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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

許しを与えよう

 困った様に笑うセイバーの姿を見て、愚直に示す彼の想いは迷いなく。
「――君に命を救われた」
 ランサーとの戦い。バーサーカーの襲撃。ライダーとの戦闘。その全てでセイバーは守ってくれた。理想の騎士の様に力を発揮し、命がけで守ってくれたんだ。今日もそうだった。

 楽しい時間に戸惑う士郎の手を引いて、幸せを許しても良いのだと。態度で示し続けてくれた。
 どれほどの救いになったか。彼女だって知っているだろう。

「俺は、セイバーの痛みを許してやれないと思う」
 そうだ。誰にも出来ない事だ。士郎だからこそ断言出来る。
「俺自身がそうだから」

 冬木の大火災で生き残ってしまった者。多くの命に見送られて、自己の価値を欠如してしまった男。そこに、正義の味方としての理念を注いだのが衛宮 士郎の全てだった。

「きっと、俺もどこかで歯車が狂ったんだ」
 それは例えば、彼が胸に宿す神秘が鞘の欠片ではなく。
 全て遠き理想郷とまで謳われた、神秘の全てであったなら。衛宮 士郎は完成していたのだろう。

 だが、今彼が胸に宿すのは鞘の欠片。理想の残滓。そうして、魔術との関わり方も大きく変化した。それは例えるならば、ロボットへのプログラミングのように。根底が違うから、同じ士郎でも結果が異なっている。
 錬鉄の理想は遙か遠く。迷い、鈍りながらも選定の剣を夢見続けた。

「言葉に出来たら楽な位の閉塞感。許されるなんて、他でもない己自身が認められない」
 それでも、泣き出しそうなセイバーの顔なんて見たくない。無邪気に笑う姿が、そうだ。好きなんだ。美味しそうにごはんを食べてくれた。笑ってくれていたじゃないか。

「だから、何度でも言うぞ」
 許す事はできない。けれど寄り添うことは出来るから。手を引き合いながらだったら、自分の幸せを許してやれるんだ。
「俺はセイバーに助けられた。これまでも、そうしてこれからもさ」

 事実だ。彼女に何度も守られた。男としてと意地を張るには、セイバーの在り方を傷つけてしまう。だから照れくさくても、多少情けない想いがあったとしても言うんだ。
「君がどれ程後悔しているかは分からない」

 その罪は彼女だけが背負えるのだから、寄り添っても分かってやれない。それはセイバーだって望まないだろう。
「或いは聖杯に願いを捧げたくなったのかもしれない」
 万能の願望機を求める人間を否定はしない。

 後悔も価値観も人それぞれ。否定出来るような人間ではない。
「それでも、俺はセイバーを信じているし、生まれてきてくれて良かったと思っているぞ」
 
 全部士郎の本音だった。数日の付き合いでも、すっかりと理解していた。もう十数年も彼女の在り方を見ていたんだ。
「ならば問いましょう」
 凜々しく真っ直ぐに士郎の目を見つめて、答えの分かりきった問いをする。

「煉獄の経験を超えた貴方は、万能の願望機にやり直しを臨まないのですか?」
「望まない」
 発言に迷いはなかった。彼の在り方に揺らぎはなかった。だからこそ救われた。

「全て、全て取り戻せるのですよ」
 そうではないと知っているけど、縋るようにセイバーの言葉は続く。
「もう悪夢を見ることはありません。申し訳なさを感じながら、生き続けなくて良いのです」

 心と回路の深い繋がりで、何度も鮮明に士郎の思いを夢見てしまった。彼の苦しみを知っている。本気で願望機を狙うならば、彼女はどこまでも応えてくれるだろう。

 元より真っ当な英霊じゃない。誰かの為に他全てを殺せる騎士だ。
「でもなくならないんだ。失った事実さえなくしてしまったならば、俺はもう俺じゃない」

 どこか歪に変化していても、魂の奥底だけは変わらぬまま。衛宮 士郎は迷いなく断言する。
「これまで歩んできた道、これから歩んでいく道。その全てを裏切りたくないから」

 やり直した己の在り方を認められない。罪も痛みも抱え込んだまま、衛宮 士郎で在り続ける。どれだけの変化があろうと、決して変わらぬ骨子が言葉に乗っていた。

 見送られた命を背負い続けて、歩みを止めない在り方こそ。精一杯の生き方だからさ。
「俺は、やり直しなんて馬鹿げた望みは抱かない」

「…ふふ」
 愛おしそうにセイバーが笑いながら、堂々と言葉を紡いだ。

「――我が名は、我が名はモードレッド。ブリテンを終わらせた反逆の騎士」
 アーサー王伝説の話。彼女は偉大なる騎士王へと反逆し、遂には伝説を終わらせてしまった大罪人だ。多くの命を巻き込んだ。燃え盛る憎悪の炎がカムランの丘に至ってしまった。

 ある意味では士郎と真逆の在り方である。地獄に巻き込まれた者と、地獄を生み出した者。
 抱える罪悪感が似ているのは、魂の性質が近しいからだろう。善良で、真面目で、だからこそ耐えきれなかった。

「裏切りと憎悪に溢れた不義の子を、貴方は騎士と認めてくれますか?」
 眼だけ俯いて、泣き出しそうな声になっていた。拒絶を怯える幼子の如く。愛情を受けた経験のない彼女は、ここに至っても信じられない。

 迷わない。理由がない。想いがない。泣き出しそうなセイバーの頭を、父親のように撫でながら告げる。
「ここまで助けてもらって、今更反故にするわけないだろ。心配しすぎだ」
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