陸話 "名前で呼んで"
「!」
殺気を感じ、寐玲は飛び起きて部屋を出る。
そこには赤い狐の仮面を付けた男性が立っていた。
「…紅蓮か…」
「昨日ぶりですね…九重寐玲さん…いや、繊月総隊長」
紅蓮は軽く会釈する。
寐玲はクナイを構える。
「そんな構えなくても、今日は貴方の安否を確認しに来ただけですから戦う気はありませんよ」
ケタケタと笑う。
「貴様の言葉を信じるとでも?」
「こればかりは本当ですから…」
ま、信じてもらえなくても良いですけど。と、紅蓮は短い溜息をつく。
「そんな事より、聞きたい事があるんですよ」
「……」
「ここではチャクラはいつも通りに使えてます?」
「……」
「忍術は使えてます?」
寐玲は答えない。
「つれないなぁ…まぁ良いか、取り敢えずここまでにしましょうか」
紅蓮は踵を返す。
「本当に忍術学園を落とす気か?」
「ええ、必ず落とします」
瞬身の術で消えた。
「必ず…か……」
寐玲はふと隣の尾浜の部屋を見たが自室に入っていった。
「気付かれたかと思った…」
「いや、あれは絶対気付いていただろ」
尾浜の部屋に五人は集まっていた。
寐玲の殺気に気付き、久々知が屋根裏から、少し遅れてろ組の三人が様子を見ようと来たのだ。
「あの赤い仮面の人が紅蓮か…」
「あぁ、見た感じ強そうだったな」
竹谷、鉢屋と呟く。
「寐玲よりも強かったりするのかな…」
「雷蔵…今寐玲が聞いたら泣いてたと思うぞ…?あいつは総隊長って言う一番偉い地位だから強いに決まってるじゃないか」
鉢屋がツッコミを入れる。
「それより、"チャクラ"って言ってたけど何だろうな」
久々知が呟く。
「何だろうな…いつも通りに使えるかって言ってたけど…」
「寐玲に訊いてみる?」
「え、何で俺に言うの」
四人の視線が竹谷に集まる。
「いやぁ、八左エ門ならいけそうかなーって」
「結局は俺の仕事なんだな、こういう面倒なことは…!」
くそう、皆してと竹谷は嘆く。
その時、
「やっぱり起きていたか」
寐玲が部屋に入ってきた。
「寐玲っ!」
「紅蓮と話している時に気配を感じたからまさかとは思っていたが…」
寐玲は溜息をつく。
「な、なあ、あのさ」
訊きたいが中々言葉にすることが出来ず、どもってしまう。
「何だ?聞きたい事があるならハッキリと言え」
寐玲に睨まれ硬直してしまう竹谷。
「ねぇ、寐玲…チャクラって何?」
尾浜が訊く。
「今説明するのは面倒だ、また今度な……それよりも、紅蓮がここに来た事を秘密にしていてくれないか?」
「何で?」
「紅蓮が来たとなると多分…いや、絶対に六年生が黙っていないだろう?」
確かに善法寺ならともかく、潮江・食満・七松辺りが特に黙っていなさそうだ。
「そうだね…見回りとか野外実戦とか言って学園の外に出そうだね」
尾浜の言葉に他の五年生は皆同意する。と同時に六年生のやる気に満ちた声が脳内に響き渡り、寒気を感じた。
「紅蓮はそこを突いてくる…見回りしてる隙とかな…だから秘密にしてほしい…」
「攻められたら困るしな…良いよ、黙っている」
五人は頷く。
「済まない……その代わり、お前達の頼みを一つ聞こう」
「じゃあさ、僕達の事を名前で呼んでよっ」
「…そんな事で良いのか?」
寐玲は驚く。
「そんな事って言ってるけどまだ一回も名前で呼ばれたこと無いんだからね…!」
同い年なんだから普通に呼んでよ、と尾浜が言う。
「分かった、呼ばせてもらう…勘右衛門、兵助、三郎、雷蔵、八左エ門」
呼ばれてニコリと笑う四人。
つられて寐玲も微笑む。
少しは距離を近づけられたかなと尾浜は思った。
「さ、まだ日の出までには時間がある…実技に備えて寝るんだぞ…」
「おうっ、おやすみー!」
ヒラヒラと手を振り、寐玲は出て行った。
そして、ろ組の三人も出て行った。
「さて、もう一眠りするか」
尾浜と久々知は「おやすみ」と言い合い、横になった。
「紅蓮……奴は一体何を考えている…」
寐玲は自室に戻り、部屋の中心で胡座をかいて座る。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
瞑想を始めた。
今までの紅蓮の行動を振り返る。
紅蓮が率いる暗部の中の小組織“赫火(あかび)”派。
例え仲間を失う事になったとしたも任務の遂行の為ならば、どんな犠牲も構わない。
対象の攻略は二人・二人・三人・二人の四回に分けて行う。
紅蓮は信頼する腹心と常に行動を共にしている。
そして奴は、冷酷な上に人の“死“を楽しんでいる。
寐玲は目を開けた。
「奴は何故木ノ葉ではなく、この世界に目を向けたんだ?」
今まで木ノ葉の忍全員が認知していなかった別の世界に。
寐玲自身も転生されるまで忍従学園の事も、自分達とは違う忍の事も知らなかった。
それに加えて、チャクラを使わない、認知していない忍が居る事も知らなかった。
「チャクラを使わない者に対して絶対的優位に立てるからか?」
何故優位に立ちたい?
疑問ばかりが浮かぶ。
そんなに考えても本人が居ないから答えを聞くことが出来ない。
これ以上は無駄と思い、布団に入る。
「赫火派と戦う事に変わりは無いからこれ以上は詮索しないほうがいいな…小手調べに影響出ても困るから寝るか…」
寝るまでに時間はかかったが、身体を休める事は出来た。
そして数刻後、運動場に全生徒と先生方が集まっていた。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。