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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

紅の少女

「呼び出されれば誰でも良いのかと言われてしまえば、否定はしません」
 好みはあれど忠義は変わらず。死を命じられたならば、迷わずに実行しよう。人形と変わらないとまでは言わないが、愚直に信を示すことこそ。目の前の騎士の尊い願いなのだ。

「それでも私は何度でも言いましょう」
 セイバーは迷わない。丁寧さの仮面を貼り付けながら、かつて主君を裏切ったと語る騎士は、真摯に言葉を紡ぎ続ける。

「私は貴方の、他ならない貴方の騎士になります」
 真っ直ぐに手が差し出された。命の恩人にここまで言われて、応えずにはいられない。

 力強く手を握り締めて、士郎もまた歪みなく言葉を返すんだ。
「俺の方こそよろしく頼む。まだまだ未熟者だからこそ、セイバーの力を貸してくれ」

 士郎一人では戦争を戦えないだろう。それで止まれる性格でもないが、目の前の騎士の力は頼りになる。
 …これもまた小さな変化であった。彼の頑固さが消えている。
「御意。この身、この剣は貴方の為に振るいましょう」

 兜に隠されて見えなかったが、柔らかな微笑みを感じた気がした。
「とまあ、お互いの話が付いたのは結構ですが」
 握手を止めて、改めての話し合いであった。
「おう」

「これからどうしましょうか?」
 今知っているのはランサー陣営だけだ。今更、追撃するには遅すぎるだろう。他の陣営の情報はない。

 一応、セイバーに失踪事件などの情報を伝えてみる。
「キャスター陣営が怪しいですね」
 魔術師の英霊である。前準備に生け贄を求めても不思議ではない。

「しかし、私は探索に優れたクラスではありません」
「直ぐに拠点は探れないんだな」
 しょうがない話だ。ただでさえ強いセイバーのクラスで、探索まで出来たら反則である。

「申し訳ございません」
「いや、謝るような事じゃないぞ。俺の方がへっぽこだ」
 もう体を休めてしまおうかと思った時に――来客の気配を感じ取った。

「次から次へと侵入者が現れましたか。さて」
 物騒な気配を発し始めるセイバー。応じ強化魔術を起動した士郎。
 そんな緊張感に包まれた中で、平然ちお縁側から乗り込んできたのは、見覚えのある少女だった。

「まさか貴方がマスターに選ばれるなんてね」
 紅色の上着が印象的な美少女。黒髪をツインテールにまとめて、自信ありげな瞳が凜々しい。

 遠坂 凜。士郎が通う学校で有名な美少女である。成績優秀で人当たりも良く。評判が大層良い生徒である。
 彼女の後ろに英霊が一騎いた。紅の街灯に身を包んだ長身の男だ。

 双剣を使いランサーと戦っていた騎士の姿。見定めるように士郎を見つめていた。多少の違和感を覚えているような、困惑した表情も見えた。

 何か認識と違っていたのか? 紅の騎士の疑惑に気付く者はいない。士郎だけが、視線に気付きつつも意図を読めなかった。
「遠坂?」
 接点はないが学校で有名な相手である。まさか魔術師だったとは、思いもよらない事実である。
 
 少なからず動揺する彼へと、冷たくも優しい微笑みを浮かべながら。
「ごきげんよう衛宮くん。少しだけお話ししても良いかしら?」
 凜が有無を言わさぬ提案をしていた。

 改めて聖杯戦争の話を聞きつつ、この土地に在り続けた御三家の話も聞いた。
 始まりの御三家。遠坂、間桐、アイツベルン。慎二の悲壮な覚悟の裏側を感じ取れたが、今実行出来ることはない。

 少々知り得た情報が多すぎて、行動に大きな迷いが生まれてきた。
「正直な話、早々に退場するのを勧めるわ」

 言外に勝てないと告げている。確かにその通りだろう。
 目の前の少女の力量は、士郎では到底及ばない。彼が数十人居たとしても、魔術師としては勝てない程の力量差があるんだ。

 まあもっとも。純粋な殺し合いにおいては、覚悟の違いが浮き出るかもしれないがね。
「でも逃げてしまえば、いざという時に戦えないからな」

「成程。巻き込まれていても戦う意志はあるみたいね」
 探るような言葉。返答次第では戦いは避けられなかろう。傍らに控える従者達も戦意を纏っている。

「死を覚悟した魔術師同士なら、勝手に殺し合えばいい。でも俺は、無関係な人を巻き込むのは許せない」
「へえ。良い心がけね」

 感心したように微笑みながらも、どことなく冷たい瞳で見ている。敵として見定められている。成程。学校では猫を被っているらしい。
 こうして向き合う姿の方が遙かに似合っている。

「とはいえ、俺も出来る範囲が限られているからな。手を出せる所までになるが」
 凜の後ろで佇む紅の騎士、アーチャーが怪訝そうな顔をしている。士郎の告げた言葉に、狂気は感じられない。
「よろしい。それなら私も容赦はしないわ。…ただその前に」

「なんだよ?」
「最低限のルールは守ってもらわないといけないの」
 扱う戦力の規模が凄まじい儀式だ。当然ながら監督者はいて、一応は顔を見せておかないといけない。

「監督役に顔見せしてもらおうかしら。もちろん、その間は戦わないでいきましょう」
 楽しそうに笑いながら、凜に連れられて教会へと向かっていった。 
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