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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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じゅうろっこめ


Sの葬/儀は、密/葬ということで私やワイミーが喪主として先頭に立ち施設の中で執り行われた。

キラ事件の最中だったこともありだいぶ遅れての葬/儀となってしまったが参列した施設にゆかりのある人間や事件関係者が参列しそれなりに大きな葬/儀となった。

中でも彼女を姉と慕っていた3人組の落ち込みようは酷かった。かくいう私も、妹のように思ってきた相棒の死に自分の心が潰されたような言い知れぬ思いを抱えてこの地にやってきた。


葬/儀が終わり、横たわっているSを目にして力なく備え付けの椅子に座った私に、ワイミーが何かを言おうと口を開いたのがわかり、遮るように言葉を発する。

「2人にしてくれ」

突き放すようにそう言った私に、ワイミーはただ黙ってその場を後にした。

Sと初めて出会ったのは、いつかのSの部屋に訪問した時。私たちの部屋は隣同士で、事件のことについて考察を伸ばしていた私は本当に無意識のうちに部屋を間違えて彼女の部屋へ入ってしまったのだが。

彼女はそれに冷たい瞳を向けた後に興味なさげにそらしたのを未だに鮮明に覚えている。
もう君には興味がないとでも言うように、本当に彼女は他者に対して無関心であった。

彼女は、周りとの人間関係に希薄だった。
ワイミーとはニ、三言葉を交わすものの、他者、特に同世代の子供たちには何ら関心を示さなかった為彼女と友達になりたそうに見つめていた子は多くても彼女自身がそれらを受け入れることは最後までなかったように思える。

そんな彼女の唯一心を許す人間のひとりに入れた時は、自分らしくもなく喜んだものだった。

それはきっと、私自身がそう言った人間関係に無頓着で、同じようにワイミー以外に気を許してこなかったからだろうけれど。

今となれば彼女は最初に出来た、何ら遠慮なく思うがままに「私」としていれる、そしてそんな「私」を受け入れてくれた友人で会った。

彼女を友人というには、近すぎて、家族と呼ぶにはくすぐったくて、彼女自身にその思いを伝えたことはなかったけれど。確かに彼女は私の一部となっていた。

「S、君が私より先に逝くなんて思っても見ませんでした」

アルビノのように元々白かった彼女の肌は何も変わらないのに、ひんやりと氷のように冷たくなってしまった彼女の体温が、彼女との別れを告げる。

キラ事件は彼女の死後に解決し、安/置所に入っていた彼女の葬/儀をゆっくりとこの彼女の育った土地、ワイミーズハウスで開こうと提案したのは他ならぬワイミーだった。

「すみません、随分待たせてしまいましたがキラ…夜神月は、私がこの手で捕まえましたよ。君の言う通り、私は彼に勝ちました」

夜神月は終身刑ということで、デスノートの手の届かない場所で、私の管理の元過ごすことを条件依今も東京の街で私の右腕として生きている。

本来ならそこには、Sもいたはずなのに。

月君は事件終結の日、Sが死ぬはずじゃなかったことをもらした。

弥海砂の死神、レムから事の前に死神の目を用いてもSの本名を知ることは出来ない特殊体質であったことは聞いていた為、あの日死ぬのは私とワタリのはずだったとつぶやいたのを聞く。

それに混乱したのは他でもない、名をあげられた私たちだった。確かにSは本名というものを持たなかった。それは本人の意向であったし、何かと邪魔になる日が来るかもしれないと、彼女は偽名とイニシャルのみで生きてきた。けれど、きっと彼女も無意識のうちに「これ」と決めた名があると思っていたのに。

本名のない彼女は墓石に刻む名前すらなく、相談してきたワイミーだったが、彼女をよく知るワイミーズハウスの人間、ハンナの意向から彼女がワイミーズハウスで愛称として呼ばれていた「アリー」と彫られることになった。

彼女は私が思うよりも随分と慕われていたらしい。ハウスの子供たちや、私の後継者候補と呼ばれる3人も、彼女の死を弔い悲しむ。

あの日、死に、ここに名を刻まれるのは私であったかもしれないのに。まるで私たちを守るように、最後まで、私を並ばせることがないように先に行ってしまう彼女に拳を握りしめた。

Sの写真を手に取り、ポケットにしまうと出口の方まで歩いていき、一度だけ振り向いた。写真の中の彼女はいつも私の前にいたあの気丈な彼女で「さっさと事件解決に向かいなさいよ」と叱咤しそうな彼女に苦笑いをして、扉のノブを引いた。

そこに居たのは先程部屋を追い出したワイミーで、彼は優しく微笑むと門の前にある車を手のひらで指した。

「L、そろそろ」

「はい、そうですね。いい加減にしないとSに怒られそうです」

「彼女なら、夢に出てきてでも叱咤しそうですね」

この事件で失ったものは大きすぎた。
車に乗り込み、流れる景色をぼんやり見つめていると隣の座席に白い何かがぼんやりと見えた気がしてふっと何となしにそちらを見ると、そこに居た「何か」に目を見開く。

「情けない顔でも見てやろうと思いましたが、何とか大丈夫なようですね。まあ覇気のない顔なのは変わりないようですが?」

くす、と笑う彼女は半透明で、でも生前よりも柔らかい顔をしている。

「寂しくないですか?困ったことなんかは」

「L」

私の言葉を遮るように、私を呼んだ声は、最後に聞いたそれよりもしっかりとしたもので、今彼女は苦しんでいないのだとわかり、少しだけ、肩から力が抜けていく。

「向こうで見守っています。ひとつでも多く、難事件を解決してください。当分は死にそうになっても追い返しますから、よろしくお願いしますね。…ワイミーさんも」

「Sに言われては仕方ないですね。善処します」

「そうしてください」

ふふ、と柔らかく笑った彼女は空気に溶けるように消えていった。

それに運転席にいるワタリの方を見ると、「見えていました」そう伝えるように、うっすらと涙が溜まった瞳を優しく細めて頷いた。

どうやら私は、死後の彼女にすら敵わないらしい。

窓の外を見るとここ最近雨続きだった空は、秋晴れを思わせるように雲一つない晴天だった。


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