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レイン

ジャンル: その他 作者: 紅葉
目次

ショットガン・ロシアンルーレット②

勝負はレインの先行で始まった。
つまりレインが攻め、ショットが守りの手番である。

まずは7つある内の銃、ひとつを選び、弾を装填する。
装填は衝立で相手の視界を遮った状態で行われる。
なるほど通し番号がついているのは後でどれに入れたかわからなくなることを防ぐためか、とレインは悟った。

机の上に整列している銃を手で撫でるように触り、数秒の逡巡。
やがてその内のひとつを左手で拾い上げ、右手で弾を込めようとしたところ・・・

ガシャン。
軽いんだか重いんだかわからない音を立てて、ショットガンが床に落ちた。

衝立の向こうからショットが叫ぶ。
「おいおい・・・緊張して手でも滑ったか?壊れて暴発させないようにな」

「あぁ、悪かったよ」

レインは一言謝ると、何事もなかったかのように拾い上げ、弾を込める。
その様子を後ろで見ていたハルマからも、レインが緊張で手を滑らせたようにしか見えなかった。
意外にあいつも、この状況に少しはヒリヒリきているんだろうか、と思いを馳せる。
もうこうなれば、ハルマにはレインの無事を祈って見守るしかない。

「頑張れ・・・レイン」

弾を装填したあとはレバーを引く。これで弾の装填は完了だ。
レバーアクションの音が地下室に響いた。

「準備完了だ。始めようか」

「あぁ、待ち焦がれていたよ・・・さぁ、銃口を向けてみろ!」

レインは7丁あるうちのひとつめのショットガンを構える。
銃口は、まっすぐにショットの方向を向いている。

次は守り側のショットが選択する番である。
どこかを撃つか、それともパスか。

「無難に行こう、左腕だ。よーく狙え」

先ほど袖まくりをした左上を差し出すように前へ向ける。
もし当たれば、手どころか肩から先の大部分を失うことになるだろう。

引き金に指をかける。
さしものレインといえども、銃を人に向けて発砲するのは初めてだった。
頬を一筋の汗が伝う。

後ろで見守るハルマも、思わず身を乗り出してかぶりつきになる。
緊張の一発目。

・・・・・・・・・・・・・・カチッ。

「お見事。空だ」

「くっくくく、やはりやはり、1発目にいきなりドカンはなかなかないよなぁ?」

ふぅ、とレインは溜めていた息を吐く。
レインからすればこの銃が空なのはわかりきっているのだが、それでも指が重くなる動作には違いなかった。
今使われた銃は、使用済みとして脇の台へ。
レインは次の銃を構える。

「さあ二回戦・・・次は」

結論から言えば、二戦目も弾は空でセーフであった。
ショットが選択したのは右腕。
これで7丁のうち2つが使われ、ショットには20ポイントが加算されている形になる。

「ここでも空!そうだよなぁ・・・人はなかなか撃てないよなぁ」


ゲーム開始からずっと張り付いたままの笑顔でショットはレインを煽る。
恐らく、これまでもずっと見てきたのだろう。
人に銃を向け、引き金を引くという重圧に押しつぶされそうになっている者たちを。

何言ってるこのイカレ野郎が・・・!後ろで勝負を傍観するハルマはそう思った。
後ろで見ているだけで体中から汗が出てくるようなギャンブルなのだ。
いや、むしろこのゲームはギャラリーの立場が最も重たいのかもしれない。
なにせ当人たちとは違い、銃に弾が入っているかどうかがわからないのだから。
いつ目の前で人体が弾け飛ぶかわからないのだ。

ショットの言葉にも全く反応せず、レインは次に撃つ銃を手に取る。
その表情は、無というより真剣そのもの。
将棋盤を睨む棋士のような、常に思考する者の顔だ。

「次・・・」

「シールドだ」

レインが尋ねる前に、食い気味にショットは答えた。
シールドを選択。つまりこの銃に弾が入っていると読んでの動きだ。

「とはいえ、ここには実際に盾があるわけじゃあない。あっちの壁に向かって撃ってくれたらいい」

ショットの指さした方向は、入り口から見て右側の壁。
妙にボコボコした跡があるとは思っていたが、どうやら弾を消費するための壁らしい。
その壁の抉れ様から、ショットガンの威力が伺える。

「じゃ、遠慮なく」

「くく・・・暴発せんようにな」

「・・・そうだな」

引き金を掛けている指とは逆の腕で、銃身をしっかりと支える。
大小さまざまな穴ができてしまっている壁に向けて、レインは発砲した。

パン、というよりガン!と形容した方がよいのだろうか。
よく聞く乾いた破裂音とは一線を画す、とんでもない爆発音。
若干離れた場所にいるハルマにも衝撃が届くかのような轟音。
Ⅱの刻印がされたソードオフ・ショットガンは火を噴き、壁に新たな傷をつけていた。

「って・・・ちょっと待てよ、ここで弾が入っててシールドで受けたってことは」

我に返ったハルマは計算する。
何せ、このゲームで最も理想的な選択は弾をシールドで受けることだ。
それが今、目の前で成立してしまったのだから、とにかく焦る。

今が三戦目なのだから、まず二回戦までの20ポイント。
シールドで弾を受けたボーナス、60ポイント。
そして、残りの銃は空なので、自動的に入るのは40ポイント。

つまり、ショットの獲得点数は120ポイントに昇った。
もしこれで勝利すれば、1億2千万ウルを手に入れるようになる。

そこまで計算して、ハルマは気づく。
レインのあまりに絶望的な状況に。

「さぁて、それじゃあ次は私が撃つ番だね。せいぜい弾が当たらないよう祈っているといいよ」

苦戦必至、地獄の後半戦が始まる。
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