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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

正義の味方の果て

 激動の夜は明けず。セイバーとの繋がりが消えた感覚が、士郎の目を覚ます。
「セイバー…?」

「遅い目覚めで何よりだ小僧」
 上体を起こせば紅の騎士が佇んでいた。軽い負傷も見られる。…しかし、初対面の時に感じた違和感が消えていた。

 セイバーの真名を知ってから、受け入れてから、妙に感覚がずれているんだ。
 目の前の英霊と、決定的に違えたのだと魂が理解している。

「…アーチャー?」
「ふっ。未だ状況は理解せず、か。無理もない。稀代の妖姫が相手ではな」

 既にキャスターの正体を見切って、拠点すら把握している。状況を理解していないのは士郎だけだ。
 左手の令呪が消えている事に気付いて、ようやく異常事態に気付いたらしい。

「セイバーが…いない?」
「既に状況は大きく動いている。しかし、衛宮 士郎。貴様は今すぐに選択を求められている」

 躊躇も逡巡も許されない。状況に一切の余裕はなく。
「どういうことだよ」
「簡単な話さ――私と契約するつもりはあるか?」


 正義の味方の話をしよう。紅の騎士の話をしよう。
 出来る事ならば、誰も彼もを救えないかと望んだ男が居た。原初の記憶は煉獄。燃え盛る炎に人々が焦がされていく中で、彼はその全てに見送られて生を繋いでしまった。

 漠然と生きるを許せず。幸せな日常は歩めず。たった一つ。尊敬する義父から貰った理想を掲げたんだ。
 だが、現実はいつだって残酷だった。

 どんなに求めても理想の達成は成されない。十の人が居て、多くを救うには迅速に一を殺すしかなかった。

 正義の味方のジレンマ。悪がいなければ、正義だってなされない事実が横たわっていた。
 それでも良かったんだ。誰かの笑顔があれば、それで良かった。

 誰にも理解されず。最終的に行き着いた果ては――守護者。世界と契約し、世界の敵を殲滅する掃除屋だ。
 彼が想像していた世界はなかった。悪を定義し、殲滅するだけの掃除屋が守護者だ他T。
 
 笑顔が見たかったんだ。誰かの救われる姿に、ようやく自分の生を許してやれた。…そこにあるのは地獄だけだった。
 すでに終わった結論を、理不尽な力で塗りつぶす。それが世界と契約した対価である。

 違う。殺したかったんじゃない。悪を討って勝利に酔いたかったんじゃない。ただ、ただただ笑顔が見たかっただけ。それだけだったのに。
「オレは、そんなモノの為に戦い続けてきたんじゃない!!」
 悲痛な叫びは魂の根底に刻まれて、錬鉄の英雄はここに完成した。


 干将・莫耶から読み取った記憶は、一瞬でアーチャーの過去を理解させてくれた。
 正義の味方の行き着く果て。衛宮士郎の宿した理想の最果てが、今の彼の姿である。最早、名前に意味はなく。世界と契約した守護者として、座に至ってしまった存在こそ。

 目の前で佇む紅の騎士なのだと。悲しい程、理解してしまった。
「…過去の自分を殺すことで、摂理の矛盾から解放される。それこそが私の望みだ」
「アンタは、その。不可能だと知っているんだな」

 客観的に言葉を返せるほど、今の士郎は歪んでいる。諦めてしまった己を見て拒絶しない時点で、確かにアーチャーとは違えてしまった存在なのだろう。何より出会った運命が違う。
「抱えきれないほどの罪悪感を胸にして、せめてもの贖罪として歩むんだな」

 大勢の命を奪った罪、これからも殺し続ける事実を背負い続けている。
 後悔はある。やり直しなんて何度望んだかも分からない。永遠の更に次の日まで、彼が解放される事はありえないんだ。

 言葉を聞いて非憎げな笑みを浮かべた。分かりきっている事だ。
「オレに至る可能性を排除する。正義の味方なんて、ろくでもない存在なのだから」

「……」
 今の士郎に否定は出来ない。殺戮者であったモードレッドを受け入れて、偽者を認めてしまった彼は。

 何も諦めずに至ってしまった騎士の結論に、口を出す資格なんてないんだ。分かっているからこそ、アーチャーも契約を認めたのだろう。
「在るべきではなかった。自己を犠牲にして他を救おうなどと、偽善にも程がある」

 誰かの味方をするならば、誰かの敵でなければならない。正義を謳い平和を願うからこそ、誰よりも戦争が必要なのが正義の味方なのだろう。
 無論、この男が戦争を嫌っているのは語るまでもない。善良でお人好しだったから、抱え込んだ重みを捨てられなかったんだ。たった独りで誰にも理解されず。戦い続けた果てが、この男なのだろう。

 誰かを救いたいと思う願いを、間違いではなかったと語るには。今の士郎には出来ない。
 最初のずれから、モードレッドに至る運命を得た。理想の王と出会い、自身の信念を確信出来なかった彼は、目の前の男が歩んだ道を理解出来ない。位相が違い過ぎる。

 そうして、その事実こそ。アーチャーにとって何よりの救いで、或いは絶望なのかもしれない。
「貴様は誰か一人を愛せた。それは私が出来なかったことだ」

 大切なモノ全てを対価に捧げて、英雄に至ってしまった。
「幸せを望んで良い。煉獄で見送られた者達も、責める事なんてしないのだから」
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