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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT097    『シェザール2の劣勢』




 ……白兵戦特化のジェスタと砲戦仕様のジェスタ。敵の1番機と2番機に突撃していたシェザール隊の二人は思わぬ苦戦を強いられていた。

 ジェスタを知り尽くす者同士、お互いの手の内が読めてしまうのも当然のことである。

 膠着状態となり、イアゴ・ハーカナ少佐は『ネームレス1』との近距離戦闘で互角の戦いに持ち込まれ……スワンソン大尉と『ネームレス2』は、長距離でお互いの1番機を援護する役割へと自然に導かれていた。

「……噛み合ってしまったな」

『……はい。幸い、あちらの3人は、自力で敵を排除したようですが……ッ』

「……気にするな、スワンソン。オレたちは、実力ではコイツらよりも上のハズだ」

 そうだ。実力では、わずかにシェザール隊の二人の方が優れている。しかし、機体にあるダメージと、何よりもスワンソンの肋骨の状態が悪すぎた。

 動く度に……戦闘時間が継続する度に、彼の肋骨は呼吸を阻害し始める。鎮痛剤をこれ以上は打てない。打てば、この高機動戦闘に必要な集中力を確保することが難しくなる。

 咳き込む。

 スワンソンは口のなかに血の味が広がっていくのを感じる。折れた肋骨がズレて、肺腑を傷つけている―――そんなイメージを彼は抱いていたし、じつのところ、その医学的な予測は正解だった。

 動く度に、スワンソンの動きは鈍り、それをカバーするためにイアゴ・ハーカナ少佐の乗るジェスタは、『ネームレス1』の猛攻を受け持つことになり、ダメージが蓄積していくという悪循環に陥っていた……。

『……なんてことだ。オレが、オレが……少佐の脚を引っ張っているなんて……2番機失格もいいところですよ……ッ』

「肋骨のダメージが響いているだけだ。お前の得意なのは、本来、その距離じゃない」

 本来のスワンソンならば、イアゴ・ハーカナ少佐の突撃に対して、完璧な同調を果たしてくれる。そのいつもの鋭さが、今日の彼にはない。

 大尉のビームライフルが命中したことによるダメージは機体にはもちろん、スワンソンにも大きい。昔からの古傷も開いたのかもしれないし―――敗北のショックから、まだ抜けていないのかもしれない。

 どうあれ、スワンソンは絶不調の状態だった。

 彼と対面している『ネームレス2』の動きは、活発なものだ。イアゴ・ハーカナ少佐は自分が選んだ相手が、敵の司令塔だということは予想していたし、正解だったのだが……対一番の腕っこきは、2番機の方ではないかと考え始めている。

 ……いや。

 さっきよりも、あのパイロットは動きがいい。スワンソンのマニューバを読んでいる?それとも、たんにオレたちが疲れて、追い詰められているだけか……?まあ、間違いなく、オレたち四人のなかで、いちばん若くて体力のあるヤツは、あの2番機だってことは確かだ。

 砲戦仕様の重たげなモードのまま、白兵戦特化のジェスタと同じような動きをし始めていやがるぜ……成長している?……若手なら、あり得ないハナシじゃない。本来の力を、ヤツはようやく戦場で振るえるようになって来たのかもしれないな……ッ!!

 『シェザール隊』と『ネームレス』の1番機同士が、正面からお互いに斬りかかる!!ビーム・サーベルが交差して、バチバチとエネルギーの反発現象越しに睨み合う。

「……良い若手を育てているな」

『……彼女は、少し特別なところがある』

「彼女?……女の2番機か、うらやましいねえ。べっぴんさんかい?」

『ああ、美人だよ。だが、私は既婚者だ!!』

 サーベルが踊る。イアゴ・ハーカナ少佐の操るサーベルを巻き上げるようにした後で、鋭い突きを『ネームレス1』が連射させてくる!!……脚を使い、後ろへと逃げる。跳んで、跳んで、スラスターを頼った。

 『ネームレス1』の放った連続斬りが刻んだのは、わずかな装甲だけである。

『いいステップワークだ』

「……そちらもな。避けきれると、思っていたんだが……かすっちまったよ……」

『そうだ。しかも、君の動きを支える、脚に私のサーベルが少しだけ入った。君は宇宙では違う動きをするのかもしれないが―――地上では、脚に頼るのが好きだし、とても得意なようだ。さっきまでより、自由には動けなくなるぞ』

「……宇宙での任務が長くてね。地上に帰ると、脚を使いたくてしょうがなくなるんだ。アンタたちは……地上での任務が多いんだろ……?」

『……ああ。アフリカだ』

「そうか。オレは宇宙が7割だ……お互い、ルオ商会に利用されているらしいな」

『……ルオ商会か……なるほど。私たちは、何らかの派閥争いに利用されているのかもしれない。アナハイム・エレクトロニクスに、落陽の兆しが見える……ルオ商会は、世界を統べる企業への道を進もうとしているらしいな』

「……そいつらに利用されている。オレたちは……軍人は、そんなことのために、身内同士で争うべきだと思うか?」

『言いたいことは分かるつもりだ。私も、この任務の正当性に疑問を抱いていないとは嘘になる。だが、命令があり、報酬がある。支えるべき家族もいる……地球の汚染は、日々、深刻化しているのだ……私は、子供や孫たちには……壊滅的な汚染のない土地で暮らして欲しい』

「……汚染の少ない土地。たとえば、ニューホンコン?」

『そこに清浄なる空間があるのだとすれば……私は、お前たちを仕留め……お前たちの護衛対象を破壊することが出来たなら……ルオ商会の誰かに頼めるのではないかな。私の家族を、汚染から救いたまえ。その願いを叶えるためならば、同じ連邦軍の兵士が相手であっても、後悔することはないだろうよ』


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