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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT037    『鬼の戦い』



 ダルルルルルルッ!!

 敵の拠点を爆撃しながら降り立った4機の『グフ・カスタム』に対して、敵の陣地は素早い反応を見せてきた。

 銃座に備え付けられていた機関砲が、獣のように低い声でうなりながら、無数の弾丸を夜の闇へと放出する!

 その反応の素早さを感じると、隊長は何故だか大きな声で笑うのであった。

「ハハハハ!!……さすが、ジオンの軍人だなあ!!……ちゃーんと見張りを立てていやがったぜ!!」

 かつての同胞が日和っていないことが嬉しいのか、隊長は愛機を加速させながら、そう叫んでいたのである。

 ミシェルはモニター越しに見える、こちら目掛けて飛来してくる砲弾の群れに、殺意を感じ取り……恐怖が胸にこみ上げてくる。

 彼女はその攻撃が『グフ・カスタム』の前面装甲を破壊する力があるのかどうか知らない。それでも、自分へと向けられている明確な攻撃は、長らく平穏な日々に浸かってきた来た彼女を怯えさせるには十分なものであった。

 恐い。素直にそう感じてしまう。当たり前の反応ではあった。

 だが、ミシェル・ルオは屈辱を感じてしまう。生来の気高さを本質に宿す彼女は、常識的で生理的な反応にさえも屈することを嫌うらしい。

 奥歯をギリリと鳴らすのだ。噛みしめながら、冷や汗まみれの笑顔を保つことに専念する。修行だからだ。

 強くなるために、ここにいる。わざわざ来なくてもいいはずの戦場にやって来て、隊長のコクピットに同乗したのは、『不死鳥狩り』に備えるためなのよ!!

 それに……フツーの女みたいに、戦場の恐怖に呑まれて泣き叫ぶなんて、絶対にイヤだわ。

 彼女はミシェル・ルオなのだ。ルオ・ウーミンの娘の一人である。『お父さま』に恥をかかせるわけにはいかない。気高きルオの一族の一員として、自分は、情けない女であってはならないのだ。

 だから。この場で言うべき言葉は一つだけである。

「隊長!!いいの?撃たれているわよ!!反撃はしないの!?舐められっぱなしなんて、ルオ商会の名に傷をつけるだけでしょう!?」

「ククク!!……そいつは、オレの役割じゃないんですよ、ミシェルさま。オレたちはコマンダー機。指揮官なんだ。敵に突っ込む役目じゃない。戦場を観察して、部下に命令を飛ばす。そういう役目なんすよ」

「……ん。そうか。だから、他の機体と違って、距離を保っているのね」

 ほう。ミシェルさまは、他の機体の動きを、きちんと把握しておられるようだな……なかなか、抜け目がないお方じゃないか。

 ……まったく、ミシェルさまには本気で、ルオ商会の新たな会長になって欲しいもんですぜ。ウーミンさまよ、アンタの義理の娘は……多分、ニュータイプってヤツに近しい存在ですよ。

 ……少なくとも、状況がそろえば……連邦軍に潰されてばかりだった連邦のニュータイプどもや、思想に逸って狂っていった、ジオンのニュータイプどもよりは、はるかに優れた才能を出すんじゃないですかねえ?

 ああ。彼女の下で一生を過ごしたい。カリスマ性を持つ、この才女の下で、ルオ商会のためにヨゴレ仕事を堪能したいもんだぜ、まったくよう……。

 まあ。だからこそ、この仕事を完璧にこなさなければな。我々、傭兵にとって最高の主になってくださるかもしれない、このレディーに勝利を捧げなければならない。
 
 しかも、完全無欠のそれでなくては、意味がない。我々は、有能で有り、忠実な存在であるということを証明するべきなんだよ。

 彼女のためなら、ミシェル・ルオのためなら、かつての同胞たちだって、容赦なく殺しちまうってことをなあ!!

 闘志を爆発させながら、隊長は戦場を見渡し、無精ヒゲの生えた口元を開いて牙を見せる。腹の底から叫ぶのだ。部下に与えるべき戦術を!!

