルランチャーもかすりもしない。

「なんだ、あの化け物」

 ジムⅢのコクピットの中でヒューガ・セルンは顎にまで垂れてきた汗を拭い去り、後方支援だと踏んで、脱いでいたノーマルスーツ用のヘルメットを被りつつ、つぶやいた。

 いつも通りの哨戒任務だと高を括っていたが、何の不幸か、こんなことになってしまった。

「しかも赤い機体って、まさか『赤い彗星の再来』が乗ってるわけじゃないよな」

 エースパイロットの多くにはパーソナルカラーというものを持つ者がいる。

 士官学校の教本に載っている色持ちパイロットといえば、ジオン側ならば……赤い彗星のシャア、青い巨星ランバ・ラル、黒い三連星、白狼シン・マツナガ、紅い稲妻ジョニー・ライデンなど。

 連邦軍にも数少ないが、連邦の白い悪魔アムロ・レイ、踊る黒い死神リド・ウォルフ、蒼い死神ユウ・カジマなど有名どころがいる。

 彼らの共通点は単純明快だが、『強い』そして『優れたモビルスーツの操縦技術を持っていること』だ。

 そして、ネオジオン残党の『袖付き』の首魁が『赤い彗星の再来』と呼ばれるフル・フロンタルという男なのだが、彼の駆るMSN-06S シナンジュはまさに赤い彗星の名の通り、赤に塗装されていたという。

 それに酷似したモビルスーツが数百メートル先で仲間を次から次へと撃破し、流れ漂うデブリやモビルスーツの残骸の中を滑らかに、縫うように、青いスラスター光が軌道を描き上げる。

 近づいてくる赤いギラ・ズールは絶えず動き回り、それでいて直進行動、急旋回、スピードの緩急を織り交ぜて、動きの予測をつけさせない。

 数秒間の直線行動が死を意味する宇宙での戦闘を心得たうえに、熟練されている動きだ。

 前線に出ていた最後のジェガンがギラ・ズールの振るうビームホークで頭をかち割られたのを見て、ヒューガは唇を噛んだ。

「ブリッジ、聞こえるか!? 前に出るっ!」

『え、セルン少尉? 待ってください、あなたの任務は本艦の護衛……』

 女性士官のオペレーターが突然の通信に慌てて、ヒューガに本来の任務に戻るように促そうとするが、ヒューガは聞く耳を持たずジムⅢの武装の再チェックを始める。

 今回の出撃に際し、大きな弾頭のノーマル・ミサイルポッドではなく、計30発のマイクロミサイルを発射できるオプション・ミサイルポッドを両肩部に装備させてきたのはラッキーだった。

 あれだけの弾幕を避け切る相手に大型のミサイルは当たらないと考えたからだ。

(ビームライフル、じゃ当たらないだろうな)

 そう考えていると、

『命令無視は厳罰だぞ、ヒューガ』

 オペレーターに変わって聞こえてきたのは、初老の男の声だった。

「ハリー艦長……」

 クラップ級軽巡洋艦・アエロのトップ、ハリー・ディクソン大佐。

 地球連邦軍人にしては珍しく、上下関係にうるさくなく気さくで、部下の意見も聞き入れる器量の持ち主で、ヒューガも世話になっている上官である。

「死んでいいんですか、こんなところで」

 ジムⅢをカタパルトに着艦させながら、ヒューガは反論する。

『敵が攻めてきている。そして、我々の任務は後方にあるルナツーの防衛だ。退くことはできない』

「なら、あの『袖付き』を堕としてみせますよ」

 沈黙。

 返事が返ってこない。だが、通信が切れたわけではない。

 かすかに唸るような息遣いは聞こえてくる。

 モニター越しに寄って来た整備兵に、拡散弾を積んだバズーカを2丁用意するように指示を出しつつ、艦長の言葉を待つ。

 ここで「NO」と言われても出撃するが、艦長の顔を立てなければ後で艦の運営に差しさわりが出てきてしまう。

『生きて帰ってきたら、懲罰房半日だ』

 ハリーの言葉にヒューガは笑みを浮かべる。

 ジムⅢのマニピュレーターに拡散弾が装填されたバズーカを持たせ、カタパルトの接合部に踵裏を喰い込ませる。

「前に出る。援護射撃、当てないでくださいよ」

『前線の残存モビルスーツ部隊に通達。ヒューガ・セルンが、『アエロの問題児』が前線に出ます!』

 オペレーターの言葉に生き残っているパイロットたちの罵詈雑言が合唱のように、ヒューガの耳に届いてくる。

『バカ野郎っ!』

『あいつを前にやる前に回収しろっ』

『あいつの誤射に巻き込まれたくねぇぞ、オレは!』

 そんな言葉もヒューガは鼻で笑い飛ばす。

「その不名誉な二つ名、今日こそ返上してやる!」
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