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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT129    『赤い瞳が見た不死鳥』




 歪んだほどに笑う美貌は、天井を見ていた。少なくとも、エリク・ユーゴ中尉にはそう見えるのだが―――私には見えないモノを感じているのね、ゼリータは……。

「……見えるぞ!!……近づいているんだ。そろそろ、バカどもも気がつく」

「バカども、ね……」

 自分の部下をそう呼ぶのは、あまり良くない態度だとは思うが……強化人間の水準からすれば、たしかに、ジオン共和国軍の精鋭だって大して強くは思えないだろう。

「我々のチームは、とても有能な部隊ですよ」

「……ああ!分かっている……そう評価すべきだろう。客観的に見て、うちのボンクラどもは、それなりには優れているからなァ……ほーら。始まるぞ、エリク」

 ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンッ!!

 けたたましい警報音が、本能を無理やりに叩き起こす。艦内に響いた警報音により、多くの者が眠りから覚まされてしまっていた。

 エリク・ユーゴ中尉は上着を羽織りながら、壁に埋め込まれた端末のスイッチを叩き、マイク機能をオンにする。

「何事だ!?」

『ユーゴ中尉!!標的を発見いたしました!!』

「……『フェネクス』か!!でかしたぞ!!」

「エリク、モビルスーツを用意させろ。私たちも出るぞ。シナンジュ・スタインに、不死鳥の血を浴びせてやろう」

「ええ。全力でかかるべき相手ですからね」

「……場合によっては、『アレ』も使うぞ」

「……っ!?」

「なにを驚いた顔をしている。全力でかかるべき相手だ……まあ、連邦には見つからないようにしなければなぁ……宙域次第では、出すぞ。せっかくの力、出し惜しみしている意味などないんだ」

「……そうね。『フェネクス』を捕らえることが出来なければ、何もかも無意味だもの」

「そういうことだ。せっかく、『袖付き』から機体番号のデータを譲り受けた。私たちは今、ジオン共和国軍ではない―――少なくとも、連邦のモビルスーツからの識別には、そう映るようになっている」

「……そのハズね」

「そうでなければ、『袖付き』との交流も無意味だったな、エリク。ヤツらも、相当に困窮はしているだろう。フルフロンタルが、死んじまいやがったもんなァ!!ハハハハハハハハ!!」

「……とにかく。連邦軍と遭遇した時は、『袖付き』のフリをします。機体も、それっぽく改装したんですからね……」

「分かっている。さっさと、服を着ろ……まずは、前哨戦と行こうじゃないか、『フェネクス』……私の愛機と、どれぐらいのスペック差があるのかなァ?」

 ……ゼリータ・アッカネン大尉は、すでにノーマルスーツに着替えていた。裸のまま、その戦闘用のスーツを着ているようである……。

 彼女らしい、エリク・ユーゴ中尉はそう思いもするが……自分は下着もつけずにノーマルスーツを身につける気にはなれなかった。

 ゼリータは、無重力を愉しみながらも……はやる気持ちを抑えきれないらしい。壁を蹴り、自室から廊下へと向かうのだ……モビルスーツ・パイロットや、エンジニアたちはすでに動き始めている。

 彼らは、ゼリータに気がつくと、律儀に敬礼を返してくる。ゼリータは、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「そんなことしているヒマがあるのなら、さっさとギラ・ズールの準備をしろ。シナンジュ・スタインの脚を引っ張るようなマネをすれば……宇宙の藻屑にしてやるぞ!!」

「了解です!!」

「ただちに、ギラ・ズールの準備にかかります!!」

 敬礼を止めたジオン共和国軍のモビルスーツ・パイロットたちは、廊下の壁を走りつづける無限軌道につながれた取っ手を握りしめて、モビルスーツ・デッキへと急いで行く。

「……それでいいんだよ、一般兵士どもが。媚びを振りまいている余裕があるんなら、武装のチェックをしておかないとォ……怖い不死鳥ちゃんのエサにされちまうぞ」

 瞳を細めるのだ、ゼリータ・アッカネン大尉は。赤い瞳には、知覚している。

 『フェネクス』……ユニコーンガンダム3号機。アイツは……アイツのパイロットは、こちらを認識している。見つかっているのに、逃げない?……どういうことだろうなぁ?

「私を舐めているのか?……出来損ないだから、目の前に姿を現しても、へっちゃら?ああ、もしも、そんな舐めたコトを考えているとすれば……機体を捕まえた後で、お前のことを、切り刻んでやるぞ……不死鳥の飼い主め」

 楽しみが増えた。戦いに勝った後に、敵を痛めつける―――通常なら、エリクが止めに来るだろうが……相手は、もはや常軌を逸したバケモノと化した機体に、長く搭乗している。

 15ヶ月。

 光の速さを出して、タイムスリップでもして来たのだろうか?……そうだとしても、そうじゃなかったとしても。思うことはある。パイロットは、とっくの昔に壊れちまっているさ。

 生きていたとすれば……相当のバケモノだ。連邦の悪しき改造手術が、『フェネクス』のパイロットを変えたのか……。

 それとも、ユニコーンガンダムが見せたという、サイコフレームの異常成長と、パイロットへの浸食行為。その結果、パイロットは時間旅行や高速飛行に耐えるほどの、異常な状態になったのだろうか?

 サイコフレームに取り込まれているとするのなら、尋問には、モビルスーツの装甲を斬り裂くような、特殊なカッターが必要となりそうだ。愉しみだ。そんな形になっていたとしても、悲鳴を上げるのかどうかが―――。


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