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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT188    『訃報』



 ステファニー・ルオの『行方不明』は当然ながら世界的なニュースとなった。ルオ商会はその対応に当たらねばならなくなり、ニューホンコンの重鎮たちは多忙となる……彼女の不在が、ルオ商会の経営にダメージを当てることを、もちろん彼らは喜んではいないのだ。

 しかし、ミシェル派に組みした長老たちは、前もってこの事態が起きることを理解していた。下がるルオ商会の株価を、彼らの個人資産が買い支えをした。

 それは、ステファニー・ルオ暗殺によるダメージを最小限に抑えることにも役立ったし、ミシェル派の長老たちがルオ商会全体に持つ影響力を強めていくことにもなるのであった。

 ……ミシェル・ルオが新たな当主へとなった瞬間である。

 地球から、姉の行方不明の情報を受け取り、その後のルオ商会の動きを把握しつつ……ミシェル・ルオはフォン・ブラウン市へと向かう輸送船の中で、自身がまた罪に穢れてしまったことを知りつつ……それゆえに強さが増したことを理解もする。

「……地球で一番の経済力を持つ身分になっちゃったわね……」

 無重力に浮かびながら、ミシェル・ルオはブリック・テクラートへと問いかけた。眼鏡をかけた彼女の秘書は、冷静さを完璧に装いながら返事をしてみせる。

「ええ……すべて、計画通りです。隊長たちは……理想的な行いをしたようです」

「……彼らは?」

「二人が戦闘で死亡した模様です。四機の内、二機のパイロットが戦場から消えたという情報が入っています……そのうちの一人は―――」

「―――隊長でしょうね。死ぬような人じゃないもの……私ね、ブリック」

「なんでしょうか?」

「母親になってから数十時間だけど」

「……検査では、無事に着床している模様です。ご安心下さい」

「分かってる。この子のことは、心配していない。私とお父さまの遺伝物質が絡み合って生まれた子……次の世界の王さまに育てあげるわ……」

「そうするべきです」

「……ええ。そっちは心配してはいないの。それでね……この子がいるせいか……あるいは宇宙の無重力が私の感覚を研いでくれているのか……感覚が鋭くなっているのよ……」

「……ニュータイプとしての力が、強化されていると……?」

「そうね。今朝、占っていた通りの情報が……次から次にやって来る。株価の下がるタイミングと、上がるタイミング。どの銘柄に、それらのリズムが起きるのか、八卦でも、タロットでも、全てが的確に当たるの」

「それは……スゴい能力ですね。ですが、今までも似たようなものでした」

「私は知力と人脈から来る情報量で、予測を立てて来た……占いにも頼ってはいたけれど……ここまで、占いだけで全てが当たることはなかった……でもね、私には、少しだけ刻が見えるようになったのかもしれない。きっと……」

「……母親になったからだと?」

「宇宙で生まれた命が、私に力を貸してもいる……お父さまとの間に作ったこの子が、私を導こうとしているような感覚があるのよね……」

「……子供の感性は、強いものですが……母体にも影響を起こすことがあるのでしょうか……いえ。ニュータイプの能力は、解明されてはいませんから……何が起きたとしても、おかしなことはない……」

「私の直感よ。そこまで信じることも、真剣に考えることもないわ」

「……了解です」

「業務をこなしなさい。イメージ戦略を張るの。私がステファニー・ルオの死を悼むビデオ映像を流して。号泣しているヤツをね……その後、泣き腫らした瞳で、毅然としたメッセージを流すの。私と、ルオ商会へのイメージを良くするわ。ルオ商会はテロには屈することなく、地球連邦政府と連邦軍を、これまで以上に力強く支持するとね」

「……しかし、それはステファニーさまが『行方不明』の状態ではなく、『死亡が確認』されてからだと……?」

「……貴方が地上とやり取りしている内に、連絡が来るわ。地球連邦軍からね。ステファニーお姉さまの遺体は、もう何時間も前に見つかっている。その遺体が、お姉さまのものかどうかを確認する作業も、完了済みよ……」

「……それも、占いですか?」

「いいえ。今のは、お腹の子がそうだって教えてくれたのよ。そんな直感がするってだけよ……でも、必ず当たるから、動き始めていなさい」

「……了解しました」

 ブリック・テクラートは、いつもの冷静な顔でミシェル・ルオに返事をしていた。そして、ゆっくりと床を蹴り、無重力の世界でドアの隔壁へと向かう……。

 ドアが開き、ブリック・テクラートは通路に身を投じることになった。彼は、通路の壁を走る手すりに、どうにかこうにか掴まってみせる。そのまま、その小さな手すりに導かれるようにして、通路を進んでいく……。

 冷静沈着な彼は、慌ててはいない。ステファニー・ルオの死についても、ミシェル・ルオが予言者めいた言葉を使ったとしても―――信じているのだ。ミシェル・ルオは、真のニュータイプへと覚醒を果たしたと……。

 超常的な感知能力を用いて、世界を見渡す能力を獲得した。古い言葉を使えば、千里眼……そんな能力が彼女には宿ったのだろう。

 スゴいことだ、彼は珍しく心を感動に躍らせている。彼もまた、ニュータイプの能力に見せられた男の一人であった。

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