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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT130    『シナンジュ・スタイン出撃』




 モビルスーツ・デッキにやって来たゼリータ・アッカネン大尉は、自分のために用意されたモビルスーツ、シナンジュ・スタインを恍惚とした貌で見つめるのだ。やはり、この機体は美しい!!

 ……スタイリッシュでありながら、力強さも感じる。要らないモノがなく、洗練された形状。私をその胸に抱くには、相応しい殺戮機械だ。

 満足げに笑うゼリータは、そのままコクピットへと乗り込んでいく。髪を素早くまとめると、いつもの位置に置いてあったヘルメットを頭にかぶるのだ。

 パイロット・シートにその身を預けて、右目のサイコミュを起動させる。シナンジュ・スタインはサイコミュが放った感応波を受けて、すみやかな目覚めを完了させていた。

「……私が先陣を切るぞ。私を優先して、発艦させろ!!」

『了解!!シナンジュ・スタインの移動を開始します』

 シナンジュ・スタインがモビルスーツ・デッキに備え付けられているエレベーターにより下がっていく。エアロックの門を三つ越えて、カタパルト・デッキへと辿り着いていた。

 カタパルトにシナンジュ・スタインの足底を設置すると、ゼリータ・アッカネン大尉はニヤリと唇を大きく歪めていた。

「ああ、いいカンジだ。空気が無くなり、電流がそこら中を走っている!……この感覚、リニアレールに乗らされて、磁界を肌に感じる瞬間。ゾクゾクする……」

 水に濡れた犬がするように、大げさな身震いをしながら、ゼリータ・アッカネン大尉は恍惚の表情を浮かべていた。

 愛してやまない感覚が、彼女には幾つか存在している。女の肌。あえぐ声。敵の断末魔、モビルスーツが放つ、水素のピンク色の爆裂―――。

 ―――むろん、それらも大好きであるが……出撃前のこの感覚は、微細な金属粒子の粉塵が空気に混じり、それらが鉄臭く電流を帯電している空間に融け合うことは、最高に気分を昂ぶらせてくれるものだ。

「まったく、これだから、モビルスーツのパイロットは、やめられないよねェ!!……ゼリータ・アッカネン、シナンジュ・スタイン、出るぞッ!!」

 シュイイイイイイイイイイイイインンンッ!!

 金属が擦過する歌を放ちながら、灰色のサイコフレーム・モビルスーツ、シナンジュ・スタインが母艦から弾丸のような加速を与えながら解き放たれる。

「……くくく!……この五体を揺さぶり、破壊し尽くそうとしてくる、重力加速度っ!!これも、私は愛しているぞ、シナンジュ・スタイン!!……お前も、大好きだろう?狭い棺桶みたいな艦内から、どこまでも広い宇宙へと解き放たれるのはァ!!」

 彼女の赤い右目が輝いて、シナンジュ・スタインは強力なブースターから青い高熱の火焔を噴射して―――高速の世界の住人へと至る。推進力に揺さぶられながら、ゼリータ・アッカネン大尉の赤い瞳は、HUDに映し出されたターゲットの影を睨みつけていた。

 『フェネクス』。

 ユニコーンガンダム3号機は、廃棄された資源採掘用ステーションがこびりついた直径250メートルほどの隕石に……小惑星に隠れているのだ。その態度は、機能停止。

 死んだフリをしているのか?

 あるいは、エネルギー切れなのか?

 もしくは、小賢しくも何らかの手段でエネルギーを吸収しているのだろうか?

 光速で飛翔することが出来る機体らしい。サイコフレームが発揮するらしい超常現象であるが、そのエネルギー源は何だ?パイロットのニュータイプとしての能力か?

 あるいはサイコフレームそのものがエネルギーを放ちながら朽ちているのか?……それとも、より高次元の世界からエネルギーを引き出している……?

「どうであれ、その性能をこの物理法則に縛られている世界で使うのにはさァ……ちょっとやそっとじゃないムリがあるのって、当然のことだよねェ……?」

 世界は、そんなに甘くはない。軌跡の力を、いつまでも許しているとは思えない。お前だって、限界があるんじゃないのか、『フェネクス』?……だからこそ、そうか……お前は待っているのか?

「……目的を達するための、条件がそろうタイミングを……可能な限りエネルギーを温存させながら、待っているわけだ。お前って子は……健気なヤツだなァ。だが……何が目的なんだ?……教えてくれよ、ユニコーンガンダムちゃんようッッッ!!!」

 シナンジュ・スタインが、主武装兵器であるハイ・ビーム・ライフルを構える。

 ミノフスキー粒子こそ無いものの、坑道だらけにされている小惑星は、その表面に張りついている採掘ステーションを始め、遮蔽物だらけである……通常なら、狙いをつけることは不可能だ。

「しかし、このゼリータ・アッカネンさまはなァ……ちょーっとだけ、スペシャルなんだよねェ!!……これで、終わりになんかならないでくれよ、『フェネクス』ちゃん!!」

 バシュウウウウウウウウンンッ!!

 大型ビーム・ライフルから、破壊のエネルギーに暴れる光の奔流が射出されていく。その光は、採掘ステーションの輸送機発着ベースの裏側に隠れていた『フェネクス』に対して、精確無比な軌道で迫っていた。


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