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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

素直な愛情

 乗せられた手の暖かさに泣き出しそうだ。真っ直ぐな言葉に崩れてしまいそうだ。抱え込んだ罪は重く。許されるからこそ、重みを理解する。
 言葉が返せない。陳腐な言葉は要らなかった。

 真っ直ぐに許してくれた彼に、信頼してくれた人の言葉に。初めて、真摯な愛情を感じられた。胸を満たす熱情は初めての経験だ。ここまで戦い続けてきた。コレを求めて戦い続けてきた。

 これが嘘でも構わないと思ったのは、嘘でも良いから愛してと望んだのは。他ならぬ父上の時以来だった。
 ずっと、ずっとコレを求めていた。ここにいても良いって言われたかった。

 彼女の逸話を彼は知っているだろう。セイバーも士郎の記憶を見ている。
 他ならぬ、煉獄に巻き込まれた者だ。彼女のような存在を許せなくても、可笑しな話ではない。

 不安はあったさ。だって経験がない。許された記憶がない。誰も彼もが彼女を呪っていると信じていた。

 それでも、応えてくれた士郎の顔を見た。涙を流し始めた彼女を見て、困っている。ああなんて愛おしい。
「…オレはシロウが好きなのだろうなあ」
 呟きは淡くも激しい情を込めて、ゆっくりと彼の脳裏に届く。

 ただここにいる事を許してくれる相手だ。名前さえ名乗らなかった英霊相手に、全幅の信頼を寄せてくれている。暖かな人間味に溢れた料理もしてくれた。全て初めての経験だったんだ。
 ぽ~っと己を見つめる彼女の姿に、ようやく士郎も理解した。

「セイバー!?」
 唐突な告白に士郎が動揺していた。撫でる手を止めて、動揺しながら彼女を見つめている。
 それで冷静さを取り戻したのか、こほんと一つ咳払いをして。
「ん? ああ、いや。変な勘違いは駄目です。人間としてですから」

 何とか誤魔化した。どう考えても、その。そうとは思えない。
 冷静に諭している感じを出しているが、彼女の顔も赤く染まっている。
「そ、そうだよな」
 納得してしまうから、士郎は士郎なのだろう。残念であった。

「むう」
 自分から言っておいて不満げだ。なんだ。抱きしめれば良かったのか。キスか。実際にされたら彼女はどうなろうのだろう?
 愉快な姿をさらしそうだ。する勇気は二人共ない。

 妙に拗ねた雰囲気に気付いたのか、心配そうに彼は言う。
「どうした?」
「いえ! なんでも!!」

 何でもないという風な声ではなかったが、深くは追求しない。虎の尾を自ら踏む愚行はなしだ。
「とにかく。俺はセイバーの幸せを望むぞ」
 誰にも望まれず生まれた命。愛を求めて、遂には反逆に至った騎士の逸話を知っている。

 自分自身を許せないと謳うならば、救われた己が語り続けよう。命を守られた。真摯に助けてくれた騎士を認め続けるんだ。
 曇りない信頼と愛情を受けて、ならばと彼女は語る。
「だったら私は、貴方の幸せを肯定しましょう」

 煉獄の中、多くの命に見送られた幼い命。誰のせいでもない地獄を抱えながら、己の生を認められない悲しい男を許そう。
 歪みない信頼と愛情を受けて、揺らぎ彼は答える。

「それは…」
 抱えきれないほどの罪悪感を覚えながら、必死になって士郎は生きている。回路の繋がりがあるから、彼女にはよく伝わっているんだ。

「結構。私がやりたい事ですので。いくらシロウでも止めさせませんよ」
 迷いのない言葉だ。生来の気の強さも感じられた。何を言っても止まりはしなかろう。
「強引だ」

「き、嫌いですか? そうですか…」
「いやいや!」
 眼のハイライトが休息に消えていく。何だろう。ちょっと病んでる。

 とても強引なのに、拒めば折れる弱さも持っている。士郎の頑固さと非常に相性が良い性格をしていた。これは拒めない。
 どろっとした所も彼女の魅力なのかもしれない。

「それはずるいぞセイバー」
「シ、シロウが私を嫌いになるからです」
 かなり理不尽であった。それが愛おしいのだからしょうがないね。

「ならないよ。まったく」
「むっふっふ」
 とっても満足そうに笑っている。可愛い。抱きしめたい。
「戦争を終わらせてからやりたいことも出来ました。…英霊として貴方を見守ります」

 言外に、士郎と恋仲になれないと語っていた。彼女は英霊なのだから、子供は成せず。残せる者なんてない。騎士として求められている。
 ある意味では間違いでもない。士郎もそんな彼女を否定出来ない。

「セイバー」「ええ」
 眼を細めて笑う彼女が好きだ。聖杯の補助がなくても、セイバーと契約するだけならば可能である。魔術師として鍛え続けた結果であった。

 だから、抱きしめられない。英霊と人は別れてしまう。同じ時を生き続けられないんだ。モードレッドにとって、愛情の果てとは健やかな家庭である。子を成せない己は認められない。

 士郎は理解しているから、彼女の強さを否定出来なかった。
 抱擁と口づけは交わさず。信頼と親愛の絆が胸に突き刺さっている。
「結果として、凜やアーチャーとの決着もありますが、良い休日でしたね」

 勝ちたい理由が出来たんだ。充実した時間だった。それがあるとないのでは、在り方に大きな違いがある。

「ですがまだまだ残っています。さあ、罪悪感に追いつかれる前にもっと遊びますよ!!」
「ああ!」
 強引に手を引いてくれる彼女に惹かれながら、共に時間を過ごしていった。
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