代打ち賭博師ショット
その日は良く晴れた夜だった。
雲のない夜空は、街を守る明かりのような月が浮かんでいる。
身体を撫でる夜風を感じながら、レインとハルマは古臭い館の前に立っていた。
門には蜘蛛の巣が張っており、長い間手入れがされてない様子がうかがえる。
というか、まるで廃墟のようだった。
「時間通りよくきたな。中に入れ」
荘厳な扉を開けて、中から金貸しの男・・・ハルマに金を貸した張本人だ・・・が手招きをしてくる。
ハルマは魔物の口の中に入るような悪寒を覚えたが、レインにはそんな様子は微塵もない。
気遅れなどまったくしない調子でズンズンと扉を潜った。
「へっぇ、いいセンスだな」
入り口を潜ると、外とは打って変わって掃除の行き届いた玄関ホールが出迎えた。
大理石の柱が2本立っている立派な広間で、隅には薄暗い明かりが灯っている。
まるで光でも嫌っている妖怪でも住んでいるのか、光はかなり心もとない。
「ひとつ確認するが、お前はハルマの野郎の代打ちで間違いないんだな?」
「ああ、そうだよ」
「こんなガキがね・・・。今日はこちらも代打ちを立てている。こっちの部屋で張ってもらう」
金貸しに案内され、赤い絨毯が敷かれた長い廊下・・・を渡らず、脇にある階段を下る。
下に行くということは、地下へ進んでいるということだ。
いよいよ逃げられないところまできた、とハルマは唾を飲む。
タバコを吸いたい気分だ。だが無許可で吸うのは忍びない。
ちょうど1階分といったところで、地下の階段の先にはまた部屋の扉があった。
この部屋だ、と金貸しの男はドアノブに手をかけ、捻る。
洋風の屋敷らしい、ギィィという音が地下に響く。
「え・・・広っ・・!」
「そんなに広いか?」
ハルマが素っ頓狂な声をあげるが、レインはけろっとしたものだった。
地下室は50平米はあろうかという広々とした空間だった。
天上もそれなりに高く作られており、薄い光のシャンデリアがいくつかぶらさがっている。
部屋の中は赤ワインのような色合いの絨毯が敷き詰められており、白い壁紙と落ち着いたコントラストを放っていた。
こんな状況でもなければ、ゆっくり過ごしてみたい部屋だと思ったかもしれない。
食事や会議にでも使う部屋なのか、部屋の中心には楕円形の円卓が置かれている。
柄の入ったテーブルクロスが敷かれている豪華なものだ。
そして、その円卓の先・・、入り口から最も遠い席に、一人の男が座っていた。
「ショット、今日の相手を連れてきた。今回は俺に400万ウルを貸している」
「んん・・・?」
ショット、と呼ばれた男が手に持っていたワイングラスを机に置き、立ち上がる。
身長は170センチほど・・・レインよりは大きいが、そこまででもない男だった。
見た目はやせ型で、品の言いグレーのスーツに身を包んでいる。
年の候は40ぐらいか・・・白みがかった頭髪は、ハルマよりもかなり年上なことを伺わせた。
「子供がきているようだが・・・」
「どうやらこいつが代打ちらしい」
「ほう・・・おもしろいおもしろい!私の名はショットという!」
レインが賭博の相手だと知るやいなや、ショットは興味津々とばかりに机を回り込んで近づいてきた。
自分の名を告げると、右手を差し出し握手を求めてきた。
「俺はレインだ。ひとつよろしく頼むよ」
手を握り返し、握手に答えるレイン。
「後ろの人はハルマだ」
「よ、よろしく・・・」
「ハルマ君か、君は後見人かな?よろしく頼むよ」
後見人ではなく借金を背負っている超本人なのだが、なかなかこの子供に代打ちを頼んでいる状況は伝わりづらいのであろうか。
「せっかくこうして会ったんだ、これも何かの縁。どうかな?一杯」
ショットはワイングラスを二つ、机の上から持ちあげ、自分が飲んでいたワインのボトルから中身を注いだ。
透き通ったグラスの中で、赤い液体が跳ねる。
「悪いがワインは趣味じゃないな・・・、そんなことより、勝負は何を?」
「なんだ。まぁ子供にはまだ早かったか、悪いね」
渡そうとしていたグラスをそのまま机に置く・・・かと思いきや、一気に煽るショット。
ワイングラスを一本あっという間に飲み干し、ため込んでいた息を吐く。
「今夜の勝負だが、お互いの同意を得て決定しようと思っていた・・・例えばこれなんかどうだ?」
ショットはスーツのポケットからトランプの入った四角い箱を取り出し、レインに見せつける。
「これでポーカーでもなんでも・・・・」
「しょうもない」
は?
