話し合い
聖杯戦争。万能の願望機を求めて行われる、七人の魔術師の殺し合いだ。一人に一体の従者が与えられて、最後の一人になるまで殺し合い続ける。
英霊。人々の信仰によって、座と呼ばれる世界の記録に登録された英雄を、クラスの枷を嵌めて降霊させる大儀式だ。
杯の中身を英霊の力で満たす為、戦争が続けられていく。
セイバー、バーサーカー、ライダー、ランサー、アサシン、キャスター。各々の特徴を活かしながらの戦いだ。
セイバーは白兵戦に優れている万能型のサーヴァントである。
心なしか、自分のクラスを説明する時に誇らしげな顔をしていた。素直な性格らしい。
「聖杯戦争…」
「馬鹿げていると思われるかもしれませんが、貴方も魔術師なのでしょう?」
回路で繋がって魔力を供給している。質も悪くない。よく鍛えられているのだろう。
「であれば、私を見れば理解出来るはずです」
膨大な魔力で編み込まれた霊体だ。その存在の一片に至るまで、現代の常識を越えた神秘を感じ取れる。
「真名を明かせず。ステータスを隠す不義理はご容赦を。信を得てから明かしたいのです」
「それは構わないけど。英霊が目の前に現れる程の奇跡か。…確かにありえないとは言えない」
何より冬木市の異変は感じ取っている。集団失踪や異常な目撃情報があるのだ。
「ここ最近の失踪事件はその影響か」
苦々しげな顔での言葉に士郎の性質を感じ取ったのか、少し嬉しそうに言葉を返す。
「魂喰いに手を出したか、魔術師の英霊が素材を求めたか。断言は出来ませんが、大きな異変が起きているのならば、聖杯戦争が原因の可能性はあります」
勝つためならば、手段は選ばないのが魔術師だ。
一般人の犠牲なんて、露程にも気にしないだろう。神秘の秘匿が原則になければ、もっと派手に命を貪っていたかもしれない。
「そうして、俺だけでは抗う事すらできないと」
先程のランサーとの戦闘で身にしみた。まだ肉体のダメージは残っている。途轍もない実力差を感じ取ったのだ。セイバーがいなければ確実に死んでいた。
「申し訳ありませんが、マスターの力量では一合が限界でしょう」
「妥当な判断だ」
むしろ一手凌げるだけでも素晴らしい。愚直に鍛えられている証拠であった。センスがなくとも、堅実に積み上げられた鍛錬の効果が現れている。
「人の身では優れた力でしょう、よく鍛えられていて好ましい。しかし、その程度では焼け石に水です」
「ふっ」
思わず笑みが零れた。ぎこちないながらの笑み。からかわれたと勘違いしたのか、仄かに怒気を滲ませながら。
「何か?」
「いや、西洋の英雄がことわざまで使えるのが何となく面白くて」
聖杯から知識を与えられているらしい。妙に面白かった。
「面白いと思ったのなら、素直に笑ってください」
「そう、だな。笑えてなかったか」
寂しそうに微笑む彼を見て、勘違いに気付いたらしい。士郎にからかう意図はない。ただ、その。笑うことが酷く苦手なだけであった。
勢いと怒気をなくしながらも、困った様に口を開く。
「苦笑でした。少し傷つきます」
「悪い」
「お気になさらず」
さて。聖杯戦争の説明は終わった。戦争を降りるつもりもない。戦いは避けられないだろう。
「どういたしますか?」
とりあえずの行動方針を定めなければいけない。漠然と過ごしているだけでは、あっさりと命を落としてしまう。まずは互いの考えを整理しておこう。
「えっと、セイバーさんに願いはないのか?」
「セイバーと呼び捨てで構いませんよ」
英霊とは言っても、そもそもセイバーは従者だ。主に敬称をつけられてはやりづらい。騎士、そうして個人としても、変に壁を感じる対応は嫌だった。
「命の恩人だからな」
「であれば、私もシロウと呼ばせていただきます。お互いに同じならば構わないでしょう」
マスターと呼ばれるよりしっくりくる。
重厚な鎧姿の騎士を相手に、マスターと呼ばれるなんて落ち着かなかった。改めて士郎の言葉を考える。
「それで私の望みですか」
少しの間考えを巡らせて、出てきた結論は重苦しくも。
「何も何もありません」
意外にも願いはないらしい。対価を求めて呼び出されるのではないのだろうか。
「そうなのか?」
万能の願望機だ。強い願いがなくても、何かしらの望みを叶えたいと思うのは自然だろう。
…そういう士郎の方こそ、実際何も望んでいない。
煉獄の記憶を抱えながらも、いや、抱えているからこそ。何でもありの願望機なんて、あってはならないとさえ思っている。
「あれだけの事をしでかして、今更望めるほどの幼さは残っていません」
それはセイバーの罪の記憶なのだろう。罪悪感を抱えながら世界に在り続ける。どこか士郎と似ている面を感じられた。縁が濃い。
「現れた面が最期の時に近かったのでしょう。渇望はこの身になく」
漆黒の在り方は安定も表わしている。
子供のような不安定さはなく。罪を背負い感じながらも、呼び出された今を生きている。迷いがないわけもない。揺れながら騎士は在るのだろう。
「許されるならば贖罪を。私だけは貴方を裏切らないと、反逆しないと誓います」
悪の道に進もうと止めはしない。元より己は騎士に相応しくない。正義の道なんて歩めないんだ。
