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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT207    『嘘の代償』


 ジオン公国の支配者たち―――ザビ家の者たちは、地球連邦政府の邪悪な考えを、よく把握していたのだろう。ヒトの欲望が世界をどう支配しているのか、そのことを彼らは熟知していた。権謀術数を使いこなす、スペースノイドが生んだ、邪悪なる一族。

 彼らは、地球連邦政府の本音につけ込むことで、多くの戦闘を有利に動かし、圧倒的な戦果をあげつづけたのである―――もしも、ホワイトベースという実験の場で、アムロ・レイによるガンダムの実戦データの回収が成されなかったら?……地球連邦軍の初めての主力モビルスーツ、『ジム』の開発は大きく遅れていただろう。

 そうなれば、地球連邦軍はモビルスーツの脅威に太刀打ちすることもないままに、ジオン公国軍のモビルスーツ部隊の前に、敗北を喫していた。アムロ・レイの果たした役割は、地球連邦のスペースノイド支配を30年近くは長く継続させることになる……。

 ジオン公国の敗北が、果たしてコロニー諸国家群を含む、地球圏の未来に正しいことであったのかは、歴史が下す裁きを見守るしかない状況ではある。しかし、アムロ・レイがいなければ、ジオン公国軍の攻撃的な戦略は、地球をより深刻に傷つけていたことは確かだ。

 アムロ・レイという人物は、若い頃も大人になった後でも、地球の自然を守ることに大きく貢献した人物であった。

 ……さて。ジオンのコロニー落とし。

 それを予言した三人の子供たちは、『奇跡の子供たち』と呼ばれた。リタ、ミシェル、ジュナの三人である。彼らは一年戦争が終わり、地球連邦軍が勝利を飾った年、オーガスタ研究所へと連れ去られた。

 孤児であった彼らのことを、守る大人はいなかった。孤児院の経営者も、多額の金銭を積まれては、地球連邦軍に逆らうこともない。戦中のドサクサに横行していた、人身売買の悲しい事例の一つであった。

 ……アムロ・レイというニュータイプの存在を、連邦政府は恐れた。ヒトの革新、ニュータイプ。それは、皮肉にも、ジオン公国が掲げていた、思想家ジオン・ズム・ダイクンの言葉の体現者であったのだ。

 敵の思想を最も、体現する、地球連邦の英雄アムロ・レイ。その存在は潜在的な政治力を秘めていた。もしも、彼がジオン公国の兵士としてあの戦争に参加していれば?歴史は大きく変わっていただろう。

 ジオン公国は勝利を果たし、ヒトの革新、アムロ・レイと……彼に唯一匹敵することが可能であったシャア・アズナブル。二人の英雄に率いられて、ジオン公国は別次元の展開を見せていたかもしれない。

 ……ただ一人の男が、サイド3ではなく、地球に生まれていたことで、100年近く存続している、絶対的な権力機構……地球連邦の存続が左右されていたのだ。その事実に、地球連邦政府は恐怖し、アムロ・レイを軟禁状態に捕らえた。

 その一方で、アムロ・レイが戦場で見せた、絶対的な戦闘能力を欲しようともした。自分たちが否定したニュータイプとしうヒトの革新を、自分たちで再現しようとした。心を失った、ただの操り人形として制作することが、彼らの夢であり……その悪しき欲望の犠牲となった子供たちの中に、『奇跡の子供たち』も存在していた。

 だが。

 ニュータイプの力の起源など、解明することは叶わなかった。生まれ持った力を持つ者を見つけることしか出来ない……兵器として量産するには、技術が足りなすぎた。

「……また脱走を図ったか。強化された体のせいで、大人でも手こずってしまう……っ」

「なんなら、足を切りましょうか?手足がなくても、脳と脊髄させ無事ならば、研究に対して支障はまったくありませんよ」

「……ふむ。しかし、それは……」

「ジオン側の技術者から得た情報ですが……手足を切断し、その神経断端に機械を接合することで、パイロットの脳波を直接的な神経伝達信号へと変換することも可能なのですよ。そちらの方が、脳にも負担は少ない。長持ちして、より多くの研究成果を残すでしょう」

「モルモットどもを、有効活用する方法か……」

「そうです。切断してみませんか?……ものは試しです。拒絶反応など、薬で抑えてしまえばいい。しばらく生きて、効果を出せば、処分しても問題などありはしませんから」

 その言葉を聞いたミシェルは、ジュナとリタを巻き込み、一つの大きな嘘を構築する。リタが真のニュータイプ能力者であることをバラし、自分はニセモノとして、ニューホンコンに対しての、ティターンズによる破壊活動の代償として、ルオ・ウーミンに提供される『ニセモノのニュータイプ能力者』となることを選んだ。

 ……本物のニュータイプ能力者の脳を傷つけることなど、無いはずだった。リタを守り、ミシェルは自由を得て……ミシェルは二人に自由を与える。そんな計画であったのだが、オーガスタ研究所は、本物のニュータイプ能力者の脳にさえ、手をつけてしまった。

 リタ・ベルナルの開頭手術は行われて、機械との接続を有利にするために、幾つかの記憶と思考を司る領域の脳皮質が取り除かれることになる……。


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