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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT038    『ミノフスキーの霧に隠れて』




 ミノフスキー粒子。レーダーの類を攪乱する、最強のジャミング粒子。その存在が発明されたおかげで、誘導兵器のほとんどが無力化されてしまった。

 とくに、『地上目標物/ランドマーク』が存在しない、広大極まる宇宙空間では、戦艦の主砲という強力無比な攻撃兵器の命中精度が、下がりに下がってしまい―――大小の砲を無数に積載して、本来は近づくことも不可能であったはずの近代宇宙戦艦に対して、モビルスーツの単身の接近までを許すようになった。

 その戦術的な革命があったからこそ、戦艦に比べればあまりにも小さいモビルスーツが宇宙戦争の主役となりもした。

 そして、地上戦でのモビルスーツの有用性は、一年戦争における、ジオンの地球降下作戦の結果、証明され、その戦術も確立されることになる。

「……ミノフスキー粒子」

「そうです。それによる、ジャミングですぜ。誘導兵器は、無効化される。敵に当たる軌道を予測して、ぶっ放すだけです」

「……なるほど。未来を予測するような、あるいは、相手の行動を読み取ってしまうニュータイプが、有利になれる戦場というわけなのね」

「そういうことですが、オレたちみたいなオールとタイプのパイロットと、旧式のグフでも、十分に敵サンを仕留めることは出来ますぜ!!オーガ4!!」

『撃ちます!!』

 再び、オーガ4のライフルが砲弾を放ち―――また1機のザクが沈められる。

「ミノフスキー粒子を散布されているのに、当たるの?」

「宇宙と違って、地上では当てやすくありますな。ザクどもが、棒立ちなのもこちらの有利です。オーガ2と3が、囮になってくれていることも大きいですが……自分たちの被害を、彼らも確認し切れていないのでしょうな」

「……混乱しているのね」

「陣地に守られて戦えば、ガンダムに攻められたって、生き抜くこともありますよ。それぐらい、守る方ってのは有利なんすよ、本来はね」

「だから……彼らは、陣地から動かずに、守りを固めているの?」

「そういうことです。ヤツらは、迷いがある……おそらくは、非戦闘員か、負傷者か……もしかしたら、自分たちの家族が、あの拠点にはいたのかもしれない」

「……っ。そこを、私たちが爆撃したのね」

 いい言葉を使ってくれる。『私たち』。責任から逃れようとする者であれば、『お前たち』という言葉を使っただろう。

 たとえば、ステファニー・ルオであれば?……潔癖症な彼女は、『お前たちが爆撃した』という言葉を使って、作戦を命じたはずの自分の罪から逃れようとするさ。

 そういうヤツには、オレは……自分と部下たちの命を預けてみたくねえもんだ。

「そういうことですよ」

『……オーガ1!!』

『例の機体が動いた!!かなり速いぞ!!他と連携しようとしている!!オーガ4の砲へと向かっている!!』

「了解だ!!ミシェルさま」

「わかってる。部下の命を守りたいのでしょう?……行きなさいな。私も、貴重な部下を死なせたくはない―――」

 ―――それに。もっと実戦を浴びる。近くで、敵の殺意と、砕け散る命から解き放たれる死を浴びて―――慣れないといけない。

 そうでなければ、『フェネクス』の持つ力と異能に、恐れを抱き呑まれてしまう。

「ありがてえ!!行くぜ、オーガ4!!そっちに向かうヤツを、足止めしてろ!!当てなくてもいい!!時間を、稼ぎやがれ!!」

『了解!!……クソ!!当たりそうにありません。アイツは、特別製らしい!!連邦軍の特殊部隊用のジェガンが使うスラスターと、同じか、それ以上の性能だ!!』

「特殊部隊用のパーツを、誰かが提供したのね、ジオンの残党どもに」

「ああ。アイツはそんな高性能品を、能力以上に使いこなしている。アイツを動かしているのは、『袖付き』だな。比較的若く、新製品にも強い、若手のパイロットだ」

「……そんなことまで、分かるのね」

「当然っすわ。モビルスーツに、長らく乗っていると、やがてヒトはそうなるもんでしてねえッ!!」

「いた!!」

 ミノフスキー粒子にざらつくモニターの中に、強力なスラスターを噴射して荒野を走る改造モビルスーツがいた。それに対して、最高のスナイパーであるはずのオーガ4の狙撃は、容易く回避されている。

「かなりの運動性能だ」

「負けそう?」

「いいや。楽しみでしょうがなくなっているところですぜ。久しぶりに、血気盛んなスペースノイドに出会えて、オレは魂が震えちまっていますよ!!おい、若造!!勝負しやがれ、オレはジオン軍の大尉にまで出世した男だぜええええッッ!!」

 隊長はそう叫びながら、愛機を加速させるのだ。ミシェルはシートに背中を押し付けられる。背中に痛みと……そして、サイコフレームの高まりを感じている。

 感応波を吸い取っている?……この隊長のものか、私のものか……それとも、あの改造モビルスーツの乗り手のものか……でも、大した力じゃない。

 この場には、ニュータイプも強化人間もいないのだ。もちろん、私も含めて―――それでも、少しだけでも、あなたに追いつくわよ、リタ・ベルナル。


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