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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT039    『袖付き狩り』




 ザク・カスタム……いや、『キメラ・ザク』と言いたいところだ。うちらの『グフ・カスタム』と同列には数えたくない。ヤツは、モビルスーツとして、あまりにも醜く完成されていない。

 南米戦線で編み出された、伝統を持つ『グフ・カスタム』とは違うのだよ。ヤツは、そこら中で拾い集めたモビルスーツの中から、ただの個人の偏執から編み出されたものに過ぎない。

 まともなエンジニアの意見を反映させてはいないだろう、その機体は、ジオンのモビルスーツの系譜から逸脱している。

 ジオンのモビルスーツには、もっと美学というものがあったはずだ。

 汎用性よりも、特化させた戦術を行うために与えられた。スペースノイドは、連邦人のように欲張りではない。

 己に与えられた専門的な分野を完璧にこなす。それこそが、スペースノイドの……ジオンのパイロットの哲学であり、普遍の美学であった。

「……お前は、欲張りすぎだぜ……我が後輩くんよ!!」

 隊長はそんな言葉を捧げながら、ガトリング砲を唸らせていた。『グフ・カスタム・ルオ商会仕様』は、1、2、3号機が基本的に前衛装備を施されている。

 これらの3機に特徴的な性能は、ガトリング砲を使った中距離レンジの火力と共に、高速機動力である。必要な装備以外は、部品一つの単位で計算されて排除されている。

 彼らの『グフ・カスタム』は、火力と共に機動力まであるのだ―――そして、正面の装甲は分厚いが、背中の装甲はかなり削ぎ落としてもいる。

 常に敵へと前方を向けながらも、連携して戦うのが、この『ルオ商会仕様』のコンセプトだ。

 さらに言えば……一対一での中距離から接近戦を行う場合は、『ルオ商会仕様』の戦闘能力は、陸戦型モビルスーツの中で、間違いなく最強クラスだ。古いフレームを使っているから弱いとは、限らないのである。

 ギュオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 スラスターによる加速と、足運びによる跳躍を重ねることで、1号機は獣のようなイメージを想起させる俊敏さをもって、『キメラ』目掛けて突撃を仕掛ける!!

 ガトリングからの、ヒートブレードの一撃。隊長が好むコンビネーションであった。

 しかし、『キメラ』もまた好反応を示す。1号機の襲撃を、巧みなサイドステップで躱した。運動性能がいい。

 『キメラ』は、醜い寄せ集めであり、かなり癖の強い機体であることは間違いないが……搭乗しているパイロットにとってだけは、最高の性能なのだろう。

「躱されたわよ!?」

「ハハッ!!想定の範囲内ってヤツですよ!!」

「きゃあ!?」

 隊長は愛機にマニューバを刻ませる。ステップワークだけで、横に逃げた『キメラ』へと追いつき、ガトリングから放たれる砲弾の嵐を浴びせにかかる。『キメラ』の動きを、彼は予想していた。

 知っていたさ。

 お前は右に逃げる。アンバランスな設計のせいで、左への動きが遅れてしまう。あとはパイロットの癖だな。4号機の狙撃を、つねに右に逃げて躱してきた。

 お前のためにデザインされた機体か。『ワンオフ/一点もの』?

 ……舐めるなよ。そんな癖が一目でバレバレなオモチャでな……ベテラン相手に単騎で突っ込んでくるあたりが、どうにもシロウト臭くて、甘ちゃん過ぎるってんだよ!!

 ガトリングが生み出す砲弾の嵐、その制圧力を浴びてしまった『キメラ』はロクに動くことも出来やしない。

 ミシェルは気がついている。隊長は、ヤツの脚から撃ち抜いていたいた。バランスを崩されているのだ。

 スペースノイドということね。

 脚の使い方に対して、理解が少ないというか―――宇宙育ちゆえに、重力との付き合い方が『なってない』。

「スラスターと共に、ステップ・ワークを刻ませるべきなんだよなあ!!地上で、高速戦闘を、接近戦特化の攻撃型モビルスーツとやり合おうって時はなあ!!」

 そうするほうが、アンバランスになるんだよ。衝撃を受けたとき、機体が勝手に攻撃から流されてくれるのさ。

 そういうマニューバを、数種類は用意しておいていないヤツは、オレには勝てないんだよ、後輩!!

 ……圧勝する。

 ミシェルはそう確信していたが―――『キメラ』と、そのパイロットも意地を見せて来た。破壊されながらも突撃を敢行してくる、スラスターを使いながら、ジオン伝統の斧で殴りかかろうとした。

 しかし……。

 その動きこそ、隊長には読まれてしまう。ジオンの伝統的な攻撃は、隊長のほうがより専門家なのである。若い頃から、最も対戦した相手は連邦の敵ではない。切磋琢磨を続けた同胞とのシミュレーション/模擬戦だ。

 ジオンの攻撃を、隊長が操る『グフ・カスタム/接近戦闘の雄』に当てるのは、当然ながら至難の業であった。

 黒く塗られた鬼はなめらかに動き、『キメラ』の突撃を回避しつつ、グフの伝統的武装、ヒートサーベルを踊らせていた。

 赤熱する巨刀が、『キメラ』の胴体を斬り裂いていく瞬間をミシェル・ルオは目を見開いたまま観察していた。

 実戦経験で己を鍛えようとする彼女は、そのときモビルスーツと共に、若い男の肉体が斬り裂かれていく気配を感じた。

 彼女の座しているシートの奥に内蔵されているサイコフレームが、『袖付き』の若き闘士の死に反応したかのように、低い起動音を放つ。死を保存している?……あの敵は、死の恐怖に震える感応波を、サイコフレームに伝えたのだろうか―――。

「―――勝ちましたぜ。ミシェルさま」

「え……他は?」

「2号機、3号機、4号機が排除しました。対モビルスーツ用の銃座も、全て破壊しましたよ……圧倒することが出来たので、敵は投降を選んだようです。もしかすると、少佐殿を生かして回収することも可能かもしれませんぜ」

「……そう。生きて回収できるのなら……それはそれで、地球連邦軍への貸しにも出来るわ。マーサ・ビスト・カーバインの協力者だったとしても、ね……死体にしたければ、あちらが勝手にするでしょうしね」

「ハハハ。痺れるお言葉ですぜ。貴方は、我々の主に相応しい」

「モビルスーツ乗りのお墨付きだけじゃあ、ルオ商会の長にはなれなくてよ。そんな戯れ言はどうでもいいの。さっさと仕事をすませましょう」

 
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