そんな声を、ショットとハルマが同時に上げる。
「おいレイン、お前何言って・・・」
「やるならもっとでかい勝負でなくてはダメだ。細かい勝負をやる気はない」
ハルマの呼びかけなど無視して、レインは続ける。
「借金の400万ウルでも足りないってんなら、俺の命でもなんでも賭けよう」
「・・・命でも・・・?」
「聞けってレイン!」
「うるさいなぁ、ハルマさん。このギャンブルはもう俺のものなんだから邪魔しないでよ」
「そうは言ってもだな・・・」
突拍子もなくむちゃくちゃなレインの要求に、しどろもどろするハルマ。
そんな二人を見ながら、最初は茫然としていたショットだったが、次第に口角を上げ・・・・
パン!と勢いよく手を叩く。
乾いた音が地下室に響いた。
「命!か!面白い!ならば最悪、死を招く。そんな勝負も可能ということかな?レイン君」
「あぁ、当然だ」
この男は尋常じゃない。
エールの対決をした時からずっと感じていたことだったが、ここにきてハルマは確信する。
本当にこの男はキレているのだと・・・。
目の前のやりとりが理解できず、ハルマは思わず円卓のイスに倒れこむように座った。
「それじゃあ準備するから少し待っていたもらおうか・・・お望みの命がけギャンブル」
「『ショットガン・ロシアンルーレット』の開幕だ!」
雲のない夜空は、街を守る明かりのような月が浮かんでいる。
身体を撫でる夜風を感じながら、レインとハルマは古臭い館の前に立っていた。
門には蜘蛛の巣が張っており、長い間手入れがされてない様子がうかがえる。
というか、まるで廃墟のようだった。
「時間通りよくきたな。中に入れ」
荘厳な扉を開けて、中から金貸しの男・・・ハルマに金を貸した張本人だ・・・が手招きをしてくる。
ハルマは魔物の口の中に入るような悪寒を覚えたが、レインにはそんな様子は微塵もない。
気遅れなどまったくしない調子でズンズンと扉を潜った。
「へっぇ、いいセンスだな」
入り口を潜ると、外とは打って変わって掃除の行き届いた玄関ホールが出迎えた。
大理石の柱が2本立っている立派な広間で、隅には薄暗い明かりが灯っている。
まるで光でも嫌っている妖怪でも住んでいるのか、光はかなり心もとない。
「ひとつ確認するが、お前はハルマの野郎の代打ちで間違いないんだな?」
「ああ、そうだよ」
「こんなガキがね・・・。今日はこちらも代打ちを立てている。こっちの部屋で張ってもらう」
金貸しに案内され、赤い絨毯が敷かれた長い廊下・・・を渡らず、脇にある階段を下る。
下に行くということは、地下へ進んでいるということだ。
いよいよ逃げられないところまできた、とハルマは唾を飲む。
タバコを吸いたい気分だ。だが無許可で吸うのは忍びない。
ちょうど1階分といったところで、地下の階段の先にはまた部屋の扉があった。
この部屋だ、と金貸しの男はドアノブに手をかけ、捻る。
洋風の屋敷らしい、ギィィという音が地下に響く。
「え・・・広っ・・!」
「そんなに広いか?」
ハルマが素っ頓狂な声をあげるが、レインはけろっとしたものだった。
地下室は50平米はあろうかという広々とした空間だった。
天上もそれなりに高く作られており、薄い光のシャンデリアがいくつかぶらさがっている。
部屋の中は赤ワインのような色合いの絨毯が敷き詰められており、白い壁紙と落ち着いたコントラストを放っていた。
こんな状況でもなければ、ゆっくり過ごしてみたい部屋だと思ったかもしれない。
食事や会議にでも使う部屋なのか、部屋の中心には楕円形の円卓が置かれている。
