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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT131    『金色の翼』




『高エネルギー反応!!シナンジュ・スタインが、ゼリータ・アッカネン大尉が攻撃を開始しました!!』

 無線がオペレーターの焦りに張り詰めた声を届けてくる。エリク・ユーゴ中尉は眉間にシワを寄せる。

 ……私たちとの合流前に、攻撃を開始するなんてね。どうせ攻撃するなら、一斉射撃の方が有効でしょうに―――そうか、ゼリータは、『フェネクス』に対して劣等感を抱いているのかしら。

 本物のニュータイプに、ユニコーンガンダムの最新型だから……。

 エリク・ユーゴ中尉は知っている。シナンジュ・スタインは元々、地球連邦軍から奪取された機体だということを……その機体は、νガンダムの設計遺伝子を引き継ぎ、ユニコーンガンダムたちへの繋ぎとなる世代だった。

 ……プロトタイプ。試作機―――言い換えれば、『ガンダムになり損なったモビルスーツ』。そんな立場だから、それに感情に移入しているのね。

 そして、その機体を使ってこそ、倒してみたいと願っているのかもしれない。力を証明し『本物』になりたがっている。

 伝説を帯びた存在に、シャア・アズナブルやハマーン・カーンのような高みに、シナンジュ・スタインと共に上り詰めたいのかもしれない。出世欲というか……存在証明の願望みたいなものね。

 最高の強化人間、シャア・アズナブルやハマーン・カーンに匹敵する存在になるため、幼少期から全てを捧げて来た……捧げさせられた、ゼリータ・アッカネンの生きざまそのものかもしれない―――。

「―――勝たせてあげたいけど……連携は、すべきですって、いつも言っているのに!!エリク・ユーゴだ!ギラ・ズール、出るぞ!!」

 共和国軍艦から、ギラ・ズールが発進して行く。宇宙の真空を貫くように高速で飛翔していくモビルスーツのなかで、エリクは爆散していく質量を見た。

 ゼリータの操るシナンジュ・スタインが放った、特大のビームの一撃は採掘ステーションの一部を完全に破壊してしまっている。

 戦艦の主砲並みの威力は十分に出せる大型のビーム・ライフルの砲撃なのだ。アレぐらいの威力は出ても当然ではあるが……。

 部下のパイロットたちが、エリク・ユーゴ中尉に通信を使って呼びかけてくる。このチームの事実的な指揮艦は、彼女なのだ。

 暴走気味で攻撃に傾倒しているゼリータ・アッカネン大尉よりも、彼女のほうが冷静に戦場を分析し、兵士たちの指揮も執れるのだから。

『……中尉、あの一撃で、決まったんでしょうか?』

『資源採掘用の小惑星に大穴を開けるほどの威力ですが……』

『もしも、ターゲットを破壊してしまったら、この作戦は失敗になるのでは……?』

「……あの一撃で終わるほど、フル・サイコフレーム・モビルスーツは甘くはないでしょうよ。アッカネン大尉は、戦闘への集中力を切らしてはいないわ。必ず、まだターゲットは無事なはず。接敵に備えて、警戒しなさい……最速時は、ほとんど光速を出す敵よ」

『光速……攻撃しようが、ありませんね』

「ええ。でも……常に光速を維持出来るとは限らない。この宙域に止まっていた。そのことに意味があるというのなら……そうすぐには離脱することもないはず」

『……ヤツは、待っているのでしょうか、この宙域で、何かを?』

「そうね……ただの民間コロニーしかないジオンからも連邦からも中立の領域よ。ここにヤツが目的にしなければならないようなモノは、存在しないはず……軍事的な緊張を煽らないために、ここに来たとすれば……パイロットの意識は、まだ残っているのかしら」

 ……両軍の勢力下ではないこの場所なら、大きな紛争の引き金にはならないと考えていたとするのなら……それは、何ともパイロットらしいというか、軍人らしいモノの考え方ではあるわよね。

「……何にせよ、大尉の援護を―――っ!!」

『レーダーに感、有り!!……『フェネクス』は健在!!アッカネン大尉!!攻撃されます、気をつけて下さい!!』

『くくく!!そう来なくてはなァ、『フェネクス』よ!!あのまま、お前のような怪物が終わるハズがないもんなァあああああああああッッ!!』

 ビービービービー!!

 高熱量を感知して警報が鳴り響いている。ビームが来る!?……エリク・ユーゴ中尉は実に合理的な判断としてそんな予想を立てて、『フェネクス』も定石通りにビームを放っていた。狙ったのは、シナンジュ・スタインだ。

 収束の甘い、荒々しいビーム砲撃であったが、シナンジュ・スタインはそれを軽やかに回避していた。あの距離では、たやすくシナンジュ・スタインに当てることは出来ない。

 安心する―――が、レーダーの反応よりも、肉眼が脅威を先に捕らえていた。

 破壊された資源採掘用ステーションの残骸のもやを貫くようにして、金色の機体が宇宙の闇に色を与えていた。ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』は、まばゆいまでの金色を装甲に宿している……。

『出たなあ!!うつくしきかな、『フェネクス』ゥウウウッ!!さあて、私と、このシナンジュ・スタインと技と能力を惜しみなく注ぎ、戦おうじゃないかッ!!』


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