英霊。人々の信仰によって、座と呼ばれる世界の記録に登録された英雄を、クラスの枷を嵌めて降霊させる大儀式だ。
杯の中身を英霊の力で満たす為、戦争が続けられていく。
セイバー、バーサーカー、ライダー、ランサー、アサシン、キャスター。各々の特徴を活かしながらの戦いだ。
セイバーは白兵戦に優れている万能型のサーヴァントである。
心なしか、自分のクラスを説明する時に誇らしげな顔をしていた。素直な性格らしい。
「聖杯戦争…」
「馬鹿げていると思われるかもしれませんが、貴方も魔術師なのでしょう?」
回路で繋がって魔力を供給している。質も悪くない。よく鍛えられているのだろう。
「であれば、私を見れば理解出来るはずです」
膨大な魔力で編み込まれた霊体だ。その存在の一片に至るまで、現代の常識を越えた神秘を感じ取れる。
「真名を明かせず。ステータスを隠す不義理はご容赦を。信を得てから明かしたいのです」
「それは構わないけど。英霊が目の前に現れる程の奇跡か。…確かにありえないとは言えない」
何より冬木市の異変は感じ取っている。集団失踪や異常な目撃情報があるのだ。
「ここ最近の失踪事件はその影響か」
苦々しげな顔での言葉に士郎の性質を感じ取ったのか、少し嬉しそうに言葉を返す。
「魂喰いに手を出したか、魔術師の英霊が素材を求めたか。断言は出来ませんが、大きな異変が起きているのならば、聖杯戦争が原因の可能性はあります」
勝つためならば、手段は選ばないのが魔術師だ。
一般人の犠牲なんて、露程にも気にしないだろう。神秘の秘匿が原則になければ、もっと派手に命を貪っていたかもしれない。
「そうして、俺だけでは抗う事すらできないと」
先程のランサーとの戦闘で身にしみた。まだ肉体のダメージは残っている。途轍もない実力差を感じ取ったのだ。セイバーがいなければ確実に死んでいた。
「申し訳ありませんが、マスターの力量では一合が限界でしょう」
「妥当な判断だ」
むしろ一手凌げるだけでも素晴らしい。愚直に鍛えられている証拠であった。センスがなくとも、堅実に積み上げられた鍛錬の効果が現れている。
「人の身では優れた力でしょう、よく鍛えられていて好ましい。しかし、その程度では焼け石に水です」
「ふっ」
思わず笑みが零れた。ぎこちないながらの笑み。からかわれたと勘違いしたのか、仄かに怒気を滲ませながら。
「何か?」
「いや、西洋の英雄がことわざまで使えるのが何となく面白くて」
聖杯から知識を与えられているらしい。妙に面白かった。
「面白いと思ったのなら、素直に笑ってください」
「そう、だな。笑えてなかったか」
寂しそうに微笑む彼を見て、勘違いに気付いたらしい。士郎にからかう意図はない。ただ、その。笑うことが酷く苦手なだけであった。
勢いと怒気をなくしながらも、困った様に口を開く。
「苦笑でした。少し傷つきます」
「悪い」
「お気になさらず」
さて。聖杯戦争の説明は終わった。戦争を降りるつもりもない。戦いは避けられないだろう。
「どういたしますか?」
とりあえずの行動方針を定めなければいけない。漠然と過ごしているだけでは、あっさりと命を落としてしまう。まずは互いの考えを整理しておこう。
「えっと、セイバーさんに願いはないのか?」
「セイバーと呼び捨てで構いませんよ」
英霊とは言っても、そもそもセイバーは従者だ。主に敬称をつけられてはやりづらい。騎士、そうして個人としても、変に壁を感じる対応は嫌だった。
「命の恩人だからな」
「であれば、私もシロウと呼ばせていただきます。お互いに同じならば構わないでしょう」
マスターと呼ばれるよりしっくりくる。
重厚な鎧姿の騎士を相手に、マスターと呼ばれるなんて落ち着かなかった。改めて士郎の言葉を考える。
「それで私の望みですか」
少しの間考えを巡らせて、出てきた結論は重苦しくも。
「何も何もありません」
意外にも願いはないらしい。対価を求めて呼び出されるのではないのだろうか。
「そうなのか?」
万能の願望機だ。強い願いがなくても、何かしらの望みを叶えたいと思うのは自然だろう。
…そういう士郎の方こそ、実際何も望んでいない。
煉獄の記憶を抱えながらも、いや、抱えているからこそ。何でもありの願望機なんて、あってはならないとさえ思っている。
「あれだけの事をしでかして、今更望めるほどの幼さは残っていません」
それはセイバーの罪の記憶なのだろう。罪悪感を抱えながら世界に在り続ける。どこか士郎と似ている面を感じられた。縁が濃い。
「現れた面が最期の時に近かったのでしょう。渇望はこの身になく」
漆黒の在り方は安定も表わしている。
子供のような不安定さはなく。罪を背負い感じながらも、呼び出された今を生きている。迷いがないわけもない。揺れながら騎士は在るのだろう。
「許されるならば贖罪を。私だけは貴方を裏切らないと、反逆しないと誓います」
悪の道に進もうと止めはしない。元より己は騎士に相応しくない。正義の道なんて歩めないんだ。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。