「……オーガ2、オーガ3!斜面を回り込め!!あちらの反応は並み以上と見てもいい!!もうザクどもが、動き始めるぞ!!いいな?ガトリングで牽制し、装甲を削っちまえ!!」

『了解!!オーガ2、遠距離からの砲撃で、敵を牽制します!!』

『オーガ3、攻撃を開始する!!』

 隊長の指示通りに動いた、2機の『グフ・カスタム』たちは、左腕に装備されたガトリング砲を唸らせて、爆撃を耐え抜いたザクどもの影に砲弾の雨を浴びせて行く。

 ダルルルルルルルル!!……小気味よさすら感じさせる制動された砲弾の速射音が響く。隊長は、その音に美しさを感じていた。やはり、『グフ・カスタム』のシールド付きのガトリング砲の歌は、地上戦における最高の音楽であると再確認するのであった。

 砲弾とモビルスーツの装甲がぶつかり合って、夜の闇のなかに鮮やかな閃光を発生させる。ミシェルは、ザクたちの装甲に火花が散っていることに気がつく。

「……当たっているのね」

「そうですなあ。これぐらいの距離なら、うちの2番機と3番機は、酔っ払っていたって確実に当てますぜ!!まあ、遠距離の砲撃だけで沈められるほど、ジオンのモビルスーツはやわじゃありませんがね!!」

 ……元・同胞たちの装備を褒めているのね。気持ちは分からなくもないけれど、何だか腹が立たなくもない。

「いいかしら、隊長。この私の敵を褒めないの!!」

「ハハハ!!いい言葉だなぁ……ミシェルさまの敵か」

「その通りでしょう?……ヤツらには、直接的な恨みなんて持っちゃいないけどね……この私に、砲弾をぶっ放しているという事実は、看過することなんて出来るワケがないでしょう!?」

「ええ。たしかに!!たしかに、その通りですぜえ、ミシェルさま!!……貴方の敵は、死ななければならん!!オーガ4、狙撃しろ!!」

『了解!!120ミリを使用します!!』

「4号機……?」

 ミシェルは端末に表示されていた4号機の位置を確認する、4号機は、北側に回り込んでいた。南側から攻撃している自分たちに、敵の注意を引きつけておきながら……『本命』の攻撃手は北の砂丘の上に寝転がっている。

 4号機の装備は、ライフルだった。ビーム・ライフルではなく、120ミリの太さを持つ巨大な砲弾を放つための、電磁式のライフル。その長大なライフルが、砲身に紫電を奔らせたと思った次の瞬間―――砲弾は放たれていた!!

 ギュガアアアアアアアアアアアアアアアアアンンッ!!

 耳をつんざくような、どこか悲鳴を連想させる音をミシェルの耳は聞き届ける。それはライフルが放った砲弾が、ザクの胴体を貫いてみせた音だ。

 ザクが、爆炎を血のように噴き出しながら、ゆっくりと沈む。ミシェルは悟った。破壊されたその部分は、自分が搭乗している『グフ・カスタム』で言えばコックピとがある場所だと気づいていたのだ。

「殺したのね」

 自分でも想像していた以上に、冷静な音色を帯びた言葉が口から出た。ミシェルは、それもまた自分らしいと認識する。

 隊長は部下の働きと、ミシェルの態度に興奮気味であった。

「ええ、動き始めていた機体ですからな。間違いなく、あそこにパイロットは乗っていやしたぜ。乗り手も、動かすための操縦機構も、どちらも破壊した。パイロットもモビルスーツも、同時に殺したってことですよ」

「見事よ、オーガ4」

『はい、お褒め頂き、ありがとうございます、ミシェルさま!!』

 ……ああ、ホント。サイコーだ。やっぱり、オレたちのいい飼い主になってくれそうだぜ、ミシェル・ルオさまはよ。

 隊長がそう考えたその時、モニターに砂嵐が発生していた。

「今の、何?……攻撃を受けたのかしら……?」

「……いいえ。伝統的なモビルスーツ戦用の戦術ですよ」

「ちょっと、隊長。具体的に言いなさい。私はモビルスーツ戦に詳しい女じゃないのよ!」

「ミノフスキー粒子を散布されました。レーダー機器は90%死んでしまいます。ここからは、機械の補正は無し。パイロット同士の、技能の勝負になりますぜ!!」


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