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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
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剣の少年と愉快な山の住人たち(前編)③

 それから一時間後……。
 テーブルには三人分の食器は並べられていたが、それに比例しない量の料理が並べられていた。
 麺料理に、ご飯もの、サラダに至るまで、全て大盛りだったのだ。
「いつ見ても多いな」
 ザグルは呆れていた。
 ザグルやライトが育ち盛りだとしても、四人分で済むはずだけど、七人分はゆうに有った。
 これはハンクが五人分食べるからだ。
 隠居生活の大喰らい……。
 これで体格に影響無いのが不思議な話である。
 きっと代謝がとてもいいのだろう。
 ザグルは勝手に自己完結をしていた。
「まあ、いいじゃないか、頂きます」
 ハンクがいち早く料理を口にした。
「うん。美味しい」
 噛む量も半端なく多かった。
「いただきます」
 ハンクの隣にザグルが座っている。
 ザグルも箸を持ち料理を口に運んだ。
 ザグルの真向かいにライトが座り、二人も後から食べ始めた。
「本当に美味しいや」
「だろ? お主やジェイの料理より美味しいだろ?」
 家事は全て弟子達が当番でやっていた。
 今はライトしかいない為、家事は全てやっている。
「だって、初めてだったんだい!」
「弟子になるなら、料理くらい勉強しても良かろうに……」
 ザグルの作る料理は確かに食べられない事はなかった。
 しかし、焦げた味はするは、味付けは薄いは、とても美味しいものでは無かった。
 それでも初めて作った割には上手い方だと、ザグル自身は思っていた。
 山にいる間、ハンクに認められる事は無かったが……。
 きっと、今も認められるって事は無いだろう。料理の腕が上がっていないのだから……。
 ルミアも同じくらいの腕前だったのは言うまでもない。
「必要ないだろう!」
「まあ、落ち着いて下さい。カルシウムが足りないみたいですね?」
 牛乳を渡した。
「それこそ、余計なお世話だい!」
 ザグルは牛乳をライトの元に戻し、ご飯を頬張った。
 認めたくは無かったが、確かに美味しいのは事実だ。
「でも、牛乳は飲むべきですよ?」
 さりげなく、牛乳を渡した。
「オレは牛乳が嫌いなの! あんなの飲み物じゃないやい」
 臭くて、味が微妙だし……。等々、牛乳に対する文句はあと五個言えた。
 元の場所に戻す。
「だから、大きくならないのだろ?」
 ハンクが笑っていた。
「うっさいわ! 飲まなくても身長は伸びるやい。まあ、オレのことはどうだっていいが、アルバーノはどうして、ここの弟子になったんだ?」
 理由なんて人それぞれだ。
 元々聞く主義はなかった。
 だから、ルミアが山にいた真意は分からない。
 でも、なんとなく想像がつくから本当の意味で聞かなくってよかった。
 だが、ライトのそこには興味があった。
 肉体労働が苦手なのに、ここにいるのは相当な理由があるのだと、少なからず判断が出来る。
 しかし、ここで無くてはならない理由はないと思ったのだ。
「あなたもひねくれ者ですね。まあ、いいのですが、僕がここにいるのは……」
「ライト様!」
 扉がいきなり開いた。
 そこから、白いレースのエプロンを黒いスカートの上から身にまとい、清潔さをアピールしたメイド服を着た女の子が入ってきた。
「さぁ、今日こそ帰りますよ!」
 ザグルとハンクを無視して、一直線にライトの元へと向かった。
「言ったはずです。僕は帰らないと」
 弱虫で物事をはっきり言わないタイプのライトだが、決意がある時は別で、言いたいことをはっきり言えた。
「いいえ、帰るのです。当主様もそれは心配して……」
 女の子も負けていない。
「いいざまじゃないですか? 父さんは僕より跡継ぎの心配をしているのですから」
 話の内容が、まさにありがちのようだ。
 ザグルはなんなく話しが見えてきたので、大きくため息をついていた。
「そんなことはともかく、さあ、帰りますよ!」
 腕を引っ張り、無駄だと分かっていて、力が足りないにも関わらず、無理矢理連れて帰ろうとした。
「嫌だ。僕は帰らない!」
「帰るの!」
「嫌だ!」
 子供の喧嘩が始まりを告げた中、ザグルがハンクに向けて口を開いた。
「アルバーノってなに者なんだ?」
「さてね~、どこかの大陸の、どこかの国の上流商人とは聞いたけどな~」
「聞いたって……」
「歳のせいか、忘れぽくってな~」
 まるで人ごとのようで、ライトとメイドのいざこざを見ているのに、ハンクは呑気に話す。少し楽しんでいるように見えた。
(娯楽のように見てんじゃねーよ。人嫌いのくせに)
 ザグルは師匠の行動に更にため息をつく。
「忘れたんかい! ってか、年齢のせいにすんな! あと『迷宮(ラビリンス)』の調子悪いんじゃないのか?」
 弟子であるライトはともかく、メイド服の女の子が、しかもハンクの弟子になるつもりも無い子が、ここにいるのはおかしいのだ。
 『迷宮(ラビリンス)』の入り口はキャロの山の麓の『ライス』の森にある。
 ハンクが特別な魔法を掛けている為、興味の無い人間や、術者が向けた条件に当てはままらない限り、森の外に出てしまうシステムとなっているのだ。
 勿論、山道もあり、キャロの山を登る事も出来る為、ハンクの術は一点集中となっているのだ。
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