剣の少年と愉快な山の住人たち(前編)②
木造小屋の中は三、四人が普通に暮らせる位の設備や大きさがあった。
どの様な経緯でこんな大きな家が建てられたかは分からないが、流石にハンク一人では作っておらず、協力者がいるのはザグルにも分かる。
リビングにキッチン、寝室が二部屋、あとはハンクの自室がある。
ザグルは寝室に荷物のリュックと大剣を置き部屋を出る。
ここで、かつてはルミアとハンクと三人で生活していた。
ルミアとはよくオカズの取り合いで喧嘩していた。
結局、全部ハンクに取られてしまったのだけど、平気で喧嘩に割って入る辺り、やはり、師匠らしくない師匠だった。
思い出に浸りながら辺りを見ていると、人の気配がした。
ザグルが少し警戒する。
武器は置いてしまったのでいざとなれば、外に出て師匠のところに行けるようにしているのだ。
「先生、昼食どうします?」
ザグルやルミアとは違い大人しめの、どちらかと言えば文化系な二十歳そこそこの青年だった。
しかも、ハンクと間違えて無防備な辺り、弟子になって間もないと分かった。
ザグルは相手が無防備なので、警戒を解いた。
「あれ? 先生?」
青年は床の雑巾がけをしていたが、手を止め玄関、ザグルのいる方を見た。
二人の目が合った瞬間である。
「あっ、あなたは?」
驚き声が裏返った。
そして、腰を抜かし、その場に崩れた。
ザグルよりも少し年上だったけど、なんとも情けない男だと思わず呆れてしまう光景だ。
「ああ、ザグル、忘れてた。今、新しい弟子がいてさ……」
話しながら、小屋の中にハンクも入った。
「せっ、先生~」
泣きそうになりながら、ハンクに向かった。
途中から言葉が重なったため、ハンクは話しを中断した。
「こら、泣くな」
青年はハンクにベッタリとくっ付いた。
「だって、先生が死んだのかと……」
「誰が死ぬんだ!」
「誰が殺すんだ!」
二つの言葉が同時に出て、
「ボケぇぇぇぇぇぇ!」
最後の言葉は上手くユニゾンした。
「ですが……」
気が弱くザグルより身長が高いはずの身長がどんどん小さくしていった。
その容姿をよくよく見ると、ごくごく普通だった。
きっちり整った黒い髪。分厚いメガネをしていて、その奥の黒い瞳のタレ目はどう見ても気弱そうで、他も普通だった。
ザグルが思うに、この男の容姿からの女運はぼちぼちだろう。
容姿ではルミアには劣っているのだ。
そもそもルミア以上のイケメンはまだ、観たことがないのだけれども。
ちなみにクラン以上の絶世の美女は目撃したことがないが、どちらにしても性格が残念な美男美女がいるパーティだと思う。
「あーあ! 小さくなるな! いいか? こいつはお前の兄弟子だ」
怯えている青年に面倒くさそうにハンクが説明する。
「兄弟子……、ですか?」
それを聞くと青年は縮むことはなくなった。
「ああ、ザグルだよ。いつも話しているだろう?」
「あ~あ、マヌケで有名な~」
なにかを思い出したかのように話す。
「おい! どんな説明の仕方をしているんだ?」
ザグルはハンクに抗議した。
「えっ? 大陸一のマヌケ」
その言葉を発する辺り、ハンクには罪悪感なんか欠片もなかった。
ちなみに、余談ではルミアを『大陸一のおバカ』と説明していた。
「大丈夫、こっちは大陸一のヘタレだから」
(なにが大丈夫なのか全く分からない……)
ザグルが呆れる。
「先生、酷いです~。ヘタレなんて~」
「ヘタレているだろう?」
ハンクはザグルに聞いた。
「ヘタレてる」
大きく頷いていた。
(そうなると、師匠は世界一のアホだな)
ザグルは思う。
規模が大陸から世界に変わっているが、歴史の教科書に載る元・勇者なのだから世界規模なのだ。
「二人で酷いです~」
「あーあ、泣くなって、それより自己紹介しろ!」
「ああ、そうでした。始めまして、僕、ライト・アルバーノと言います。みんなからはライトと呼ばれているので、ライトと呼んで下さい」
慣れないザグルに愛想笑いを浮かべていた。
「アルバーノ」
素直に呼ぶのが嫌いだったので、ファミリーネームで呼んだ。
「へそ曲がりですね~」
「別に、言われた通りに呼ぶのが嫌なだけ」
「それをへそ曲がりって言いませんか?」
「そおかなぁ?」
「はい、漫才はそこまで、食事の支度は?」
「あ~あ、そうでした。なに食べます?」
「なんでもいいや、上手ければ」
「はーい」
ライトはキッチンへと向かった。
二人になったザグルとハンク。
二人は席につき、一息入れた。
「ところで、なんで、あんな見るからに文科系の男がここにいるんだ?」
「修行したいからに決まっているだろう?」
そりゃ、こんな辺境の地にいるのだからそれが大半の目的だろうけど、本当のことだがハンクの目が少し泳いでいた。
「……師匠、実は、ここに来た訳聞いてないでしょう?」
ザグルにも分かる程動揺していた。
「五月蝿い。面倒なだけだ」
ザグルは大きくため息をついていた。
(結局、聞いてないじゃん)
ザグルは呑気なハンクに呆れ、キッチンで料理をしているライトの姿を見ていた。
(こんな文科系が鍛えるためにここにいる訳ないよな)
悪い奴ではないだろうけど、やはり目的が分からない男だと感じた。