柄の入ったテーブルクロスが敷かれている豪華なものだ。
そして、その円卓の先・・、入り口から最も遠い席に、一人の男が座っていた。
「ショット、今日の相手を連れてきた。今回は俺に400万ウルを貸している」
「んん・・・?」
ショット、と呼ばれた男が手に持っていたワイングラスを机に置き、立ち上がる。
身長は170センチほど・・・レインよりは大きいが、そこまででもない男だった。
見た目はやせ型で、品の言いグレーのスーツに身を包んでいる。
年の候は40ぐらいか・・・白みがかった頭髪は、ハルマよりもかなり年上なことを伺わせた。
「子供がきているようだが・・・」
「どうやらこいつが代打ちらしい」
「ほう・・・おもしろいおもしろい!私の名はショットという!」
レインが賭博の相手だと知るやいなや、ショットは興味津々とばかりに机を回り込んで近づいてきた。
自分の名を告げると、右手を差し出し握手を求めてきた。
「俺はレインだ。ひとつよろしく頼むよ」
手を握り返し、握手に答えるレイン。
「後ろの人はハルマだ」
「よ、よろしく・・・」
「ハルマ君か、君は後見人かな?よろしく頼むよ」
後見人ではなく借金を背負っている超本人なのだが、なかなかこの子供に代打ちを頼んでいる状況は伝わりづらいのであろうか。
「せっかくこうして会ったんだ、これも何かの縁。どうかな?一杯」
ショットはワイングラスを二つ、机の上から持ちあげ、自分が飲んでいたワインのボトルから中身を注いだ。
透き通ったグラスの中で、赤い液体が跳ねる。
「悪いがワインは趣味じゃないな・・・、そんなことより、勝負は何を?」
「なんだ。まぁ子供にはまだ早かったか、悪いね」
渡そうとしていたグラスをそのまま机に置く・・・かと思いきや、一気に煽るショット。
ワイングラスを一本あっという間に飲み干し、ため込んでいた息を吐く。
「今夜の勝負だが、お互いの同意を得て決定しようと思っていた・・・例えばこれなんかどうだ?」
ショットはスーツのポケットからトランプの入った四角い箱を取り出し、レインに見せつける。
「これでポーカーでもなんでも・・・・」
「しょうもない」
は?
そんな声を、ショットとハルマが同時に上げる。
「おいレイン、お前何言って・・・」
「やるならもっとでかい勝負でなくてはダメだ。細かい勝負をやる気はない」
ハルマの呼びかけなど無視して、レインは続ける。
「借金の400万ウルでも足りないってんなら、俺の命でもなんでも賭けよう」
「・・・命でも・・・?」
「聞けってレイン!」
「うるさいなぁ、ハルマさん。このギャンブルはもう俺のものなんだから邪魔しないでよ」
「そうは言ってもだな・・・」
突拍子もなくむちゃくちゃなレインの要求に、しどろもどろするハルマ。
そんな二人を見ながら、最初は茫然としていたショットだったが、次第に口角を上げ・・・・
パン!と勢いよく手を叩く。
乾いた音が地下室に響いた。
「命!か!面白い!ならば最悪、死を招く。そんな勝負も可能ということかな?レイン君」
「あぁ、当然だ」
この男は尋常じゃない。
エールの対決をした時からずっと感じていたことだったが、ここにきてハルマは確信する。
本当にこの男はキレているのだと・・・。
目の前のやりとりが理解できず、ハルマは思わず円卓のイスに倒れこむように座った。
「それじゃあ準備するから少し待っていたもらおうか・・・お望みの命がけギャンブル」
「『ショットガン・ロシアンルーレット』の開幕だ!」
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