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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT190    『翼斬り』


『限界なんて超えちまったら、死んじまうんじゃないかー?』

『そうだぜ。常識ってヤツを考えろよ?鍛えただけ強くなれるとか、嘘っぱちだぜ』

『いいからやれ。文句を言っていられる余裕があるってことを、オレに知らせちまったんだぜ、双子ども』

『くそー』

『はかられた気持ちだぜ』

「……まったく。強化人間もどきの私でもキツい訓練なのに……ッ。あの双子のバカどもは、何で元気なのよ」

 ジュナ・バシュタ少尉は呆れながらも感心してしまう。双子って、不思議なパワーとかあるのかしら?……幼少時に読んだことのある物語が頭に浮かぶ。ファンタジーな物語であり、あの頭の悪そうなガキみたいな大人とは、あまりにも異なるが……。

「……遺伝子が同じだと、共感性とか高いのかしらね?……感応波も、もしかしたら同じなのか……?長年、つるんで来た経験以上に、行動が遺伝子に定義されちゃうとか?……それって、面白いけど。遺伝子ってものに、あまりにも囚われ過ぎている気がするわね」

 人の意志を遺伝子が凌駕する……そういう考え方って、あまり好きじゃないかもしれない。でも、そういうコトが合理的で正しいって考える人たちもいるのよね。

 ジュナ・バシュタ少尉はシミュレーターのなかで、クイックアウト・パターン・マニューバから牽制射撃という北米式の教本通りの動きを繰り返しながら、そんなことを考えていた。

 疲れ果てているのだ。だから、脳が現実から逃避するために、訓練行動とは全く異なる発想をしているんだわ。でも、集中力を欠いた状態でも、マニューバは精密さを失わない。それって、体に精度がすり込まれているってことかしらね。

 スワンソン大尉っていう人物は、引退後もいい教官として尊敬を得られると思うわ。HUDに表示されたカール・パターンを実行する。カール・パターンは軌道こそ緩やかなターンだが、スラスターを絞れる技術的な動作を組み込むことで、背後から迫っていた敵に加速しながら接近することが可能だ。

 よく使われるのは、ビーム・サーベルによる近接攻撃。モビルススーツは機能以上の動作を行える存在ではない。兵器っていうモノには状況に応じた最適解がある。パイロットと機体が許せる範囲の最適が。

 その動きを超えられた人物なんてのは、ほんの一握りだ。アムロ・レイとかシャア・アズナブル……でも、両者のマニューバも解析が進んでいる。マネすることは難しいけれど、やろうと思えば出来る。シミュレーターの中では。

 このカール・パターン・スラッシュも、元々はアムロ・レイが考えたものだ。戦闘の最中に思いつき、実践して見せた。基礎的な動作の組み合わせに過ぎない。シンプルで、敵にも読まれるだろう。だが、それがこの動きの売りでもある。

 敵に読まれるということは?

 敵に反応を強いることが出来るのだ。

 アムロ・レイの上手いところは、そこでもある。気体の反応勝負に持ち込めば、より格闘戦能力に長けた機体が圧勝するに決まっている。このマニューバに敵を引き込めば、一年戦争時におけるガンダムに勝てるモビルスーツは敵にはほとんどいなかった。

 いるとすれば、ギャンという機体……マニアックな機体だけど、あれは白兵戦の能力ならばガンダムよりも上だろう。アムロ・レイが倒したという記録があるけれど、ビーム・サーベルの二刀流なんてマニューバを使いこなせるアムロ・レイが異常なだけだ。

 アムロ・レイはニュータイプとして優れている以前に、敵の兵器に対する洞察が優れている。エンジニアの血統らしいから、そうなったのかもしれない。私は、パイロットの血統だけどね。そこだけは、私があのやさしげで気弱な怪物よりも勝っている。アムロの親父よりも、私の親父の方がパイロットとしては上だったの。

 私にはその血が流れている。

 代々のパイロットだ。だから、きっと……私は空と、宇宙にも愛される。

 ジュナ・バシュタ少尉はシミュレーター上に現れたギラ・ズールに、サーベルによる攻撃を繰り出す。上下反転しながら、錐もみ状で敵機を切り裂くマニューバ。

 ジュナ・バシュタ少尉と、ナラティブガンダムだけが使えるマニューバだった。

 天才たちには、一瞬でマネされるかもしれないけれど……この動きなら、回避しながら攻撃して、その上、背後も奪える。カウンターを仕掛けなきゃ倒されるし、カウンターを仕掛ければ機動が鈍る。弱いナラティブに見つけた、私の最適解よ。

 これなら、圧倒的な速度差だって、思考時間のせいで奪われるでしょ?……その上、背後を狙える。リタ、お前のフェネクスが光りの速度を出せたとしても、この絡みつくナラティブのマニューバの前では、そのスピードも殺せる。迷い、戸惑ってくれ。そうすれば、光速を生み出すための翼だって、私の剣が切り裂いてみせる。そうなれば、お前を鹵獲することは難しくなくなる。

 ……可能性がゼロに等しいってことは分かっているけれど。それでも、フェネクスのコクピットを回収したい。お前を、回収したい―――生きていてくれ。そしたら、神サマだって信じてやる。でも……死んでいたとしても、お前に会わせてくれ、リタ。幻影ではなく、死体としてでもいいから、お前にこの指で触れたいんだ。


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