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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

もう一つの戦い

 セイバーが単騎で襲撃をかけ始めた時と同じく。アーチャー陣営もまた、セイバー陣営に隠れて襲撃を始めていた。
裏切りなどではない。譲れない個人的な想いを抱えて、闇夜を二人が駆け抜けていく。

「凜。何故間桐邸への襲撃にセイバー陣営を誘わない?」
 目的は同じ御三家の間桐家である。与えられたピースを合わせて、ライダーのマスターと判断した。
 一度戦って、敗走しかけた相手だ。戦力は幾らあっても足りない。

「私がケンカを売られたからよ」
 つまり、間桐のマスターは人を巻き込んでも構わないと。もっと言うのならば、遠坂家にケンカを売っている。

 慎二の仕業とは思えない。それにしてはライダーの実力が凄まじい。
 ならば、残されたマスターは桜だけだ。語れる事なき話、桜は彼女の妹だった。

 名を変えて家も変わった。妹だった子である。そう切り捨てられない己の弱さを、凜は心の贅肉と呼んでいた。
「そうして、あの子と決着をつけるのは、私であるべきだからよ」
「…ふむ」

 凜らしい言葉に思えた。元より彼に文句はない。彼女の従者として、勝利を掴み取るだけのことだ。鍛え抜いた武技は勝利を得られる。
「個人的な拘りに付き合わせて悪かったわね」
 悪いと思っている表情ではない。何か言えば拗ねそうな人間の顔だった。
 
 思わず苦笑してアーチャーが口を開く。
「君らしい言葉だとは思うがね」
「何よ?」

 文句があるのか? とでも言いたげな表情だ。妙に似合っていた。彼が再度苦笑する。
「いやなに。些かきな臭い雰囲気を感じ取っているだけだ」

 ライダー陣営が強敵なのは認めよう。石化対策に礼装を作成していたが、まだ奥の手は感じられた。アーチャーの性能では、圧倒的な勝利を得る事は難しい。それでも勝てない戦いではないのだ。

「ライダーには勝てるわ」
 メドゥーサに戦いの逸話はない。怪物として、ゴルゴーンとして現れたならばともかく。
「君の対策のおかげで、戦いは楽に進められるだろう」

 戦闘者としての格を考えたなら、アーチャーの方が優れている。だから、胸に抱く不安は敵にではなく。
「まだ何かあるの?」

 何者かの手出しの予感を、培った戦闘論理が感じさせていた。
「それを覆すのが私の仕事だろうさ」
 頼りがいのある言葉だ。彼は正しく実行するだろう。

 相棒の言葉に気をよくして、微笑みながら返した。
「頼んだわよ」
 闇夜を滑るように移動しながら、2人が間桐邸へと辿り着いた。


 既に家はなく。アーチャー陣営の襲撃を予想していたように、更地だけが存在している。戦争の準備は済ませていたか。開けた場所は弓兵に不利な筈だが、ライダーの隠し札に理由があるのだろうか?

「ようこそ間桐邸へ、遠坂さん」
 謳うような桜の言葉を聞いて、凜が苦々しげに顔を歪めた。
「桜…」

 呼び名と声色で全て理解した。からこそ、あえて魔術師として言葉を返す。
「土地管理者として貴女に問うわ。学校に貼られた結界の意図は何?」
 大勢の人を巻き込みながら、神秘の秘匿を考えていない行いだった。人道としても、魔術師としても看過できない。
「うふ、うふふふ」

 人間の笑い顔じゃない。狂気と暗い悦びに顔を歪ませる姿は、まさしく怪物の如き醜さである。傍らで控えるライダーの方こそ、まだ人間らしい在り方をしている。
「まだ、そんな事を聞くんですね」

「桜…!」
 凜の怒気を受けて、心底から楽しそうに彼女は答える。
「そんなの決まってるでしょう――食べる為ですよ」

 迷いのない言葉だった。躊躇のない考えだった。
 そこに神秘の秘匿なんて論理は存在しない。日常を過ごしてきた学び舎への、思いなんて感じられない。目的のために手段を選ばない存在…化物の在り方が展開されていた。

「怪物は人間を喰らって強化される。今更、遠坂さんに教えるような内容ではないでしょう」
 魔力だけを求めているわけじゃない。桜の回路は優れている。ライダーの魔力は不足していない。

 怪物としての側面を強調する為だけに、多くの命を生け贄に捧げると彼女は笑ったんだ。
「そう。貴女は怪物なのね?」
 まだ確認するのか。そうしないと切り捨てられないのか。

 その思いにほんの一瞬だけ、桜が微笑みを見せたけど。
「義兄さん…」
 愛する義兄の最後を覚えている。戦ってくれた者達の命を覚えているんだ。

「見ての通りです。耐え偲ぶだけの人間は終り。皆を喰らい殺す化物が、目の前にいますよ」

 もう止まれない。止まらない。ここに決別は終了した。互いに英霊が側にいる状況だ。聖杯戦争の始まりにして、一つの決着を求める時。
「さあ、どう動きますか?」

「殺す、殺すわ」
 土地管理者として見過ごせない。魔術師として放っておけない。かつて、姉だった者として見放せない。
 三重の思いに縛られながらも、凜の才覚は欠片も緩まず。絶命への宣言を終えた。

「ならば私も抵抗しましょう…ライダー!」「此処に」
「アーチャー、頼んだわよ」「任された」
 紅の騎士が怪物染みた美女と戦う。常軌を逸した光景こそ、まさしく神話・英雄伝説の再現であった。
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