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relieve

原作: その他 (原作:IDOLiSH7) 作者: cmcm
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relieve4

 万理が失踪してから千の夢には万理が現れるようになった。その中で万理は命を落とすが、そこには万理が存在するからそれでいいと千は言う。
(いや、よくないだろ)
 第一、なりゆきだったとはいえ再会したのだから、その時点で夢を見る理由はなくなったはずだ。それなのに見続けているということは、千の傷が癒えていないことを指し示している。
「……あのな、千」
「あ。着いたんだね」
 整理のつかない中、なにかを言わなくてはいけないと思い万理は口を開いたが、周囲に意識が向いたのか、千は自分のマンションに車が停まっていることに気づいて万理の言葉をさえぎった。
 腕を離して「今日はありがとう」と言うと、シートベルトを外して車から降りようとする。だが、ドアに手をかけたところで、万理は反射的に千の腕を取った。ぬいぐるみを入れた袋がガサリと音を鳴らす。
「なに?」
 不思議そうにまたたいた千は万理を見た。
 千のこころに大きな傷を残したのは間違いなく万理だ。五年前の千は万理に依存していた。だからこそ万理は千の前からいなくなったのだ。その結果として、いまのトップアイドルRe:valeがいるのだと思っていた。自分の行動は間違っていなかったのだと。
 だけど、そんなに簡単な話ではなかったのかもしれない。
「……また、どこか行こう。遠出じゃなくて、仕事が終わったあとに軽く食事、でもいい」
 つなぎ止めなければ、と思った。こちら側に万理がいるのだと千にきちんと認識させ、終わらせないといけない。
「変な万」
 万理のこころの内を知らない千はそう言いつつも、「うん、そうね」と微笑んだ。

「まただ……」
 スマートフォンを見て、千はつぶやいた。
「どうしたの、ユキ」
 番組収録までの待ち時間、ひととおり出演者への挨拶を終えたあとに、Re:valeに与えられた控室で千と百が時間をつぶしていたときのことだ。千は百へとスマートフォンの画面を向けた。
「万から。モモも行く?」
「バンさん?」
 ラビットチャットの画面には『仕事が終わったらメシ食わない?』とある。文面を見た百は、あーと天を仰いだ。
「オレ今日、飲み入れちゃった。残念。ユキ、バンさんと楽しんでおいでよ」
「うん……」
「どしたの。うれしくないの?」
 顔をくもらせる千を、百が気遣う。
「なんか、あいつ最近変なんだよ。前は僕が誘っても滅多にいい返事をよこさなかったのに、ここのところ向こうから頻繁に連絡入るし」
「デレ期、とか?」
 百が言うと、うーんと千は首をかしげた。
「そんなの万にないと思うんだけどな」

「遅くなって悪い。誘ったの俺なのに」
 万理が千の住むマンションに着いたのは、午後十時を過ぎたころだった。
「おつかれさま。ごはん出来てるよ」
「ん、ありがと。手間だっただろ、外でよかったのに」
「でも時間あわせるのたいへんだし、ここにいるのが楽だから」
 千はリビングに万理を通すと、すっとダイニングチェアを引く。テーブルの上には料理が並んでいた。
「はい、どうぞ」
「……どうも」
「前にドラマでやったんだよね。ホテルマンの役。様になってるでしょ?」
 ふふ、と笑ってキッチンに向かおうとする千の腕を万理はつかんだ。
「なに?」
「知ってるよ。おまえの出たドラマと映画は全部見たし、いまも見てる」
「ありがと。……ねえ、手」
 放して、という意味を込めて千は自分のほうに引くが、腕をつかむ力は変わらない。
「万、おなかすいてないの」
「すいてるけど、きちんと言葉にして伝えておこうと思って」
「ドラマを見たことを?」
 それにしては万理はひどく真剣な目をしていて、こんな真面目な顔で話をされるのはいつぶりだろうと千はぼんやりと思った。もしかしたら、五年ぶりかもしれない。
「おまえの前から、もう消えないってことを」
 万理が告げると、千は怪訝な顔をして、あからさまに警戒した様子を見せる。
 五年前、千はたいせつにしていたうちのひとつを失った。けれどその後の五年間で、すこしずついまの形に持ってきたのだ。百。岡崎事務所。俳優。バラエティ。煩わしかっただけの人間関係に前向きに取り組み、これまでやろうともしなかったことをしてきた。
 それなのに。
「なにをしようとしてるの、万」
「なにって」
 百とのRe:vale。積み上げてきたその中で、いちばんこころのよりどころになっていたもの。
「壊さないで」
 ぽつりと千がつぶやく。
「僕がどんなに捜しても見つからなかったくせに、あんなに簡単に現れて、こわさないで……」
「おまえ、なに言って」
「夢の中から、僕の万を取り上げないで」
 きれいな顔をわずかにゆがめた千の言葉に、万理は千の腕をつかむ力を強めた。
「取り上げるとかそういうことじゃない。誰かが死ぬ夢を見続けてるなんて、どう考えたっておかしいだろ。俺はいま、おまえの目の前にいるのに」
「だめ」
 駄々をこねる子どものように首を振って、千はつかまれてないほうの腕で顔を覆った。
「聞きたくない」
「千」
 だって、と空気のような声で千は告げる。
「僕は万がすきだけど、おまえはちがうじゃないか」
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