どの様な経緯でこんな大きな家が建てられたかは分からないが、流石にハンク一人では作っておらず、協力者がいるのはザグルにも分かる。
リビングにキッチン、寝室が二部屋、あとはハンクの自室がある。
ザグルは寝室に荷物のリュックと大剣を置き部屋を出る。
ここで、かつてはルミアとハンクと三人で生活していた。
ルミアとはよくオカズの取り合いで喧嘩していた。
結局、全部ハンクに取られてしまったのだけど、平気で喧嘩に割って入る辺り、やはり、師匠らしくない師匠だった。
思い出に浸りながら辺りを見ていると、人の気配がした。
ザグルが少し警戒する。
武器は置いてしまったのでいざとなれば、外に出て師匠のところに行けるようにしているのだ。
「先生、昼食どうします?」
ザグルやルミアとは違い大人しめの、どちらかと言えば文化系な二十歳そこそこの青年だった。
しかも、ハンクと間違えて無防備な辺り、弟子になって間もないと分かった。
ザグルは相手が無防備なので、警戒を解いた。
「あれ? 先生?」
青年は床の雑巾がけをしていたが、手を止め玄関、ザグルのいる方を見た。
二人の目が合った瞬間である。
「あっ、あなたは?」
驚き声が裏返った。
そして、腰を抜かし、その場に崩れた。
ザグルよりも少し年上だったけど、なんとも情けない男だと思わず呆れてしまう光景だ。
「ああ、ザグル、忘れてた。今、新しい弟子がいてさ……」
話しながら、小屋の中にハンクも入った。
「せっ、先生~」
泣きそうになりながら、ハンクに向かった。
途中から言葉が重なったため、ハンクは話しを中断した。
「こら、泣くな」
青年はハンクにベッタリとくっ付いた。
「だって、先生が死んだのかと……」
「誰が死ぬんだ!」
「誰が殺すんだ!」
二つの言葉が同時に出て、
「ボケぇぇぇぇぇぇ!」
最後の言葉は上手くユニゾンした。
「ですが……」
気が弱くザグルより身長が高いはずの身長がどんどん小さくしていった。
その容姿をよくよく見ると、ごくごく普通だった。
きっちり整った黒い髪。分厚いメガネをしていて、その奥の黒い瞳のタレ目はどう見ても気弱そうで、他も普通だった。
ザグルが思うに、この男の容姿からの女運はぼちぼちだろう。
容姿ではルミアには劣っているのだ。
そもそもルミア以上のイケメンはまだ、観たことがないのだけれども。
ちなみにクラン以上の絶世の美女は目撃したことがないが、どちらにしても性格が残念な美男美女がいるパーティだと思う。
「あーあ! 小さくなるな! いいか? こいつはお前の兄弟子だ」
怯えている青年に面倒くさそうにハンクが説明する。
「兄弟子……、ですか?」
それを聞くと青年は縮むことはなくなった。
「ああ、ザグルだよ。いつも話しているだろう?」
「あ~あ、マヌケで有名な~」
なにかを思い出したかのように話す。
「おい! どんな説明の仕方をしているんだ?」
ザグルはハンクに抗議した。
「えっ? 大陸一のマヌケ」
その言葉を発する辺り、ハンクには罪悪感なんか欠片もなかった。
ちなみに、余談ではルミアを『大陸一のおバカ』と説明していた。
「大丈夫、こっちは大陸一のヘタレだから」
(なにが大丈夫なのか全く分からない……)
ザグルが呆れる。
「先生、酷いです~。ヘタレなんて~」
「ヘタレているだろう?」
ハンクはザグルに聞いた。
「ヘタレてる」
大きく頷いていた。
(そうなると、師匠は世界一のアホだな)
ザグルは思う。
規模が大陸から世界に変わっているが、歴史の教科書に載る元・勇者なのだから世界規模なのだ。
「二人で酷いです~」
「あーあ、泣くなって、それより自己紹介しろ!」
「ああ、そうでした。始めまして、僕、ライト・アルバーノと言います。みんなからはライトと呼ばれているので、ライトと呼んで下さい」
慣れないザグルに愛想笑いを浮かべていた。
「アルバーノ」
素直に呼ぶのが嫌いだったので、ファミリーネームで呼んだ。
「へそ曲がりですね~」
「別に、言われた通りに呼ぶのが嫌なだけ」
「それをへそ曲がりって言いませんか?」
「そおかなぁ?」
「はい、漫才はそこまで、食事の支度は?」
「あ~あ、そうでした。なに食べます?」
「なんでもいいや、上手ければ」
「はーい」
ライトはキッチンへと向かった。
二人になったザグルとハンク。
二人は席につき、一息入れた。
「ところで、なんで、あんな見るからに文科系の男がここにいるんだ?」
「修行したいからに決まっているだろう?」
そりゃ、こんな辺境の地にいるのだからそれが大半の目的だろうけど、本当のことだがハンクの目が少し泳いでいた。
「……師匠、実は、ここに来た訳聞いてないでしょう?」
ザグルにも分かる程動揺していた。
「五月蝿い。面倒なだけだ」
ザグルは大きくため息をついていた。
(結局、聞いてないじゃん)
ザグルは呑気なハンクに呆れ、キッチンで料理をしているライトの姿を見ていた。
(こんな文科系が鍛えるためにここにいる訳ないよな)
悪い奴ではないだろうけど、やはり目的が分からない男だと感じた。
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