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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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じゅうごこめ

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※オリキャラ死ネタあり
残虐な描写はありませんが苦手な方はご注意ください。
時間軸は、ちょうど原作のLと月の決着がついたところの部分を意識しています。

本名はない、と思われていたSの本名が長年親しみの意味を込めて呼ばれていた「アリー」になっていたというendです。


* * *


ドクン、と心臓が跳ね上がった。

角砂糖を持っていた指先が震えて、時が止まったように体の自由も効かない空間で私はいわゆる「走馬灯」と呼ばれるものを体験した。

駆け巡るように今までの人生がまるで映画のエンドロームのように流れていく。

その中に一組の男女が私を嬉しそうに抱き上げる情景が浮かび上がったが、男女の顔は曇っていて良く見えなかったけれど。きっとあれが自身の「親」と呼ばれる存在なのだろうとわかった。

この数時間後、彼らは私を捨てたのだ。きっと彼らの顔を思い出すことはないだろう。

ころん、と情けない音を立て指先から落ちた角砂糖に、息が詰まっていく感覚が強くなり「ああ、死ぬのか」なんて他人事のように自身の「死」を悟った。

「S…?」

となりで情けなく震えたLの声が聞こえる。
ワイミーズハウスに居る時からほんのすこしだって他者に対して情けない部分を見せたがらなかった彼らしくないその声音は不思議と私の「死」へ対する恐怖を払拭させた。

まるでこの発作のような苦しみは一時的なものですぐに治るような、そんな安心感に私自身戸惑いながら。

今にも泣き出しそうな顔で目を見開いているLを「なんて顔をしているんですか」なんて言って笑ってやろうと思ったのに、体は言うことを聞かずに地面へと真っ逆さまに落ちていく。

がらんと2つ分の椅子が弾き飛ばされる音が鼓膜に響き、床にたたきつけられると思っていた体は柔らかくて温かい体に受け止められたのが分かる。

震える視界に、Lが泣きそうな顔で私に何かを訴えてくるのが分かるけれど、まるで水の中にいるように耳には何も届かない。

何かを必死に叫んでいるのは聞こえるのに、口を見つめても思考が定まらずに読唇をすることすらできなくなっていた。

そして、意思に関係なく呼吸がだんだんと浅くなっていくのを感じた。

「え、る」

ひゅ、と息をこぼし、目元からあふれる涙を拭うことすらできず、私はLをただ見つめ返す。

自分の声すら聞こえない。
目元はぼやけてうまくLを見つめることすらできない。
それでも必死に、手繰り寄せるように、彼がこの言葉を受け取ってくれることを信じて紡いだ。

「あと、は…た…の…み、まし、た」

ああ、なんてあっけない人生だろう。
16年という短い月日は、あまりにも短すぎて。
結局ワイミーさんに言われた「生まれた意味」すら分からずに終わっていくだなんて。

今過去の私に会えたのなら私は言うだろう。
あの頃の、ワイミーズハウスでとがっていた私に「人生は君が決めつけるより、単純な物ではないのですよ。」と、もっと周りを見つめて、視野を広げられるように。せめて、あの人たちだけは。

映像が切れるように落ちた意識に、私はきっと二度と目覚めることはないだろうことを悟った。


* * *

カラン、と乾いた音が響いた。

ちらりと見たのは隣にいる相方の席で、いつもなら私が情けない声で彼女を呼べば鬱陶しそうに顔をしかめながらも私を見て「なんて顔しているんです」なんて冷たくあしらってくるのに。

目を見開き、目の前をぼんやり見ている彼女に、言い知れぬ焦りが募っていった。

「Sはキラ事件には適任なんです。本名のない彼女は、キラに殺されることはありません」

ワタリが彼女をここに連れてきた日に言っていた言葉が脳裏でよみがえる。

そんなの嘘だったじゃないか。揺れる視界に、傾いていくSの身体が見えて慌てて抱き寄せるように床と彼女の間に身を滑り込ませると、彼女は何の抵抗もなく私の胸に体を預けるように転がった。

「S!しっかり、しっかりしてください…!」

Sの身体を揺さぶり、何度も声をかけている間、捜査本部にいた夜神さん達は何が起きたか分からないように唖然としていたところから意識を取り戻し、私たちに駆け寄ってくる。

一緒に居た月君も、青ざめた顔で「なんで、どうして」といった焦りがあからさまに見えて、彼が容疑者だと考えていた自分の推理が違っているのではないかと錯覚しそうになるのをSに意識を集中させることで思考を止めた。

相変わらずぼんやりと、それでいてしっかりと私を見つめる瞳はどこか遠くを見つめていて、焦りが増していく」

「え、る」

小さく、息を吐くのと同じくらいの声量に、一言でも聞き逃すまいと耳を澄ませた。

「あと、は…た…の…み、まし、た」

あなたなら勝てます、ぽつぽつと途切れ途切れの音をつなぎ合わせると、Sはゆっくりと瞼をおろしていき、やがてその空色を瞼で隠してしまった。

月君の後ろで、松田さんが力なく床に転ぶのを視界の端におさめながら、私は徐々に冷たくなっていくSの身体を力強く抱きしめ、ワタリからの通信をどこかぼんやりとしながら聞いていた。

私の胸の中でも、何かが押しつぶされて砕けたような気がした。


つづく
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