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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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呆気ない結末

 白と黒の双剣、干将・莫耶を巧みに操って、ライダーの攻撃を捌き続けている。戦闘スキルではアーチャーに分があり、ステータスの面で考えても、それ程の差異はない。マスター同士の力量は凜が上回っている。
 だからこそ互角で、少しばかりアーチャーが圧していた。

「セイバーの後ろに隠れていた姿とは別人ですね」
 挑発にも。
「おや? 宝具を発動していながら、逃げ帰った者が言うと説得力があるな」

 何の動揺も見せず淡々と流しきった。歴戦の者の余裕を感じられる。煌びやかな英霊とはまた違った、堅実かつ堅牢な強さを感じられた。

「ふっ。あの程度の力で宝具と思ったのですが」
 アレはただの魔眼だ。生まれ持って得ていた力を、宝具と呼ぶつもりはない。その程度で敗走しかけていたのだと、言外に侮辱していた。微笑み言葉を返す。

「違ったのかね。成程、これは強敵らしい」
「貴方程度には必要ありませんよ」
 彼女がそう言った瞬間に首元を掠めて、黒の剣が通っていった。薄らと血が流れて、後数センチずれれば死んでいただろう。痛みがその事実を痛感させた。

 いつの間に投擲していたのだ? ライダーは知らないが、干将・莫耶は互いに引かれ合う夫婦剣だ。布石の打ち方は数知れず。アーチャーの戦闘論理と合わさって、白兵戦では手の着けられない性能をしている。それすら凌駕する反則級もいるのだから、どうにも笑えてくるがね。

「で、宝具を見せないまま終わるつもりかね?」
「…見くびっていた事実を認めましょう――貴方は全力で殺してあげますよ」

 首の傷に釘を突き刺して、夥しい鮮血が場へと溢れ出た。それこそが媒介、ライダーの切り札を呼び出す前準備。膨大な魔力を消費し、逸話に許された幻想を呼び起こす!!

「ゴルゴンの怪物の首からは、天馬が生まれたのだったか」
 血を媒介にして呼び出された幻想は、神々しく輝く白い天馬だった。

 現れし穢れなき白色の天馬の姿は、これから放たれる一撃の破壊力を確信させる。彼女が手綱を操ったならば、天馬の性能は限界を超えて発揮されるだろう。
「我が愛馬の一撃を受けて散りなさい…!」

 音を超えて迫り来る質量の破壊力は、音に聞く聖剣にすら匹敵する一撃。その真名は。
「|騎英の手綱《ベルレフォーン》!!」

 受けるは弓兵。抗うは鉄壁の盾。トロイア戦争にて、大英雄ヘクトールの投擲をも受け止めた逸話を持つ、伝説を残した盾にして、あらゆる投擲物を遮断する概念を宿す宝具。

「|熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》!!」
 花びらが開くように紅の盾が展開され、天馬の突進と衝突した。火花散り拮抗する音が響き渡る。罅割れながらも突破を許さず。天馬もまた、遮断されつつも進みを止めない。

 互いの逸話と伝説がぶつかり合いながら、エネルギーの爆発が生じた後。舞い上がった土煙が晴れた場所で…無傷のアーチャーが佇んでいた。
「天馬の突進をも受け止めますか…!」

 最早、ライダーに余力は残っていない。天馬も耐えきれず消滅した。これ程までの力を持っているとは。さぞ、名の知れた英霊であろうと。音に聞くアイアス本人か? それにしては容姿がそぐわない。
 アイアスの盾を所有し、弓術は絶大な腕前を発揮しながら、双剣術にも優れている。並外れた使い手である。

 それら全てが妥協なき努力で紡がれているのは、戦ったライダーが一番理解していた。
「ああ。そうして、貴様のマスターは敗北した。まだ抗うかね?」

 当然の結末だ。アーチャーの盾が優れていたのではなく。凜が令呪でフォロー出来る程、桜が負ける時間が短っ他のだ。一対一では勝敗は分からなかった。勝負を分けたのは、純粋にマスターの力量が違ったせいだ。

「…結局、怪物は英雄に打倒されるのですね」
「私を英雄と言って良いとは思えない。これは私の勝利ではなく、凜の勝利だ」
 そうして英霊達の戦いは終了した。場は2人の魔術師の戦いに戻り。


 腰を落とし立ち上がれない桜を見下ろして、凜が静かに佇んでいた。後はトドメを刺すだけ。残された時間は少なく。かつて、姉妹として過ごした思い出は、それでも刃を止めさせてはくれない。
「なにか、なにか残す言葉はあるかしら?」

「怪物にそんな資格はありません。さようなら」
 言葉を受けて宝石魔術を起動しようとした瞬間。
「まだ殺してもらっては困るのでな」

 1人の女が、キャスターが姿を現した。
 両者共に完全に不意を突かれたタイミングだ。アーチャーとライダーは、同じく現れた漆黒の騎士に目を奪われている。そう。奪われたセイバーの姿に、意識を取られている。

「英霊を維持する生け贄になってもらおうか!」
 詠唱すらなく魔術が起動されて、漆黒の刃が桜へと降り注いだ。そうして。
「――姉、さん?」

 刺し貫かれたのは凜の姿。肉に食い込む形で刃が刺さり。苦悶の表情を浮かべながらも静かに言う。
「あ~あ、ドジ踏んじゃった。…ごめんね桜。――最後の令呪を以て命ず、衛宮君の所まで行きなさい!!」

 アーチャーが転移されて消えた。補給口を手に入れたキャスターも姿を消した。
 場に残されたのは桜とライダーだけ。怪物としての在り方を壊されて、ただただ静かに風が流れていった。
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