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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT189    『不死鳥狩りに備える者たち』


 ブリック・テクラートが私室に戻り、地上へと連絡を入れた頃……ミシェル・ルオの予言が正しかったことを知ることになる。ステファニー・ルオの死が確認されたという情報が、数分前に届いていたということを知らされた。

 その事実は、彼を驚きと感動を与えてはくれたが、彼は冷静さを失うことはない。前もって用意されていたミシェル・ルオがステファニー・ルオの死を悼む映像を公開しろと、ニューホンコンにいる部下に伝えていた。もちろん、その他の指示も出していた。

「……各種のネットワーク上に、ミシェルさまへの同情を訴えるメッセージを書いて下さる人物を、大量に用意して下さい。あとは、地上にいるジオン残党に対して、攻撃的な意見を貫いて来た保守派の論客を使うよう、テレビ、ラジオ、新聞、あらゆるメディアに圧力をかけて下さい。世論を誘導し、印象を操作しますよ」

 ……印象操作が金で買える時代になってくれたことは、封建主義の復古であろうな。ブリック・テクラートはそんなことも考えた。

 民主主義など、とっくの昔に金と権力に淘汰されているのだ。権力と金を有した者たちが、金をばらまき思いのままに世論を操る。それが可能となっている世界で、選挙でヒトが意志を示す意味や力など、もはや存在してはいないのだ。

「……そんな時代だからこそ……ヒトは、神に等しい能力を持つ者に……憧れを抱くのかもしれません」

 仕事の合間に、疲れた身体を無重力に浮かばせながら……ブリック・テクラートは、自分の罪悪感を癒やしてくれるためかのような言葉をつぶやいていた。

 ……優生学的ではあるが、行き詰まりを抱えたヒトの世界を、新たな段階に導く存在がいてくれたなら……ヒトは、もう少しこの世に生まれた意味を確かなものに感じられるのではないだろうか。

 汚染された地球に、貧困に閉塞するコロニー……火星では、暴力の応酬が続く。この下らない世界を、もっとマトモなモノに改造するほどの力があるとすれば……ニュータイプのような、超人の存在なのかもしれない。

 ブリック・テクラートは、そんな風に自分が期待していることに、数ヶ月前から気づいていた。

「……私も、新たな力に惹かれている、欲深い者の一人なのでしょうか?……ですが、私はニュータイプになりたいわけじゃない。より優れた種族に導かれた人類が、偉大なる歴史を作り上げることを望んでいるだけなんですよ……」

 ミシェルさまと、ルオ・ウーミン会長の子……その子が支配し、導く次世代のルオ商会。国家よりも大きな力を、その子が継承することになれば……ブリック・テクラートの理想は叶えられるかもしれない。

 そう思えば……どんなヨゴレ仕事を成すことにも、全く抵抗を感じないでいられるのだ。

「…………さて……仕事に戻るとしましょうか。フォン・ブラウン市に入るまでに……成し遂げてしまわなければならないことも、たくさんあるんですからね―――」

 ―――ブリック・テクラートが多忙な状況にある中、モビルスーツ・パイロットたちは壮絶な戦闘訓練を行っていた。

 彼らは、自分たちを襲わせたステファニー・ルオの死について聞かされたところで、鼻で笑い、ざまあみろ、という言葉を使うのみのことだった。『不死鳥狩り』を成すために、集中している。

 シミュレーターにつながれて、薬物と誘導暗示の影響下にある脳の元に、120種類の基礎的なマニューバの再確認と、その精度の向上。さらには、『不死鳥狩り』のためにデザインされた連携行動の徹底的な覚え込みを課せられている。

 疲労で嘔吐し、キツさで自然と涙があふれ、ストレスで頭痛がし、肉体は強烈なGのせいでボロボロになるような特訓が続いていた。

 スワンソン大尉は、肋骨を痛めているせいでシミュレーターには乗れない。だからこそ、彼はモビルスーツ・パイロットの育成能力をいかんなく発揮出来ていた。知性と経験値を持つ彼は、指導者には向くのである。かなりのスパルタではあったが……。

『いいか?戦闘では負けちまったが、技術で劣っていたとは思ってはいない!オレは、強さは足りないかもしれないが、技術は誰よりもある方なんだよ!基礎的なマニューバの精度向上なら、オレのメニューが宇宙で一番だ!!』

 まるでサディストのようだなと、双子はシミュレーターにつながれながらスワンソン大尉へのイメージを構築していった。もっと、弱そうで絡みやすいヤツかと思っていたのに……マジメでやんの。

 スワンソン大尉は、自分の技術力を見せつけようとするかのように、的確かつ辛辣なダメ出しを若手パイロットに与えていった。若手パイロットたちは、その過酷な指導に対しても、どうにかついて行くことに成功している……。

 とくに、ジュナ・バシュタ少尉の成長は著しい。宇宙に上がったことで、パイロットとしてのセンスが磨かれているのか……ニュータイプとしての感覚が研がれているのか。それとも、幼なじみに近づけたというモチベーションからか。

『……悪くないぞ。全体的に、上の下ってカンジだ。トータルでこの成績は出せるもんじゃない。お前は、弱点がないな。強みも、無いが…………もしも、ナラティブよりも、いいモビルスーツに乗れば、お前は、もっと化ける』

「……私のガンダムの悪口を言うな」

『ああ……すまんな。だが……いい考えだ。愛機を信じろ。好きになれ。そうすることでしか、限界ってのは超えられないぞ』


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