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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第15話

「確かに、君の書いた部活申請書は、ほぼ完璧だったよ。字も綺麗だったし、アレを模範にしてもいいくらいの出来栄えだった。ただ、嘘を書いていたこと以外は、だけどね」
「嘘?」
「そ。うちの会長は、案外優秀な人なんだよ。学力はもちろんのこと、頭も切れるし勘も鋭い。その会長が、君の書いた部活申請書に違和感を感じた。だから、うちが調べた。その結果、嘘が判明した。ってこと」
「……ちっ」
 桐野が、小さく舌打ちする。
「君もなかなかに優秀な人間みたいだから、気付いてるんじゃないかな? うちらが気付いた、君の書類の嘘」
「…………」
「わからない? なら教えるよ」
 そう言って、相原先輩は話し出した。
 なんでも、この学校の部活申請書には、部活の活動内容とやらを書く場所があるらしいのだが、そこには実際に活動した部活内容を書くらしい。
 つまり、ちゃんとした部活として認めてもらうためには、数日間、同好会のように活動する必要があったようだ。
 しかし、一学期中に部活申請書類を提出しなければならない以上、活動をしている時間は、ない。
 だからこそ桐野は、何て言うか……言ってしまえば、適当に書類をでっち上げたんだそうだ。『校内を清掃する』といった内容で。
 もっとも、桐野はその書類を提出するにあたって多少は清掃活動をしていたらしい。本当に、少しらしいが。
 それでも、そんなので通るほど生徒会は甘くはなかった、というわけだ。
「そんなわけで、現時点で君らの部活……っと、まだ同好会扱いなのか。君らの同好会を部活として認めるわけにはいきません」
「……っ」
 今までは冷静だった桐野の表情にも、少しの焦りが見え始めた。
「っていうか、君の提出した書類には、『校内清掃部』って書いてあったけど、それも嘘なんでしょ?」
「……何故、そう思うんですか?」
「勘」
 即答だった。
「なんていうかさ。君も含め、真白君やそっちの女子たちが、自分から進んで校内清掃に取り組むイメージがわいてこないんだよねぇ」
 確かに。
 桐野が書類にそんなことを書いていたなんて初耳だったが、もう少し俺たちが本当にしそうな部活内容を考えられなかったのだろうか。
「……まあ、部活申請書さえ通れば、後はどうにでもなると思っていたんで、内容は生徒会が好きそうな真面目な活動にしたんですよ」
「なるほどねぇ。確かに、書類が通りさえすれば、君の言うようにどうにでもなっただろうね。頭いいね、君」
「……どうも」
「うんうん。君らみたいな優秀な後輩が入学してきてくれて、うちはうれしいよ」
「……そうですか」
 簡単な返事のみを返す桐野。どうやら、どうやってこの状況を打破しようか考えているらしい。
 残念なことに、俺の脳みその出来じゃ、どれだけ考えてもこの状況を変えることなんてできないだろう。
 部活不認可 → 俺たち解散 → そして……

『女っけのないむさ苦しい高校生活だったけど、お前と一緒でけっこう楽しかったぜ。ま、卒業してもよろしくたのむ』

 なんて、村上に苦笑されながら言われるはめになるに決まっている。それだけは勘弁してほしい。
 だからこそ、桐野には頑張ってもらわねば。
「……申請書を書き直せばいいんですか?」
「そうだね。でも、適当にでっちあげたものをもう一度提出したら、今度はちょっと面倒なことになるかもしれないよ? うちの会長、そういうのには厳しいから」
「わかりました。今度は、完璧な申請書を提出します」
「そう? でも、今から書く君の申請書は、ホントに完璧なのかな?」
「……どういう意味ですか?」
「ん~……君の申請書の嘘を調べるときに、複数の生徒たちから、君たちが本当に活動したいことも聞いちゃったんだよねぇ」
「「…………」」
 俺と桐野が息を呑んだ。
 本当に活動したいこと。それはきっと、非日常を探すということだろう。
 そんな、普通の人間が聞いたらくだらないと一蹴するような内容の部活を作ることを知ったら、確実に俺たちの部活は不認可をもらうだろう。
 だからこそ、桐野も書類に嘘を書くしかなかった。
「まあ、たしかにあの内容じゃ、創部を認められるとは思わないわよねぇ」
 そんな俺たちの様子を汲み取ってか、相原先輩がそう言った。
「でも、うちは好きよ。非日常を探すっていうの。だからこそ、君らが本当に作りたい部活を、つくってほしい」
 真剣なものだった表情を崩し、笑顔を浮かべる先輩。
「……先輩が好きでも、生徒会長や教師たちを何とかしない限り、どうにもならないでしょう?」
「そうかもね。最終的に判断を下すのは会長だから」
「なら――」
「でも、その会長も、うちと同じ思いを抱いているとしたら?」
 生徒会長も、相原先輩と同じ思いを?
 どういうことだ?
「会長も、君らと同じ。退屈な日常に飽き飽きしてるのよ。もちろん、うちもね。でも、そう簡単に非日常なんか見つからない。それが分かったからこそ、うちと会長は諦めてしまった」
 懐かしい記憶を思い出していくように、相原先輩は語った。
 その言葉からは、どこか寂しげな雰囲気が感じ取れる。
 多分、今でも諦めきれないんじゃないだろうか?
「ま、それでも、生徒会に入ったことで、いくらか楽しめてるけどね。もしも生徒会に入ってなければ、うちと会長は腐っていたと思うよ」
 相原先輩の黒い瞳が、俺たちを見る。
「君らには、うちらと同じような道を辿ってほしくないんだよ。それが、うちと会長が抱く思い」
「……先輩の気持ちは、よくわかりました。でも、それならば何故私たちの部活申請書を承認してくれなかったのですか?」
「ん~、今の話でわかんなかったかな? つまりは、部活申請書に真実を書けば、うちと会長の手でどうとでもしてあげるってことだよ」
「……でも、今日はもう十六日。明日からは三連休だし、今から何か活動しろと言われても」
「何言ってるの、三連休があるじゃない。その中の一日使って、どっかでなんかしてきなさい。そうね……非日常を探すために学校を調査とか、そんなのでいいよ。そしたら、後はうちがなんとかしてあげる」
「は、はぁ……でも、いいんですか? そんなので」
「少しはうちを信じなさい。これでも、結構優秀なんだから」
 そんな相原先輩の言葉に、桐野は少し思考を巡らした後、
「……わかりました」
 そう、了承の返事をした。
「ほいほいっと。任せておきなさいな。さってと、それじゃ、うちはそろそろお暇するよ」
 立ち上がり、部屋から出て行こうとする先輩。
「相原先輩」
 そんな先輩の背中に、俺は声をかけていた。
「なにかな?」
「……なんで先輩は、ほとんど赤の他人の俺たちのためにそこまでしてくれるんですか? 自分たちの姿を重ねたってだけで、規則を破ってまで――」
「まあ、たしかにそれだけの理由じゃないよ。うちだって、そこまでお人好しじゃない。現に、ここに来るまでは、自分の感情よりも規則を優先して、『君らの部活は認められません。よって、今後この部屋に入ることも許可できません』って言おうと思ってたしね」
 俺の言葉を遮る、先輩の声。
 先輩はもう一度俺たちの、正確には俺の方を向き、こう告げた。

「最初に言ったでしょ? うちは君のために一肌脱ごうって」
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